2-1
野柳は略式の埋葬方法をルシャに教わり、ヘビ人間を弔った。ルシャは不思議そうに聞いた。
「敵だったのに、弔うんですか!?」
「私の世界の教えだよ。……死んだ後は、恨みっこなし」
「そういうものですか!」
「キリがないからね」
「解りました!!」
ルシャの返事は本当に解っているか不安になるほど元気だった。
──出来てるヤツは少ないがな。
その後二人はルシャの家に戻った。
この世界で……そして洗脳されていない状態での戦闘で、身体はすぐに横になりたいほど疲れていたが、神経の方は昂っていて眠れそうになかった。
もっとよく話して、ヘビ人間の話の裏づけもしたかったが、それよりも、ルシャが落ち着きなく、ソワソワしていたのが気になった。
椅子に深く腰掛けると、待ち切れなかったようにルシャが口を開いた。
「助けてくれてありがとうございます! やっぱり勇者様だったんですね! 伝承の通り!!」
すっかり元気になったルシャは顔も声音も華やいでいた。
勇者、という言葉に野柳は少々面食らう。
戸惑う野柳にルシャが説明を加える。
「古い言い伝えにあるんです! この世界に危機が訪れた時、異なる世界から勇者が遣わされ大いなる悪を討つ、と! お召し物が見慣れないものだった時からそうだと思ってました!」
「いや」
野柳は半ば反射的に否定した。
感情が。生理が。勇者、という称号を受け付けなかった。
「既に私にその資格はない。勇者は君がやり給え」
口を付いて出た言葉だった。
「へ!?」
ルシャが頓狂な声を上げる。
「勇者とは異世界からくれば自動的になれる、そんな軽い名前ではない。真に勇気を持つ者にのみ許された称号であるべきだ」
感覚で出た言葉に理屈を捻り出して肉付けをする。精査するのは口から出た後だが今の所間違いはない。筈だ。
「は、はい」
「君はたった一人で巨大な帝国からこの村を守り続けてきた。とてつもない勇気がなければできないことだ。君こそ勇者にふさわしい」
「や! しかし! 自分は!」
ルシャは反論を試みるが本格的に始まる前に、言葉を被せる。
「それもあのヘビとの会話を聞く限り、君は古巣と敵対しているな?」
「そ、そうです! 裏切者の私に! そんな称号は過分です!!」
その過去が野柳の琴線に触れた。
「いやだからこそだ」
「!?」
「誇るべき裏切りもある。巨大な組織に身を置き、搾取する側に立てば安泰だっただろう。その立場を捨て、君は弱い者の味方になった!!」
それは。その生き方は。野柳の良く知る男に重なった。
「思ったより喋る人だったんですね!」
「恥ずかしい」
ルシャの素直で端的な指摘に、我知らず饒舌になっていた自分に気付き、野柳は赤面する。
「兎に角! 勇気がなければできないことだ。勇者は君がやり給え!! 勇者を待っているというこ
とはこの現状を変えたいと言うこと!! 待っているだけでは駄目だ、君が!! 君自身がやり給え!!!」
最早単なる口車ではなかった。野柳は心からそう思っていた。
「は、はい!! しかしそうなると……! アナタは何をするんですか!?」
「何でも。子分、手下、助手、お手伝いさん。何にでもなろう」
「えーと……」
漠然とし過ぎたか、ルシャは困惑している。もう少し絞るとすれば。
「だが、そうだな……私は君を指導することも出来るだろう」
それは、ルシャの戦闘を見ていて思ったことだった。
既にルシャの戦闘能力は超人的なものではある。
しかしまだ付け入る隙がそこここにあり、それが窮地を招いたのだ。
おそらく、戦闘の経験だけで言えば野柳の方が多く積んでいるだろう。
「君を、誰にも負けない勇者にしてみせる。……君がそう望むなら」