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続編のない短編達。

脳筋お嬢様を育てたのは俺です(後悔はしていません)。

作者: 池中織奈

 ――ある時は、あの圧倒的な爆炎魔法により、ドラゴンを下した。今ではそのドラゴンはすっかり服従している。

 ――ある時は、自身に向けられた暗殺者たちを、根こそぎ倒した。今ではその暗殺者たちは手足になっている。

 ――ある時は、敵国の兵士たちは虐殺しまくった。その結果、国外共に恐れられている。





 これ、誰の噂だと思う??




「エシュター、何をぼーっとしているの!! 行くわよ!!」

「はい、お嬢様」


 俺の仕えるお嬢様の噂だよ!! しかも噂ではなく、事実っていう。



 俺の仕えるお嬢様、リリシュカ・セーレンベルガはセーレンベルガ公爵家の長女である。紅色の髪に、ルビーのようにきらめく瞳。そして今年十六歳になるお嬢様は大変女性らしい身体をしている。黒と赤のドレスを身に纏っているお嬢様は大変美しい。

 ……そんな絶世の美女と言えるお嬢様が、『兵器令嬢』とか『爆炎令嬢』とか『赤の悪魔』だとか呼ばれていることには何とも言えない気持ちにはなる。




「今日も戦うわよ!!」

「はい」



 俺の仕えているお嬢様は、脳筋お嬢様である。戦う事が好きだというお嬢様。……何を隠そう、お嬢様をそんな風に育ててしまったのは俺である。











 *




 俺がお嬢様――リリシュカ・セーレンベルガと出会ったのは、俺が十歳の時である。俺の生まれた家は、決して裕福というわけではなかった。紛う事なき、平民であった。



 そんな俺が栄えある公爵邸で働く事が許されたのは――、俺が転生者であったからと言えよう。



 そう俺には前世の記憶というものがあった。前世はこの世界ではなく、地球と呼ばれる異世界で過ごしていた。大学まで卒業して、就職間近という日に川に流されそうになった子供を助けて、俺は力尽きた。そして気づいた時にはこの世界に生まれ落ちていた。



 俺の生まれた家は、裕福ではなく、お金がなかった。どれだけ現代日本が恵まれていたのか、生まれて早々実感したものである。

 

 そもそも異世界転生するならもっと王族とか貴族に生まれさせてくれたらよかったのに……とそう思ってならなかった。しかし文句を言っても現状は変わるわけはない。



 この世界は完全な身分社会なので、どうにか身分のある人たちに目をかけてもらって良い生活をしよう!! と幼い俺は決意した。



 前世の記憶があるから計算も出来たし、何より俺は平民でありながら魔法の才能があって――そういう優秀さを買われて俺は公爵邸で働くことになった。

 とはいえ、普通なら平民を公爵邸で働かせるのはあまりないことだ。……あとから聞いた話だが、当時のお嬢様は大変我儘で、横暴で――人を寄せ付けなかったらしい。それも弟が生まれ、公爵夫人が弟に付き切っりになり寂しがった結果である。公爵も多忙でお嬢様に構う暇がなく、お嬢様が寂しくならないように試行錯誤しているらしい。

 だけれども、何人か見繕ってもお嬢様が癇癪を起こし、お嬢様は荒れてばかりのようだ。それで俺に白羽の矢が立った。



 ……我儘なお嬢様に気に入られなくても、俺は公爵邸で働かせてはもらえるらしいが……、俺が将来良い生活をするためにもお嬢様に気に入られた方がいいだろう。




 ――そして俺はお嬢様、リリシュカ・セーレンベルガに会った。



 初めて見た時は気づかなかったけれど、お嬢様と会ってしばらく経ってからお嬢様が前世で俺の妹がやっていた乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。

 幸いにも初対面でお嬢様に気にいってもらえた俺にとって、俺に懐いてくれる五歳年下のお嬢様は可愛い存在だった。


 そんなお嬢様が悪役令嬢として大変な目に遭うのは避けたかった。


 ちなみにその乙女ゲームは、現代日本で乙女ゲーム転生ものの小説や漫画が流行したというのもあり、そういう流行から作られた乙女ゲームで結構悪役令嬢の末路は悲惨なものが多かった。しかもひたすら悪役令嬢を不幸のどん底に落としたいのか、驚くほどに不幸に見舞われる。

