3-12
野柳はがしゃどくろを連想した。下半身はなく、砂の大地から急に上半身が生えている形だ。上半身だけの骸骨は、身体つきはヒトの体形をしている。纏っているのは村人たちと同じ系統の服だ。
しかしその頭部。眼窩や耳骨鼻骨の位置は草食獣を思わせる。そして二本の角。優美な曲線の角は頭に巻かれた布を飛び出し顔の三倍はあろうか、という長さだった。
その巨大な骸骨が、ゆったりとした動作で、散らばった料理を拾い、口に運んでいる。
──魔獣か? いや……。
感じるプレッシャーがあのヘビ人間の時と全く段違いだった。
恐らくは、魔神そのもの……。
ルシャをそっと横たえ、その前に立つ。
村人と野柳に走る緊張感を他所に、巨大な骸骨は悠然と食事を続けた。肉を持たない巨体のどこに収まっていくのか。口に入れたものは零れることはない。
腰を抜かした村人が縋ってくる。
「ゆ、勇者様ァ、ありゃ、一体……」
「静かに。大丈夫です」
相手の正体が解らない以上、獣に対処するようにやるしかない。明らかに獣より驚異は大きいが。
──怯えるな!
なだめつつも、野柳自身、恐怖がある。震えそうになる拳に力を込める。
自分には。怯えている暇も権利もない。
呼吸を整え、じっと観察する。
邪悪なものではない、筈だ。
しかし、野柳が期待したような理性や知性がある、という保障もない。気まぐれや、予測できない理由で村人を襲う素振りを見せれば。野柳が、盾になるしかない。
魔神は、最後に残った料理を大きな指で丁寧に集める。それを口に放り込むと満足気に嚥下するような動きを見せた。
そして。野柳の方に向き直る。
どう動くのか。何をするつもりなのか。……何を、考えているのか。
表情のない、虚ろな眼窩の暗闇がじ、と野柳を見据えている。
その深い暗闇を、力を込めて見返す。
古き哲学者の言葉そのままに、深淵が覗き返してくるのを感じる。
狂暴さや攻撃性は感じない。じっくりとじっとりと、見分されているのを感じる。身体の隅々、心の奥深くまで立ち入られ調べられている……!
『話したのかい? 元の世界で僕らがどんなことをしてきたのかを。あの娘に!』
探られる感覚に、先刻の城雲の言葉が蘇る。こんな時に!
昂る衝動を押し殺す。逃げ出したい衝動、逆に飛び掛かって決着を付けたい衝動を。冷静に、相手の出方を見なければ、何もかも台無しになってしまいかねない。
ただ身体に力を溜めておく。相手次第でどうとでも動けるよう準備をしておく。
どんなことをしても、ルシャとこの人たちは守らなければならない。
と、暗闇だった眼窩に、蒼い炎が灯った。
予備動作を疑ったが。
魔神は、す、と消えていった。
暫く誰も、何も動かなかった。視認できない攻撃を受けている様子はない。
緊張の糸が切れた。人が見ていなければどっかと座り込んで休みたいところだった。
同じく緊張の糸の切れたらしい村長が口を開いた。
「い、いい今のは一体」
「ルシャに力を貸してた魔神ですよ」
推測ではあったが、確信があった。
「あれが……風の……」
「いえ。もっと強大です。おそらくは砂漠を司る魔神でしょう。彼の力を借り、ルシャを鍛え上げ、必ず魔皇朝を倒して見せます」
努めて平静に、野柳は宣言した。どよめきが聞こえるが構わず野柳は続ける。
「手始めに、オアシスを奪還して御覧にいれます。私共にお任せ下さい。我ら、ブラストレイダーに」




