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喜ぶべきか悲しむべきか、聴取には組織で培った拷問術が役に立った。
疑わしい点があったり、答えるのを拒めば仮借なく痛めつけた。
そうしてこの世界のあらましを概ね聞き出すことができた。
この世界は魔皇朝と名乗る勢力によって九分九厘征服されていた。
特徴的なのは、魔獣士や、魔神遣いと呼ばれる戦闘員の存在だ。
この世界の森羅万象を司る魔神とその眷属、魔獣。それを人に害せぬよう鎮めてきたシャーマンたち。
シャーマンの秘術はいつしか、魔神を意のままに操るように形を変えていった。
世界を手にする野望を持ったシャーマンは魔神を武力として使い、国々を手中に収めていった。
その支配は苛烈で、生産階級は悉く搾取されていると言って良かった。
僅かに抵抗を続ける地域の制圧を終えれば、別の世界へ侵略を進める予定らしい。
「それでお前は、ヘビの魔獣を下ろした魔獣士という訳か」
「……」
ヘビ人間は、そっぽを向いて答えない。
気力を失って黙っているのではない。野柳を睨みつけ、明確に反抗している。
あの尋問の後でこういう反応ができるあたり、確かに根性が座っている。
「まあ良い。魔皇帝とやらの魔神の力と、警戒すべき者の能力を教えてもらおう」
「……」
ヘビ人間は依然黙ったままだ。だが、ここで黙られては困る。
「言え」
潜り込ませた自分の一部に念じ、ヘビ人間を締め上げる。
「い、言えねえよ……!」
――知らないとは言わんか。
「言えよ」
更に締める。ここで吐くとは思えない。
ここから先のプランを考える。このまま続けると、ヘビ人間は死ぬ。
一旦休ませて、取引を持ち掛け――
「いけない!」
切羽詰まったルシャの声が聞こえた。
なにが? そう聞こうとした時。
ヘビ人間の身体が爆ぜた。
野柳は唖然とする。ヘビ人間の姿は一瞬で跡形もなく消し飛び、臓物と体液が辺りに散らばっていた。
「なんでだ……彼は何も」
ヘビ人間は、ずっと口を閉ざしていた。これまで明かした情報も、核心に迫るものは何もない。
にも関わらず、彼の所属する組織は何らかの手段で、こうして彼の口を封じた。
「これが魔皇朝のやり方なんです!」
事態を察したルシャが、声を掛ける。声音に弱りはない。
「もういいのか!? 無理をしては……」
ルシャが頷く。こちらに歩いて来る足取りはしっかりとしたものだった。
「味方であろうと不都合があれば簡単に切り捨てる! そういう人達にこの世界は牛耳られているんです!」
ルシャがヘビ人間の残骸を見つめる視線は、様々な感情が入り混じっていた。
彼女がこの世界の現状をどう捉えているかは明らかだった。あふれ出す怒りと嘆きが小さな肩を震わせていた。
「ああ。……似たような連中をよく知っている」
野柳には過去への一縷の望みがあった。古巣の目標が達成された時、世界がより良く生まれ変わることだ。
大きな善を成す為の悪であったなら。必要な犠牲であったなら。そんな考えに、心の底で縋っていた。
そもそも組織の掲げる最終目標が、現状で不幸な人々を救済する為の現状打破だった。
しかし、この世界の今をつぶさに聞いて、そんな甘い考えは霧散した。
自分のしたことは混じりけのない悪だった。古巣が世界を掌握した所で、救われない人を増やすだけだった。
野柳の心は、決まった。