 ……あまりにも不幸すぎて、悪役令嬢救済の二次創作が流行っていたらしい。


 情報収集をした結果、明らかにこれは乙女ゲーム本体のストーリーの世界ではないかと思う。というか、もし二次創作の世界だったとしてもお嬢様が何一つ不幸に見舞われることがないものは中々ないし。


 そう考えるとお嬢様が不幸にならないようにするためにはどうしたらいいか――と俺は考えた。





 乙女ゲームの中のお嬢様は、暗殺者に狙われたり、母親が殺されたり、毒殺されそうになったり――と様々な不幸に見舞われ、悪役令嬢へと至る。ヒロインに対して嫉妬し、暴走し、最後には破滅が待っている悪役令嬢。


 



「どうしたの、エシュター」

「何でもありません、お嬢様」

「そうなの? 何か困ったことがあったらいってね」



 お嬢様が不幸に陥られないようにするためにはどうしたらいいか――そればかり考えていて俺は浮かない顔をしていたらしい。

 お嬢様はその美しい綺麗な瞳をこちらに向けて、心配そうに俺を覗き込んでいた。



 お嬢様は俺が傍にいるようになって、少し落ち着いたように思える。いつも俺の名を呼んで、俺のことを追い回して、家族との仲も乙女ゲームの世界よりもまともになってきているとは思う。

 だけれど完全にお嬢様を幸せにするためにはどうしたらいいだろうか。




 俺がお嬢様を守るというのは当然であるけれども、それだけでこの可愛いお嬢様を守れるだろうか……?


 お嬢様が幸せになるために、俺は一つの決断をした。




「お嬢様、俺と一緒に遊びましょう」

「何の遊びをするの?」

「お嬢様が幸せになるための遊びです。お嬢様は大変かもしれないですけど、必ずお嬢様のためになります」



 ――俺はお嬢様が自分の身を守れるように、お嬢様を鍛えることにした。





 お嬢様はとても優秀な生徒だった。俺がどういう無茶ぶりをしていても、お嬢様は楽しそうにしていた。

 乙女ゲームの世界では、王太子である婚約者しか拠り所がなく、他の楽しみも何もない――そういった令嬢だったけれども、今のお嬢様は体を動かすことや戦う事がすっかり好きになっていた。



 公爵に何か言われるかもしれないと思ったが、「リリシュカが楽しそうで嬉しいよ」とにこにこして、逆に感謝されてしまった。



 公爵夫人はお嬢様が七歳の時にお嬢様の目の前で殺されることになっていたのだが、事前に俺が公爵に話を通したのと、俺とお嬢様で賊を倒したため事なきを得た。



「お母様を守れて嬉しいわ!! ありがとう、エシュター」

「それは良かったです。でもお嬢様、一瞬油断しましたよね? 気を付けてくださいね」

「私が油断したとしても、私のことはエシュターが守ってくれるでしょ!! 心配してくれてありがとう!!」



 お嬢様は俺の前でいつもにこにこしていた。

 

 お嬢様は他人に迷惑をかけるような我儘はなくなったが、我儘でなくなったわけではない。自分がやりたいことを我儘に突き通すことは当然あった。まぁ、周りの事を考えていつも発言しているから、屋敷で働く人たちや領民たちには慕われているが。



 その年の女の子にしては驚くべき程の力を手にしたお嬢様を公爵も公爵夫人も受け入れていた。……これで怖がるようだったらどうしようと少し不安だったから本当に良かった。



 そして驚くべきことに、乙女ゲームと違い、お嬢様は王太子と婚約をしなかった。乙女ゲームの世界だと十歳の時にお嬢様は王太子と婚約をし、王妃教育に勤しむようになるのだ。

 そして十歳で王太子と出会い一目惚れをし、自分に優しい王太子のためにも頑張ろうとする。

 しかしお嬢様は見た目で周りにキツイ印象を与える方で、次期王妃としての仕事をそれはもう真面目に全うしようとしていた。その様子が王太子に悪印象をもたれてしまう要因になり、ヒロインに王太子は心を奪われてしまう。

 ……てか、良く考えたら婚約者の居る相手と恋仲になるヒロインが一番性格が悪い気がする。確かにゲームではお嬢様は嫌がらせの限りをつくし、ヒロインが実は隣国の王族の落とし子であったことがわかるけれど……。婚約者に手を出されて行動するのは当然のことなんだよな。





