キファント視点
私は、獣人国内から見ても大規模な街となるアーティを護る騎士団の騎士団長エレファント獣人のキファント・ファーマンだ。
私が部下達からはじめてレティの評判を聞いたのは半年以上前の事だったな。
「団長! 団長の家の近くに人間の女の子が経営する美味い飯屋があるんですが、近く食べにいきませんか? 昼だけですが、肉食にも草食にも対応する店で、私も一度だけ部下と行ったのですが、申し分ない。何も文句の付け所がない店でした」
「うちの近くにそんな所あったか」
「以前は爺さんが一人で飲み屋をやっていた場所ですよ。年齢も年齢ですから、田舎に帰ってゆっくりした生活するんだと帰っていって、その後空き家になっていた所です」
副団長の熊の獣人バーリが、私の執務室へ書類を出す次いでの世間話から、その話題になった。バーリは食にこだわる男
で、あそこの店はどーだこーだと話してくるが、私は口に入ればそんなにこだわらない方だと思う。
「それでも、あの地区はなかなかの物件価格だろう。女の子が一人ってどーやって」
「それは、私が調べてますよ。人間の、それも女の子一人がある日突然獣人国へやってきたんです。身寄りも何も無くですからね。大金をサラッと出して、宝石等もあったそうですが、とても良い品物で盗品やあやしい品物では無かったそうですよ」
隣で静かに書類選別をしていた会計監査の雪豹の獣人のアーチーが、報告さながらにスラスラ話しだした。
「評判もよく、金回りも良いのなら危険はないのか。獣人と人間では圧倒的に人間が弱い、尚且つ女で一人なのだろう。男でも居るのか」
「居ないようですよ。住居は店の二階です。その場所は貴方の行き帰りの通り道ですよね。できれば通る時に気にして差し上げれば宜しいのでは。
今はまだ大丈夫ですが、じき危険になるかも知れません。見目も良く愛想も良い、持ち物も品がよく。あれは、狙われますね」
「ふぅー これから昼だろう。空いてる者で行くか」
「その店は、八人しか入れませんよ」
「あーだな。狭かったなあの場所は。だったら私達で行くか」
「団長! 行きましょう! もう一度行きたかったんですよね」
と、こんな感じで行ったのがはじめてだった。
以前の私は、食事に関してはほぼ諦めていた。獣人国の食事は味も形も大雑把なものが多く、王都の方は繊細な店もあるが、この辺ではあまり見かけない。
あってもその様な店は人間が作っているのが多いから、よく食べる私には量が少なく物足らない。
だから多めに注文すると、高額な値段を払うことになる。別に払えない事はないが、人間達の私達獣人に対する対応等が悪い風に透けて見える事が多く、せっかくの美味い料理が不味く感じてしまい。二度三度とは通わなくなってしまった。
結果、いつもいくのは獣人の作る大雑把で味の豪快な料理になる。
たまには肉は焼くだけでは無く、少量で良いから味わい深い風味のある物が食べたくなるのだ。
野菜好きな私は、本音を言うと様々な野菜が食べたい。野菜の味が堪能でき尚且つ、多種多様な調味料で味付けした物が食べたい。野菜の本来の美味しさも引き立てつつだ。
王都に帰れば、屋敷の料理長の美味い料理が食べられるから、それまでは我慢だ。別に美食家ではないから、食べれない事は無いしな。文句は言うまい。
アーティで一人暮らしをしてる私はどうしても外で食べないとならないから、こだわる事はしない。自分で料理は全くできないし、仕方のない事だと思っていたんだ。
今現在の私は、昼間時間があるとレティの店へ通っている。
通いはじめて馴染んだ頃。夜、私がレティの店の前を通る時に、ついでに危険がないか安全確認をするのだが、レティはその時間、試作品や仕込み等してるみたいで、偶然私に気づいた時は呼び止め、箱に料理を綺麗に詰めてくれるんだ。
「晩御飯に食べて下さい。試作品なので、感想お願いします」
と、少し荒れた手で優しく手渡してくれるんだ。
私は、手荒れに良く効く薬を翌日急いで取り寄せた。