2-14
気勢に呑まれてか、城雲は押し黙った。
言いたいことはまだあるが、野柳を何もしない仲間に引き入れるのは諦めたと見ていいだろう。
野柳はその沈黙を受けて、口を開いた。
「禊始めには丁度良いと思わないか? 苦しんでる人々が居て、我々にはそれをどうにか出来る力がある」
「もっともらしく聞こえるね。本当に理不尽に、一方的に虐げられてるんならそうだろうさ」
「……どういう意味だ?」
「僕たちは……洗脳されていたとは言え、少なくともあの時には正しいと思って『あれ』をやってきたじゃないか! 今度も……今度もそうならないとは限らないじゃないか! 僕たちは、あの人達のことを何も知らないんだぞ」
「だからこうして引き籠っているのか? どういう人たちなのか、どんな歴史を辿って来たのかは道々調べて行けば良い。接することでしか解らんこともある。何もしない理由にはならん」
城雲は俯き押し黙った。野柳は彼の心が本当に、折れてしまっていることを察した。
「……一つだけ、彼らを信じて良いんじゃないかという希望がある。君はル・シャタールを助けただろう?」
「風遣いか?」
「そうでもある。兎に角その娘だ。あの娘の闘い、重なると思わないか?」
「リオークにか?」
「そうだ。彼女の勇気と、魔神の力があれば。魔皇朝だって打倒できると信じる。ほんの少しの助力があれば」
野柳は、リオークの闘いを、ルシャの闘いを思い浮かべる。真っすぐで、切実で。張り詰めた闘い。
それは確かに質を同じくするものだった。
城雲は薄く笑みを浮かべた。
「自分らの目的の為にいたいけな少女を利用するワケだ」
「このままではジリ貧でいずれもっと悲惨なことになる!」
「危険に晒すことに変わりはないさ」
「彼女の身の安全は、最優先事項だ」
城雲はふ、と息をつく。
「君は、話したのかい? 元の世界で僕らがどんなことをしてきたのかを。あの娘に!」
野柳は咄嗟に、入り口の置いてきたスライムを介してルシャの様子を確かめた。ルシャは退屈そうに、壁に背を預けて休んでいる。
城雲が抱いている怖れや傷は一種類のものではなかった。色々なモノが混じり合い絡み合って彼を雁字搦めに縛り、苛んでいた。
「……折を見て、伝えるつもりだ」
城雲はまた、鼻で笑った。
「……はは。ははははは」
かと思えば。哄笑が始まった。
侮辱を感じて野柳は抗議の声を上げかけたが、笑われても仕方のないことだと思い直した。城雲の目に涙を認めたのはその後だった。
「……偉いよ、君は。僕と同じ業を背負いながら進んで行こうとしている!」
侮辱は城雲自身に対してのものだった。
何を思ってか、城雲の姿は戦闘態を取った。
「僕は……僕は」
野柳は身構えるが、城雲の胡乱な目に戦闘の意志は見えない。
「君に引き換え! 僕に出来る償いと言ったらこのくらいのものだ」
捨て鉢な涙声で城雲は叫び───
「よせ!! 城雲!!」
静止も効かず、城雲は文字通り刃と化した手刀を縫合跡へと叩き込んだ。
間を置かず、鮮血が溢れ出す。
「ぐっ。うううぅううう」
怪人の身体は頑丈に作り変えられている。その唯一の弱点が縫合跡だ。それも。周囲に比べて幾分脆いか、という程度である。
しかしながら、通る。怪人の気の乗った一撃ならば。




