表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/82

10

 喜ぶべきか悲しむべきか、聴取には組織で培った拷問術が役に立った。


 疑わしい点があったり、答えるのを拒めば仮借なく痛めつけた。

 そうしてこの世界のあらましを概ね聞き出すことができた。


 この世界は魔皇朝と名乗る勢力によって九分九厘征服されていた。


 特徴的なのは、魔獣士や、魔神遣いと呼ばれる戦闘員の存在だ。


 この世界の森羅万象を司る魔神とその眷属、魔獣。それを人に害せぬよう鎮めてきたシャーマンたち。


 シャーマンの秘術はいつしか、魔神を意のままに操るように形を変えていった。


 世界を手にする野望を持ったシャーマンは魔神を武力として使い、国々を手中に収めていった。


 その支配は苛烈で、生産階級は悉く搾取されていると言って良かった。


 僅かに抵抗を続ける地域の制圧を終えれば、別の世界へ侵略を進める予定らしい。


「それでお前は、ヘビの魔獣を下ろした魔獣士という訳か」


「……」


 ヘビ人間は、そっぽを向いて答えない。


 気力を失って黙っているのではない。野柳を睨みつけ、明確に反抗している。


 あの尋問の後でこういう反応ができるあたり、確かに根性が座っている。


「まあ良い。魔皇帝とやらの魔神の力と、警戒すべき者の能力を教えてもらおう」


「……」


 ヘビ人間は依然黙ったままだ。だが、ここで黙られては困る。


「言え」


 潜り込ませた自分の一部に念じ、ヘビ人間を締め上げる。


「い、言えねえよ……!」


――知らないとは言わんか。


「言えよ」


 更に締める。ここで吐くとは思えない。


 ここから先のプランを考える。このまま続けると、ヘビ人間は死ぬ。


 一旦休ませて、取引を持ち掛け――


「いけない!」


 切羽詰まったルシャの声が聞こえた。


 なにが? そう聞こうとした時。


 ヘビ人間の身体が爆ぜた。


 野柳は唖然とする。ヘビ人間の姿は一瞬で跡形もなく消し飛び、臓物と体液が辺りに散らばっていた。


「なんでだ……彼は何も」


 ヘビ人間は、ずっと口を閉ざしていた。これまで明かした情報も、核心に迫るものは何もない。


 にも関わらず、彼の所属する組織は何らかの手段で、こうして彼の口を封じた。


「これが魔皇朝のやり方なんです!」


 事態を察したルシャが、声を掛ける。声音に弱りはない。


「もういいのか!? 無理をしては……」


 ルシャが頷く。こちらに歩いて来る足取りはしっかりとしたものだった。


「味方であろうと不都合があれば簡単に切り捨てる! そういう人達にこの世界は牛耳られているんです!」


 ルシャがヘビ人間の残骸を見つめる視線は、様々な感情が入り混じっていた。


 彼女がこの世界の現状をどう捉えているかは明らかだった。あふれ出す怒りと嘆きが小さな肩を震わせていた。


「ああ。……似たような連中をよく知っている」


 野柳には過去への一縷の望みがあった。古巣の目標が達成された時、世界がより良く生まれ変わることだ。


 大きな善を成す為の悪であったなら。必要な犠牲であったなら。そんな考えに、心の底で縋っていた。


 そもそも組織の掲げる最終目標が、現状で不幸な人々を救済する為の現状打破だった。


 しかし、この世界の今をつぶさに聞いて、そんな甘い考えは霧散した。


 自分のしたことは混じりけのない悪だった。古巣が世界を掌握した所で、救われない人を増やすだけだった。


 野柳の心は、決まった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