愛してる
キファント様が近づいてきたので、私は急いで、階下に降りて店の扉の鍵を開きました。仕事帰りのキファント様が、大きな身体を少し縮めて店の中に入ってきました。
急いでいたので、両開きの扉なのに片方だけしか、鍵を開けなかったから……色々焦っているおかしな私がいます。あの、長年の淑女教育が……なんたる事でしょう。
「こんばんは、キファント様お帰りのところ呼び止めて申し訳ありませんでした」
「それはいいんだ……いいんだが、髪がまだ濡れてるぞ……こっちに来い乾かしてやるから。風邪ひくぞ」
キファント様に肩を引き寄せられて、優しく椅子に座らせられました。頭のタオルを取られ、背後から髪を優しく拭われています。ドキドキします……
夜道を歩いていたキファント様の冷たい冷気が、お風呂で温もっている私の身体には気持ちよく、優しくタオル越しに髪を乾かしてくれる大きな手も安心感があるのに、やっぱりドキドキします。
こんなに近くに異性と接しているのが初めてで、どうすればいいのか誰か教えていただきたいです。
「レティの髪は綺麗だな。これは、何色になるんだ? 落ち着いた赤っぽいが、ゴールドみたいにキラキラしてるな。だか、ゴールド程眩しくないしな」
「私の髪はローズゴールドと言われています。少し珍しいらしいですよ。家族にも居ませんから」
「そうか、瞳の深い紫と相まってとても綺麗だな。レティの聡明さと優しさを表しているようだ」
そのようなことを伝えられながら、頭皮を優しくマッサージしながら動く大きな指先は気持ちよくて、気持ちよくて寝てしまいそうになります。
「レティは一人でこの店を切り盛りして偉いな。君の作るものは全てに思いやりと心遣いを感じる。これは、簡単にできる様で出来ないことだと、私は思うよ。
君はよくやっているよ。頑張っているな。いつもありがとう」
タオルで顔を覆われて頭をマッサージされている私は、気持ち良いはずなのに涙がどんどん出てきて、止まらなくて……
嗚咽まで出てきてしまい……とめられない。こんな優しい言葉かけられて、いままで見ないフリをしていた弱いところが露わになってしまう……
髪を乾かしてくれていた手がいつの間にか無くなり、背後から強く抱き締められていた。
「レティ私は君のことを愛している。少しでもレティが心楽しく暮らしていけるように在ればそれで幸せなんだ。君がこの国へ来てくれてよかった。ありがとう。レティ愛してるよ」