目玉焼きに何かけるかより卵焼き派ですが何か?
こっこはふらりと散歩をしていた所、なにやらタマゴの様なものを見つけました。
「………?」
上から見てもタマゴ。横から見てもタマゴ。下から見ても当然タマゴ。
こっこはちょっと振ってみました。シェイクです。
「や、やめ―――」
特に反応はありません。
おそらく無精卵なのでしょう。ちょうどお腹の空いていたこっこは台所に足を運びます。目玉焼きにするつもりでしょうか?
「ちょ、何し―――」
こっこは大きく振りかぶり、シンクの角へと狙い定めます。
丸みをおびたその中心にコツンとさせようとした、その瞬間―――
「待たんかーい!」
タマゴの中から声が聞こえてきたのです。こっこは驚いて、角にぶつけるまで数センチの所で手を止めました。ギリギリです。
目を丸くしてこっこはタマゴを見つめます。すると、タマゴの上の方がぱかッと開き、でっぷりとしたヒヨコが乗り出してきました。
「よっと。初めましてやな、こっこはん」
何が何やら分からないこっこは、とりあえず、タマゴをひっくり返しました。
「ワイはひよ吉ぃぃいい!! お、おお、落ちるぅぅぅ!! は、はよ戻さんかい!!」
ひよ吉と名乗るヒヨコはタマゴの縁にしがみついて、落ちないように必死です。
こっこは流石に可哀想だと思ったのか、元に戻しました。
「ななな、何すんねん!? 落ちるかと思ったやろ!!」
「………喋った」
「おおう、マイペースか」
出会って数秒でひよ吉はこっこの性格を理解しました。
「まあ、今時犬だの猫だの、ぬいぐるみだのが喋る世の中や。ひよこが喋るくらい気にせんでええ」
「………そう」
「ま、改めてまして。ワイはひよ吉。こっこはんをお助けするためにやってきた妖精や。よろしゅうな」
自称妖精のひよ吉はそういって胸を張りました。そのせいかモフモフした毛が一層膨らんだように見えます。
「分りづらかったら某青いネコ型ロボットみたいなもんやと思ってくれてかまへんで―――ってその下敷きは何や? 何で擦るん? ちょ、力強、え? 何し痛たたた!」
「………ふわふわ」
こっこは何処からか取りだした下敷きを凄まじい勢いでひよ吉に擦りつけます。ひよ吉のモフモフした毛が下敷きに引き寄せられ、パチパチと音を立てます。
「ちょ、何やバチバチ言うとるから! ごっつう静電気溜まっとるから! いたぁあ!」
「すごい、ふわふわ………!」
ひよ吉が全身の毛を逆立て、地味に痛い静電気を発生させますが、こっこは我関せず。目をキラキラと輝かせています。
若干毛先が跳ねているのを視界の端にいれながら、ひよ吉は何処か遠い目をして、どうしてこうなったのかと思い出し始めました。
そう、あれは数か月前の事―――
「いや、別に回想とかせえへんで?」
◆◆◆
何やかんだで落ち着いたこっこは人をダメにするソファに座り、テレビから流れる音を聞き流して、だらだらしていました。
ひよ吉もツッコムだけ無駄だと思ったのでしょう。こっこの手のひらでぐでっとしています。
「お腹、すいた」
「まあ、せやな。そろそろ昼時やし、どうするんや?」
「おでん………食べたい」
こっこはずっと思っていたのです。
おもちは餅。おけしょうは化粧。おさけは酒。
では、おでんはでん?
「いや、でんってなんやねん。別に丁寧に言ってるんとちゃうで」
「買いに行こう………!」
「あ、もう興味ないのね」
ひよ吉が呆れたようにため息をつきますが、何のその。こっこの決意は固いのです。
近くのコンビニでおでんフェアをやっていたことを思い出したこっこは立ち上がりました。
「………ひよ吉、どこでもドア。出して」
「ないで」
「………え?」
「え? って何? 逆にあると思うん? さっきのネコ型ロボットは比喩やし、何の関りもないからな」
「じゃあ、タケコ―――」
「だから、ないわ!」
このままだと未来からやってきたお助けロボットのパクリ扱いになってしまう。そう考えたひよ吉は早口で誤魔化します。
「こ、こんないい天気や! 歩いていこうや、な!」
「………ん」
気が変わったのか、それとも最初から冗談で言っていたのか、ぼんやりとしたその顔からは判断出来ませんが、ひよ吉の言う通り、こっこは歩いてコンビニまで行くことにしました。
「………ひよ吉は、何食べる? ちくわ?」
「いや、ワイひよこやで。聞くにしても、もうちょいあるやろ」
「………じゃあ、ちくわぶ?」
「ほぼ一緒やん。原材料ちゃうだけやん」
こっこは悩みました。果たしてこのヒヨコ型おたのみもうすけ壱号は何を食べるのか。そして、クワガタと勝負をすればどちらが勝つのか。
ひよ吉は急に黙り込んだこっこを訝しげに見上げますが、そっとしておくことにしました。藪をつついても良いことないもんね。
「………クワガタならワンチャン」
「急に何や!? クワガタ!? そんなん食べへんからな! 絶対やめてや!」
こっこがついぽろりと零してしまった言葉に最悪の想像をしてしまったひよ吉。
流石に本気ではないと思いつつ、冷や汗がたらりと黄色の毛先から零れ落ちます。
「いや~、なんか急に、えっと………うん、ちくわ食べたくなってきたわぁ」
「そっか………ちくわぶは?」
「わーい、ちくわぶダイスキー」
ひよ吉の棒読みすぎる言葉に何をどう解釈したのか、こっこはほんのちょっぴり頬をゆるませて笑顔になりました。
「所でなんやけど………まだ着かへんの? てか何処向かってんねん」
「あれ? ………道、間違えちゃった」
「ちょい!?」
どうなるこっことひよ吉!? 無事におでんを食べることが出来るのか!? そもそもコンビニまで辿り着けるのか!?
次回! もう、おうちかえろう。
こうご期待!
絵・榛葉