80/82
5-16
外の風景を楽しむような余裕はない。身体の中身をかくはんされる感覚に耐えながら、たまに雑談の相槌を打つ。
無限に続くかと思われた時間だったが、不意に速度が緩み、振動が静まった。
「師匠、もう着きますよ!!」
気づかわしげにルシャが野柳の顔をのぞき込む。
目線を上げて外を見ると、昨日分身を通して見た石壁が遠くに見えてきていた。
出発前に食べたものが、だいぶせり上がって来ていたがなんとか堪え切れそうだ。
と、馬車が停止した。
到着した石壁の表面には一見、くぐれそうな所や、可動する仕掛けは見て取れない。
しかし、馬車を降りたバリケイが手をかざした途端、積み上がった石が、急激に組み変わり、馬車が悠々通れる門を形作った。
ルシャは、頭の布を巻き直し、口元まで襟を引き出した。面が割れているのだ。
門をくぐった先の風景は清冽だった。村で見たのと同じ石造りの家々。しかし村のものとは違い、古びた感じの汚れもヒビも入っていない。新品のような白。
そして、あちこちにそそり立つ南国を思わせるヤシに似た木。通りには、活気のある喧騒。飢えた浮浪者など見当たらない。亜熱帯の気候も相まって、リゾート地と錯覚しそうになる。
「トロピカってるな……」
「どういう意味ですか!?」
「流してくれ……」




