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比較物がないので距離感が狂っているが、思ったより二人は遠い。
気付かれぬよう忍び寄りたいが、そうも言っていられない。
ル・シャタールは必至に抵抗しているが、時間が経つ度絡みつくヘビは増えていく。
ままよ、と必死に。全力で駆ける。
と、ル・シャタールの視線が野柳を捉えた。
伝わるかわからないが、アイコンタクトを試みる。すぐに行く、と。
二人はもう目と鼻の先だった。
これ以上近づけば、気付かれる、という所まで来た。気配を殺し忍び寄るか、一息に駆けるか、一瞬の躊躇が生まれた。
肚を決めて走り出そうとした時、不自然な程に折よく風が吹き、姿を隠すのに丁度いい砂の山が出来上がった。
これ幸いと隠れ、身構える。
「お前を始末さえすりゃ!」
ヘビの口が開く。禍々しい毒牙が並んでいる。
「扶持も魔神も貰えるんだ俺は!!」
背中を押すように激しい突風が吹いた。野柳が飛びだす。
石で殴りつけるのと、ヘビがル・シャタールに噛つくのが同時だった。
「ぐあ!!っ」
振り下ろされた石はヘビ人間の頭に当たった。急な激痛呻きを上げる。
生じた隙を利用してル・シャタールが絡みついたヘビを刻んで脱出した。
「クソ……! 伏兵用意してやがるとはな! 何モンだ!?」
「名前は棄てたよ」
打たれた頭を押さえながた、体勢を立て直そうとするヘビ人間に、野柳は打撃を畳みかける。
二発目は確かに入った。しかし三発目は既に立ち直り、するりと躱される。
変身しようとするが、考え直し、敢えて、逃げるのにもたついて見せる。
「のこのこ出てくるのが悪い!!」
あっと言う間に両の腕に、ヘビが巻き付いて来る。
「舐めやがって……! お前は俺自身の毒で始末してやるよ!!」
ヘビを巻き込み、野柳を引き付ける。ル・シャタールの時のような焦らしはない。もう、何匹かのヘビが齧りついている。
それでは満足できない、とばかりに本体の大口を開けて、野柳を待ち受ける。
――しめた!
とは思うが、おくびにも出さない。むしろ怯えた表情で、振りほどこうというようにもがく。
「やめろぉ……勘弁、勘弁してくれ……!」
なるたけ哀れっぽく、命乞いをする。
「ダメだな」
ガブリ、と、巨大な牙が野柳の身体に食い込んだ。