□燃え盛る
ケイとロアン、二人の間の時だけが止まったしまったかのような緊張による静けさが漂う。そんな空気に息が詰まるケイであったが、突然の大きな揺れと悲鳴のような声がイドゥリマ中に響き渡る。
何処かで火の手が上がり、段々とイドゥリマに炎が燃え広がりはじめた
「早い、もうばれたかよ」
ケイも何か大変なことが起きているのだと頭では分かっているが、それでも突然の事に体を思い通りに動かせずにいた。その中、ロアンはそう言い落ち着いた様子で素早くケイの個室を出てそのまま廊下を走って行ってしまった。
ロアンの背を見送ってから少しして、やっとの思いで立ち上がったケイもつられるように自分の個室を出たケイは同僚達と共に廊下に出ると多くの研究員が既に出てきていた。
ーここで何が起きてるんだ…ー
その疑問はすぐに解けることになる。
「動くな」
低く響く声が自分たちに向けられていると気づいた時にはその言葉を発した人物が目の前を通り過ぎた。
「逃げたか? 否、まだいる」
白を基調とした青のラインの入ったスーツを着たその男はケイたちを一瞥し、後ろからついてきていたその男の部下らしき人に指示を出してそのままその場から立ち去ろうとしたが一人の研究員が呼び止めた。
「待てよ!あんたらレフテラだろ。イドゥリマになぜいる」
その行動に多くの研究員の背筋が凍りつく。
レフテラとは稀代の天才リゼィド・プリサイズコードを中心に結成された騎士団である。この国に害をなすものを排除する者たちであり、彼らが行動した後の地域は悲惨な状況となるため、誰からも恐れられていた。
また、イドゥリマはそのレフテラと同時期に組織されたということもあり、上層部の仲が良くないようで、結果イドゥリマとレフテラに大した接点はないのである。
レフテラが来ている。それは国にとっての危険分子がイドゥリマ内にいることに他ならないのだ。
「分かりきったことを…直ちに避難しろ。奴らが、アポストルがここに火をつけた。ただの火ではないぞ。急げ!
ドーソン、ここは任せる。」
そう言い残し、今度こそ男こちらに背を向け立ち去る。
その場に残ったドーソンと呼ばれた部下が廊下に出ていた研究員たちに声をかけ始めたが、立ち去った男が言ったアポストルにみな騒然とし部下の声が届いていないようだった。
これ幸いと思い、ケイは走りだした。避難し始めた人たちの反対方向に。
行く先は今日行けなかった地下倉庫のマイスペース。自分の研究資料と器具を回収するために。
しかし、今回もたどり着くことができなかった。
階段を駆け下り、やっと地下倉庫のある階についたと思い一息ついたら、そこにひっそりと壁際に立つ眼鏡をかけた男がいた。先ほど会ったレフテラの男と同じ色合いのスーツを身に纏っていた。
「やっと現れたか、ん」
待ちかねたと全身で表しているようにゆったりとした動きで壁に体重を預けるのやめた眼鏡の男は、ケイと目が合った途端素早い動きで腰に掛かっているホルスターから銃を抜き引き金を引いた。
ケイはとっさに両手で頭を守ったが、体は無傷だった。
「いまのは、なんだ?」
どこも撃たれていなくてホッとしたしたケイだったが、何かを見たらしい眼鏡の人物は再びケイにもう一度引き金を引いた。
わけが分からなかったが今度こそヤバイと思い、今降りてきた階段を駆け上る。今度は脇の下を銃弾が掠めた。そして、ケイのあとを眼鏡の人物が猛然と追いかける。
ーなんで、なんで今日2回も階段ダッシュしてんだ?ー
そう頭の片隅で考えながらひたすら逃げる。