「え、お嬢様、王太子殿下と婚約しないんですか?」

「……エシュターは私に婚約をしてほしかったの?」

「え、いやいや、そういうわけじゃないですけど、家柄的にもお嬢様が王太子殿下の婚約者だって思ったから……ってお嬢様、何でそんなに不機嫌になってるんですか!!」



 お嬢様から話を聞こうとした時、お嬢様はそれはもう大変不機嫌になった。なんとかお嬢様をなだめるのに俺は苦労した。どうやらお嬢様は王太子殿下との婚約について触れられたくないらしいという事が分かって、俺はどういう事情かいまだに聴けないでいる。





「エシュター、ドラゴンが大暴れしているらしいわよ、行くわよ!!」

「はい、お嬢様」


 お嬢様はある時はドラゴンに興味を持ち、



「エシュター、隣国の砂漠には見た事のない魔物がいるらしいわよ、行くわよ!!」

「はい、お嬢様」


 お嬢様はある時は見た事ない魔物に興味を持ち、



「エシュター、盗賊達が我が民を苦しめているらしいわ、行くわよ!!」

「はい、お嬢様」



 お嬢様はある時は領民を苦しめている盗賊を懲らしめに行った。



 十二歳を過ぎた頃ぐらいから、なぜか公爵も公爵夫人も俺を連れて行くことを条件にお嬢様が自由気ままに動く事を許された。……俺のことを信頼してくれていることは大変うれしいが、それでも俺と二人で色んな場所に行くことを許可されている公爵令嬢ってなんなんだと愕然とした。

 それもまぁ、俺が鍛え上げたせいでお嬢様について行けるのが俺しかいなかったからというのもあるだろうけれど……。


 お嬢様は俺が魔法や剣を教えた結果、すっかり戦う事が大好きな脳筋お嬢様になってしまった。



 その豪快な性格と美しさと強さから、お嬢様に憧れるものは多いらしい。

 王太子を含む男性から婚約を申し込まれたこともあったらしいが、お嬢様はなぜか断っていた。その時のことも聞こうとしたらお嬢様に睨まれたので、俺はお嬢様に詳しく聞けていない。



 お嬢様は自由を好む。

 籠の中の鳥といったのはお嬢様に似合わない。

 お嬢様は、限られた世界で退屈して過ごすのは性に合わないようだ。



 俺はお嬢様が自由に生きているのが好きだった。

 生き生きとした表情を浮かべて、暗殺者や魔物をぶちのめして、良い笑顔を浮かべるお嬢様の表情を見ると楽しかった。



 ――お嬢様が結婚したら俺はお嬢様の隣に居られないかもしれない。でもお嬢様がどうか、お嬢様自身を気に入ってくれる方と結ばれればいいと思った。



 今年お嬢様は十六歳になる。

 もうすぐ学園にお嬢様は入学する。幸いにもお嬢様は俺を連れて学園に行ってくれるらしいから、ヒロインが現れてもどうにでもなるだろうけれど……、それでも俺はお嬢様が破滅しないか少し不安だったりする。



 ゲームの強制力というものがあったら、お嬢様は破滅に向かうのだろうか……。王太子たちを含む攻略対象とは、お嬢様は友人関係にある。俺のことも、何だかんだ王太子殿下は気にかけてくださっている。

 だけど、ゲームの強制力が働いたらどうなるだろうか……とそこまで考えて、俺はどうなった場合にもお嬢様が幸せになれるようにお嬢様を脳筋お嬢様にしたのだから大丈夫だと思った。

 今のお嬢様は例え誰が敵に回ったとしても、全てを倒しつくすだけの強さを持ち合わせている。


 戦争で多大な成果をあげたお嬢様はこの国の英雄であり、その英雄を色恋沙汰で他国にやろうとは思わないだろうし、問題はないだろう。



 だけれども、心配なことはある。




「お嬢様」

「何、エシュター」

「……お嬢様は婚約はされないんですか」



 森の中をお嬢様と俺は歩いている。お嬢様が魔物退治を行いたいといったからである。それにしてもドレス姿で魔物退治を行うお嬢様は本当に絵面的にも意味不明である。その美しいドレスは様々な魔法の込められたお嬢様の戦闘服である。

 


 お嬢様は俺の言葉に固まった。……心なしか空気が冷たくなった。本当にお嬢様は婚約の話には触れられたくないらしい。でもここで今回は引き下がるわけにもいかない。


 お嬢様ももう十六歳になる。婚約の一つも決まっていないのは、お嬢様の評判にも関わる。

 ……ちなみに俺は今年二十一歳になるが、何故だか女性と縁がなく、彼女いない暦二十一年に差し掛かろうとしていた。今の俺、顔立ちも整っている方なのになーって不思議である。




