果なき少女
星がよく輝く夜空の下。
薄汚れたローブを着て、奇妙な凹凸が特徴の杖をつきながら湖畔を歩く一人の少女がいた。そこは、この大地にある最大の湖であり、向こう岸がうっすら視える程の大きさだ。
波は穏やかであり、星が水に反射しチカチカと煌めいていた。
彼女は立ち止まり夜空を見上げる。
あれからどれほどの年月が経ったのだろうかと、そう思いながら、ひとり彼方の記憶を再生する。
同世代の人たちはすでに皆死んでおり、ただ一人いまだ歳を取らずに行き続ける彼女にとって、その当時の記憶は何ものにも代えがたい大切なもの記憶だ。
記憶の中では、ここはまだ湖ではなく、人が多く賑わう都市であった頃である。その当時は、彼女も人らしく歳を重ねていっていた。
そして、あの日、今夜と同じくらい美しい夜空の日、星々の輝きを消し去るほどの光の柱が立ち上る。
定められた運命の始まりの日
* * * * *
突如、地面が振動し空気が揺らぐ、
彼女は、慌てて記憶の再生を一度止め、左右で色の異なる目に力を込める。
「まだ、猶予はある…」
少しして、目を深く一度閉じてから、安堵したかのように呟いた。
彼女は再び記憶を再生させながら、それでも歩を止めない。