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1

 強烈な乾きで、野柳は目を醒ました。


 まず身体が戻っていることに驚く。結局声の主の正体は解らずじまいだったが、超常の存在だったことは間違いなさそうだった。


 紛うことなく、野柳の身体だった。


 念じればプラナリアンの姿になれるだろうことがなんとなく解る。


 しかし手放しに喜べる状況ではなかった。


 それどころか野柳は危機の只中だった。


 プラナリアンにとって乾燥は大敵である。それは人間態を取っていても変わらない。


 再構築とやらの影響か、それともこの乾いた空気に既に大分水分を持っていかれたのか、思うように力が入らない。


「み……みず」


 空気も相当に乾燥している。身体に残ったわずかばかりの水分すら刻一刻と奪われていく。


 なんとか、身じろぎし周囲を確認する。広い砂漠と、視界の隅に傷んだ石造りの家々が見える。


 息をするだけで、鼻に、口に、砂が飛び込んでくる。


 どこに行けば水場に辿りつけるかすら解らない。


 砂煙に建物を観察する余裕もない。


 しかし、ここでじっとしていれば干からびて死ぬ。


 もがいて、這って、少しずつ、僅かずつ、移動を始める。



 どれだけそうしていただろうか。人の気配を感じた。


「なんだ、あいつ」


「みたことのねぇ格好をしとるな。よそもんかぁ」


 通りすがった二人は、柳を指して喋り始めた。


「“勇者様”かも知れんわなぁ」


「こんなボロボロな“勇者様”がおるもんか。こないだのハズレよりひどい」


「んだよなぁ。期待するだけ無駄ちゅうもんか……」


 二人の声音には諦念からくる失望の響きがあった。


「みず」


 柳は絶え絶えの息の間にそれだけ挟むのがやっとだった。


 人影はゆるゆると首を振る。


「水だってもうそう残っちゃあいねぇ」


「んだなぁ。死に損ないのよそもんに回してやれる程にゃあ……悪ぅ思わんでくれや」


 一人は辛辣に、もう一人はすまなさそうに言うと、罪悪感からか足早に去っていく。


 恨んではいけない、と野柳は自身に言い聞かせる。人を恨むような権利は自分にはない、と。


 少なくとも彼らの行く方に、水を分けてくれるような余裕のある集落はない。それが解っただけでも良い。


 進行方向を二人とは逆に切り替え、また這い進む。


 力を振り絞るが、何センチ前進出来たか解らない。


 こんな所で終わる訳にはいかない。


 まだ何も始まってすらいない。


 それなのに。もう指先に力を込めることすらかなわない。


 身体の水気は尽きたと思っていたが、涙が一筋零れた。


 まんじりともできないまま、時が過ぎていく。


 終わりを覚悟した時。


 砂を踏みしめる音が聞こえてきた。

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