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この世界にたどり着いてからのことを思い返す。
時間経過はたいしたものではなかったが、既に随分長いこと居た気がする。
倒れて風ざらしになっていただけだが、辛い時間は長く感じるものだろう。
最初に会った2人の村人……。
思えば何故言葉が理解できるのだろう。
「ハズレの勇者」とは?
勇者が居るということは、武力の驚異があるということだろうか?
……あの鐘の音……!
疑念を感じると共に柳は飛び起きた。
確かめないことには呑気に休んでは居られない。
外に出てみると、足跡はうっすら残っているが辿る内に風にかき消された。
よく目を凝らして見回すと、ル・シャタールの家の方角のずっと先に、同じような形の家が連なる集落が見える。
となれば、と。柳はそれとは逆の方向へ足を向けた。
日は傾いていたが、依然暑さは身を苛んだ。
眼前には砂漠が拡がっている。
と、生体改造で強化された柳の視界の隅に、人影が二つ映った。
遠く離れた二人は柳が近づくのに気付く様子はない。
明らかに二人は争っていた。
ターバンを念入りに巻き、目元だけ露出させているのはル・シャタールだ。先程とは眼光の鋭さが違う。何より、両手に構えられた円月輪が臨戦態勢を表している。
小高い岩でル・シャタールを見下ろすように対峙するのは、異形の者だった。人型の爬虫類のその者は、二足歩行のトカゲのようにも手足の有るヘビにも見える。しかし特徴的ないくつもの節のある尾は、野柳の世界のガラガヘビを思わせた。
身体のラインは滑らかだが、両の肩に、また時折気紛れの様に、ゴツゴツとした岩のような部位が見受けられた。それが鎧なのか、地肌が変化したものか、野柳には判別がつかない。
組織の改造人間に似ているが縫合跡がない。組織の改造人間には特別な場合を除いて必ず、体の何処かに改造手術の縫合跡で組織のシンボルマークが見つかる筈だった。
最低一つはある筈の能力拡張の為のソケットも見当たらない。
決定的なことには。ヘビ人間には見る者に怖気を起こさせる禍々しいオーラがあった。
野柳は一目で直観した。こいつは、人智を越えた何かだと。
「かわいそうにな、ル・シャタール。なりそこないの魔神遣いが、こんな僻地の守護に立つとは!」
ヘビ人間の嘲るような、見目の如く毒々しい声に、ル・シャタールは身動ぎもしない。
相変わらず鋭い目付きでヘビ人間を睨み据えている。
ヘビ人間は苛立たしげに舌をチロチロと出し入れして見せた。
まんじりともせず動かぬル・シャタールに、攻め入る隙を見い出せなかった。
苛立ってこそいたが、ヘビ人間にも付け入る隙はなかった。油断げに身体を揺すったり蠕動して見せたりするものの、筋肉と骨格から予想する限り、相手を誘い出す為のものだった。
野柳は、出来るな、と思った。
だがル・シャタールの我慢強さに分がある、とも。
「今からでも考え直さんか? 戻って来いよル・シャタール! 俺が掛け合ってやる。当座の面倒だって見てやろう。こんなカス村を護って何になると言うんだ、ええ?」
これまで表情を変えなかったル・シャタールの眼尻がぴくりと動いた。
それを見逃すヘビ人間ではなかった。
「気に触ったか!? ホントの事を言われて実際何になるんだよ、こんなちっぽけな村に拘って!」
ル・シャタールが動いた。
「お前には解るまい」