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強烈な乾きで、野柳は目を醒ました。
まず身体が戻っていることに驚く。結局声の主の正体は解らずじまいだったが、超常の存在だったことは間違いなさそうだった。
紛うことなく、野柳の身体だった。
念じればプラナリアンの姿になれるだろうことがなんとなく解る。
しかし手放しに喜べる状況ではなかった。
それどころか野柳は危機の只中だった。
プラナリアンにとって乾燥は大敵である。それは人間態を取っていても変わらない。
再構築とやらの影響か、それともこの乾いた空気に既に大分水分を持っていかれたのか、思うように力が入らない。
「み……みず」
空気も相当に乾燥している。身体に残ったわずかばかりの水分すら刻一刻と奪われていく。
なんとか、身じろぎし周囲を確認する。広い砂漠と、視界の隅に傷んだ石造りの家々が見える。
息をするだけで、鼻に、口に、砂が飛び込んでくる。
どこに行けば水場に辿りつけるかすら解らない。
砂煙に建物を観察する余裕もない。
しかし、ここでじっとしていれば干からびて死ぬ。
もがいて、這って、少しずつ、僅かずつ、移動を始める。
どれだけそうしていただろうか。人の気配を感じた。
「なんだ、あいつ」
「みたことのねぇ格好をしとるな。よそもんかぁ」
通りすがった二人は、柳を指して喋り始めた。
「“勇者様”かも知れんわなぁ」
「こんなボロボロな“勇者様”がおるもんか。こないだのハズレよりひどい」
「んだよなぁ。期待するだけ無駄ちゅうもんか……」
二人の声音には諦念からくる失望の響きがあった。
「みず」
柳は絶え絶えの息の間にそれだけ挟むのがやっとだった。
人影はゆるゆると首を振る。
「水だってもうそう残っちゃあいねぇ」
「んだなぁ。死に損ないのよそもんに回してやれる程にゃあ……悪ぅ思わんでくれや」
一人は辛辣に、もう一人はすまなさそうに言うと、罪悪感からか足早に去っていく。
恨んではいけない、と野柳は自身に言い聞かせる。人を恨むような権利は自分にはない、と。
少なくとも彼らの行く方に、水を分けてくれるような余裕のある集落はない。それが解っただけでも良い。
進行方向を二人とは逆に切り替え、また這い進む。
力を振り絞るが、何センチ前進出来たか解らない。
こんな所で終わる訳にはいかない。
まだ何も始まってすらいない。
それなのに。もう指先に力を込めることすらかなわない。
身体の水気は尽きたと思っていたが、涙が一筋零れた。
まんじりともできないまま、時が過ぎていく。
終わりを覚悟した時。
砂を踏みしめる音が聞こえてきた。