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と、口内に多量の水が注ぎ込まれた。
「!? がぼっごぼっ!! ごぼっ!! ごぼ!!!!」
野柳の口は受け入れる準備が整っていない。
急くように注ぎ込まれた水は気管と食道を区別せず侵入していく。
「がばっ! ごぼぼっ!! がはっ」
野柳は盛大にむせた。
もんどり打つ野柳を見て、水差しの手は止まった。
「ご、ごめんなさい!!」
水をくれたのは可愛らしい少女だった。
ターバンから見え隠れする銀の髪は短い。
素直そうなどんぐり眼も、形の良い鼻も、少し乾いた唇も、柳の胸に届くかどうかという背丈も。
大人であろうと踏ん張っている少女のそれだった。
元の世界ではエジプトでよく見られるガラベーヤに似た白い服に、僅かにのぞく褐色の肌が眩しかった。
見惚れている内に息が幾分整った。
死にかけの自分に貴重な水を分けてくれた。多少の不器用さなど問題ではない。
「ありがとう、助かっ」
「!! もっとどうぞ!!」
感謝の言葉に少女の目が輝く。また口に水差しが差し込まれる。
「ちょっと待っっがぼっごぼ」
聞こえて居ないのか水差しの角度が急だ。話してる途中だから水はやはり色々な所に入る。
「がほっご! 落ち着い、落ち着きなさごぼぼ落ち着け一旦!!!!」
口端から鼻からみっともなく水が溢れてやっと、水差しは離れた。
野柳は顔を拭いながら思う。
この娘は──善意は素晴らしいが……多少不器用程度ではない。大慌ての粗忽ものだ、と。