「お嬢様は……誰とも結婚しなくていいと思っているかもしれませんが、誰とも婚約をしないのはお嬢様の評判に関わりますし、何より俺はお嬢様のウエディングドレス姿を見たいんですよね」


 限りなく本音である。



 お嬢様に出会ってから早十一年、俺はお嬢様が幸せになるためだけに動いてきたと言って他ならない。乙女ゲームでは見られなかったお嬢様の幸せな結婚式を見れたら、きっと俺は思い残すことがないぐらい幸せになれると思う。

 お嬢様が嫁いで、俺が傍にいられなくなったのならば、世界中を旅しにいってもいいかもしれない。それで時折お嬢様にその様子を報告する――というのも良い未来ではないか? などと考えていたら、お嬢様はなぜか俺を睨みつけるように見ていた。





「ねぇ、エシュター」

「はい……何で、怒っているんですか、お嬢様」

「貴方は何故私が怒っているのか分からないの、エシュター」

「分かりません……」


 どうしてお嬢様はこんなに怒っているのか、俺にはさっぱり分からない。素直に口にすればお嬢様はため息を一つついた。もうこれ以上聞くのはやめよう……と思った時、驚くべきことにお嬢様に壁ドンならぬ幹ドン(大きな樹で壁ドンのようなものをやられた)をやられた。




「お嬢様?」

「ねぇ、エシュター。貴方は私に誰が相応しいと思うの?」

「そうですね。やっぱりお嬢様の事をよく知っている友人様方がいいかと思いますが」

「……ねぇ、エシュター。私の事を一番分かっているのは貴方でしょう?」



 お嬢様は幹ドンをしたまま、俺にそう問いかける。

 それはそうだろう、俺以外にお嬢様の傍にずっといたものはいない。俺がお嬢様の事を一番理解しているといっても過言ではない。





「――だから、私にぴったりなのは貴方だと思うのだけど?」

「え」



 お嬢様に言われた言葉に、俺は驚く。何を言われたのか理解できなかった。



「え、ええと、俺!? 俺、平民ですよ!? 身近にいるから手頃でいいやって思っているのかもしれないけれど、俺は――」


 お嬢様は婚約の話をされるのが面倒になって手ごろな俺の名前を出したのではないかと口を開けば、またお嬢様に睨まれた。



「手頃だからって、こんなことを言うはずないでしょう。エシュター、あのね、私は貴方を愛しているわよ」

「はい!?」



 急に言われた言葉に驚愕の声をあげれば、頬に手を添えられ、気づけばお嬢様の綺麗な顔がドアップになった。そして、俺の唇が奪われた。



 お嬢様の目は、獲物を狙う獰猛な肉食獣のようだ。そんな瞳をしているお嬢様も大変綺麗で――って違う違う、俺のファーストキスがお嬢様に奪われた!?



「あいあい、愛してる!?」

「そうよ、愛しているわ。鈍感なエシュター。貴方は?」

「……先ほどから言ってますけど、俺は平民だからお嬢様の相手には相応しくありません」

「そんな建前いらないわ。貴方自身が、私を愛してくれているかって聞いているのよ」




 じっと、お嬢様のその美しい瞳に見つめられると、嘘なんてつけない。

 俺はお嬢様の味方でいることを望み、お嬢様にだけは嘘をつかないと決めたから。



「降参です。お嬢様、俺も愛してます」


 ……というか、こんな可愛くてきれいな子に慕われたら恋しない方が無理じゃん!! 俺はただでさえ前世からお嬢様の見た目が凄く好きで、だからこそ悪役令嬢贔屓していて、妹にも「何で悪役令嬢推しなの?」とか言われてたのに。

 現実のお嬢様は俺のことを慕ってくれていて、脳筋に俺がしちゃったけれど、生き生きしていて、ゲームの世界よりも魅力的で――そんなお嬢様が傍に居て好きにならないとか無理!!




