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記憶の彼方にあるものは  作者: 伊南ヒギリ
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■ただ、透明、一日を充たして過ごす

クレジア聖国南西に位置する海上都市ウルバルス。

そこの中でも最も入り組んだ人気の少ない場所に住む少年がいた。

 彼の名はガリア・シルバート。母と兄の3人で、楽しく明るい日々を過ごしていた。

 仲間意識の強い地区のため、人と人の距離が近いのが特徴なので父親のいないこともあり、いつも近所の人たちが気に掛けてくれていた。

 

 みんなで支えあって生きてるこの暮らしが好きだった。

けれどそんなは日々は終わってしまう。


 

「ガリア!こっち来て手伝え!いつまで、うだうだしてるつもりだ」


 漁師のルフエが声をかけるもガリアは応じず、ただ背を向け、人気のない場所に向かうだけだった。

 

「あぁくそ、最悪だ、、、」


 今はすぐにでもこの街からこの都市から離れたい。

 

 向かった先は海上にある工業地区を支える地盤ブロック、そこに風化によってひび割れできた隙間。お母さんが死んでからはいつもここに来ていた。


 いつものように、引き潮によってできたつるつるの岩肌を慎重に進みながら、そこにいる人を思い浮かべる。


「おっ、ガリア! 見てくれよ、これ!」


 そう言って、ガリア同様滑らないよう気を付けながらも、手に持ったものを早く見せようと急ぎ足で歩いてくる。


「ソウマ、何か見つけたのか」


「そうなんだよ!ほら、これ見て」


 ソウマが持っているそれは一冊の本だった。その本はソウマとの出会いに遡る。




 その日はまだ肌寒く、上着を羽織るか少し迷う、そんな日だった。母さんが最近、流行り病で倒れ、そのため兄さんと二人で看病をしながらそれぞれ仕事をして暮らしていた。


 俺はルフエさんのところで働かせてもらっていた。疲れを感じていたこともあり、仕事帰りにすぐ家に帰らず、砂浜でボーとしようと陸地にあるタイドに向かった。


 砂浜に着いて、波の音を聞きながらリラックスしていたが、打ち上げられた黒い影を見つけた。その影がソウマだったわけだが、彼はいわゆる記憶喪失で名前など憶えていることもあれば、どこから来たのかなど憶えていないこともあった。


「それは本?か」


「そう、だね、これ日記だと思う」


 意識が戻ったソウマと彼の持っていたバックに入っていたものを物色していた時、その本はあった。


「でもこれ、なんも書かれてないんだよな」





「昨日までなにも書かれてなかったのに、ほら!」


 そこにはソウマのいう通り、確かにそこには文字が書かれていた。


 そこに書かれた内容はこのようになっていた。



『1日目

 

 雲一つない青空、暖かな海風が私の気分を高揚させる。季節は移り、私たちは新たな一歩を踏み出す。

 

 海の大地にお別れを』



「えっと、これだけ?」


 俺の疑問にソウマは深く頷いた。


「いつのことを書いてるんだろうな」


 最近分かったことなんだが、ソウマは相当頭の回転が速い。

その疑問にソウマはこの文章からわかることをまとめだす。

「1日目、これは2日目3日目と続いていくを示唆してるんじゃないかな。

それに昨日まで何も書かれてなかったんだから、これからその先が書かれていってもおかしくないとね。

雲一つない青空、あたたかな海風が私たちの気分を高揚させる、ていうのは後ろの文章からも解釈するに季節かな。この文章の書かれた時が暖かくなり始めた頃のこと。

私たちは新たな一歩を踏み出す。海の大地にお別れを、こr」


「海の大地!これウルバルスのことか!」


 ふと頭に浮かび、熱が入る。それにソウマも応える。


「そうなんだよ。そうすると私たちこれは2人以上で、お別れをはこの都市から出発するんじゃないかな。」


 しかし、やはり一つの疑問がついて回る。一体誰のことなのかだ。ソウマは自信満々に言い放つ。


「そりゃあ、僕が持ってた日記なんだから僕たちのことだろ」


 出発の準備だ!と早々に俺を追い出した。突然すぎてついていけなかったが、せわしなく荷物をまとめてるソウマを見て、本気なんだと思った。


 俺だってもうここにいる意味はないわけだし、なんなら出ていきたかった。


 今はもう誰もいない家に久しぶりに軽い足取りでの帰宅になった。

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