mullberry
最近、切ろうとしても切れない関係が続いている。
彼女は温泉が好きだ。
お湯につかっているときだけは気分がいいので私もよく話しかけに行く。
喧嘩したときはいつも。だがなにも答えてくれない。
彼女とは2年の間、交際し来年の春に結婚することが決まっている。
だが、そううまくいかないのが儚く脆い人間というものである。
すれ違うことが多くなってきた。切ろうとしても切れない関係が続いている
話すとしたら浴槽から立ったときだけだ。
葛藤と怒りにもう飲まれることはない。
赤くそまった部屋の灯がゆらゆらと水の中で動いているのがわかる。
“はぁ“
ふとため息をついた。
その時、誰かがドアを開ける音がした。
ドアが“ギィィィィ~~”と動く音が廊下に響く。
私は怯えながらも音のなった方へ確認しに行った。
“靴が少し汚れているような…いや気のせいだろう。”
かすかにクワ(mullberry)の匂いがしただけでそれ以外異変は見られなかった。
花なんてちっとも興味ない。花が咲いているのなんて一瞬で
すぐに枯れてしまう。
目の前にあるのを見ているだけで吐きそうになる。
しかし、彼女は花も好きだったのだ。
毎日、花を買いに行っては花瓶に飾っていた。
だが、その時の顔は暗く、心に穴が空いているようだった。
話したいわけではなかった。でも、自然と話しかけていたのだ。
雨で滴るしずくが地面に水たまりを作るように。ゆっくりと
下に落ちていくように。
もう落ちた雫は戻ってこないのだ。それが自然の摂理というものである。
私は決心した。
“もう答えなくてもいい。心が通じ合えばそれでいい。貴女が私を嫌いでも
私はあなたをずっと見守りたい。たとえどんな時でも“
思い出が詰まった部屋には、一枚の紙きれが落ちていた。
“誰かが囁いている”
なにも理解できなかったが、その紙切れを手に握りしめ
私は、自害した。