 でもお嬢様は公爵令嬢で、俺はただの侍従だし、とっくに諦めてたのに何でこのお嬢様はこんなことを言うのか……。



「でもお嬢様、俺は平民で――っ」


 また口をふさがれた!! 黙りなさいとでもいうより、口の中を蹂躙される。お嬢様、キスうまい……。でも負けてられないと逆にお嬢様にやり返した。さっきは一瞬で余裕はなかったけれど、やられっぱなしなんて性に合わない。


 お嬢様は俺にやられてへたりと座り込む。ヤバい、息切れしているお嬢様、超色っぽい……。

 そんなお嬢様に手を指し伸ばせば、お嬢様がその手を取る。



「大丈夫よ。平民だとか気にしないで。私はエシュターとしか結婚する気ないもの」

「いやでも、公爵とか――」

「お父様もお母様も賛成しているから大丈夫よ」

「え」

「私はエシュター以外と結婚する気もないし、エシュター以外とキスとかする気もないし、無理やり結婚させられるならエシュターと駆け落ちするって宣言したもの」

「は??」

「お父様とお母様も私の本気を分かってくれてたし、何より貴方は私に付き従う事が出来る只一人の番犬にして、もう一人の英雄でしょう。だからこそ認めてくれたの」



 ……確かに俺は戦争中もお嬢様の傍に侍っていたし、お嬢様に何かないように暴れてはいたけど、でもそういう英雄の称号は侍従である俺にはいらないっていったんだけど。

 それに一番大暴れしていたのはお嬢様だし。




「……いいんですか」

「いいに決まっているじゃない。私が望んで、貴方を欲しいんだもの!!」



 そう言い放つお嬢様は、相変わらず自信満々な笑みを浮かべている。





「俺、手に入れたら嫌っていっても離せませんよ」

「上等よ。私の方こそ、貴方が嫌っていっても貴方を夫にする気だったもの!! 例えば逃げようとしても無理やりとらえる気満々だもの」

「……分かりました。俺はお嬢様のものです。そしてお嬢様は俺のものです」

「よっし! 言質とったわよ!! 録音もしたわ!! 結婚式あげましょう!!」

「はい?? 結婚式? まずはお付き合いとかじゃー―」

「駄目よ駄目、エシュターかっこいいから女狐がよってくるじゃない。お付き合い期間はなしでもいいわ。私ははやくエシュターと結婚したいもの!! お父様たちに報告して入学前に結婚式あげるわよ!!」





 ――そしてそのまま本当に学園入学前に俺とお嬢様——リリシュカは結婚したのだった。






 脳筋お嬢様を育ててしまったら、そのまま捕まってゴールイン。これなんか光源氏っぽい? などと思いながらもまぁ、お嬢様は俺の隣で幸せそうに笑っているし、俺も幸せだし、いいか……とそんな風に考えるのだった。





「エシュター、私が幸せにしてあげるからね!!」

「……普通逆じゃないです?」



 そんな会話が結婚式当日にされたとか、されなかったとか――。








 ――脳筋お嬢様を育てたのは俺です(後悔はしていません)。

 (脳筋お嬢様を育てたら、そのまま捕まってゴールインしました。後悔はしていません)





悪役令嬢×転生者侍従な物語です。

結構楽しんで書いたので、楽しんでもらえたら嬉しいです。



エシュター

転生者。茶色の髪と水色の瞳を持つ。悪役令嬢より五歳年上。平民出なので良い暮らしをしようと色々頑張って公爵家で働く事に。

乙女ゲームの世界だと知ってお嬢様を幸せにするぞと張り切って頑張っていた。滅茶苦茶有能で、見た目も良い。周りはエシュターの事を好いている者も多かったが、お嬢様が近づけさせなかった。(エシュターが恋人なしなのはお嬢様のせい)

脳筋お嬢様を育て上げた本人で、お嬢様についていけるのはエシュターだけ。『番犬』とか言われてたりもする。

本人の活躍だけでも英雄となって貴族にもなれそうなのだが、そのあたりは自覚なし。とりあえずお嬢様の幸せ第一にしていた。お嬢様のことを好いていたが、身分差もあるしなと思っていたら逆告白されてそのまま結婚に至る。



リリシュカ・セーレンベルガ

セーレンベルガ家の長女。赤髪赤目の乙女ゲームの悪役令嬢。乙女ゲームの世界では母親がなくなったり、命を狙われたりと散々不幸な目にあい、王太子だけを拠り所にしていた。

しかし現実ではエシュターに出会い、エシュターに惚れ、楽しく過ごしていた。脳筋に育ったのはエシュターがリリシュカが強くなると喜んだためである。

その見た目と性格に惹かれるものも多くいたが、エシュター一筋で婚約も結ばなかった。エシュターと結婚できないなら駆け落ちするという本気の言葉を聞いて、公爵たちも仕方がないと認めた。(エシュターが英雄になれそうなぐらい有能だったからとも言える)

エシュターに女性が近づかないように働きかけていた。エシュターと結婚出来て大満足で幸せ。リリシュカにとって、エシュターは紛うことなき王子様のような人である。




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