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危うい足取りで辿り着いたバリケイの家の中は間取り以外、外観の似る村のものとは全く異なっていた。
こざっぱりしているのはルシャの家と同じだが、調度が木製で揃えられている。
基本的には変哲のない部屋だった。しかし野柳はある一点に釘付けになった。
「それかい? 水道とか言ってさ。融和政策のつもりなんだろうね。まぁちょっとしたもんだよ……そのハンドルを捻ってみな」
銀色の曲線で形作られたそれは確かに蛇口だった。興味を惹かれていたルシャが早速飛びつく。
言われた通り捻ると勢い良く水が出てきた。──野柳の知っているように。
「うわ!! 凄い!!」
バリケイは笑ってコップに水を注ぎ、蛇口を締めた。
「魔皇朝が幅利かせて良かったことっていったらこのくらいのことさね。その分税もだいぶキツくなったし……良し悪しかな」
そしてルシャにコップを手渡す。ルシャはおそるおそる口をつけ、一口飲んで顔を輝かした。
「よく冷えてておいしい……!」
バリケイは薄く笑った。
「家具こそ変わったけど、部屋割りは昔とおんなじだから。適当に休んでな。寝室も好きに使ってくれていいし」
「流石に年頃の女性の寝床を借りるのは……申し訳ないというか……」
遠慮がちに辞退する野柳だったが、バリケイは、ああ、とつぶやく。
「父ちゃんの部屋だよ。魔皇朝に人足としてかりだされちゃってさ。今日明日戻ってくるってことは、ないからさ」
快活なバリケイの顔に蔭が差す。
気まずい雰囲気を察してルシャが声を張り上げる。
「師匠!! 遠慮はナシですよ!! 旅は道連れ!! 世は情けってね!!!!」
「だーから、ルシャがいうことじゃないからね」
心遣いに感謝しつつ、大げさに乗っかる。
バリケイは苦笑を一つ置いて家を出た。




