7話 試練の洞窟
「さあ行くよ!リア!」
俺の前を意気揚々と歩いて行くソール。ソールの軽やかな足取り、そして楽しそうに進んでいく表情を見ていると、なんだか俺まで楽しくなってくる。
「ここから、試練の洞窟までってどの位なの?」
「洞窟自体までは、そんなに時間はかからないよ!でもそこからが大変なんだ。洞窟の中には獰猛な魔獣たちが住み着いている……そして、ダークドラゴンもその中の一頭と言われているの」
「試練ってそういうことなんだね……」
果たして、今の俺がそんな魔獣の巣に突っ込んでいって大丈夫なのだろうか。いくらソールが強いとは言っても、俺をかばいながら戦うなんて…… そんな簡単にできるものなのだろうか……
そんな俺の不安は、試練の洞窟に着いて、すぐに解消されたのであった。
「やっと試練っぽくなってきたね~~!」
「ソール……そんなに強かったの……?」
試練の洞窟に入った俺達を最初に迎えたのは、デーモンであった。ダークドラゴンには全然劣るが、それでもBランク程度の力はある。それを、ソールは軽々と、しかも1人でいとも簡単に倒してしまったのだ。まさに圧倒と言う言葉以外適した言葉が見つからないほどにあっさりとである。
その光景に驚いた俺を見たソールは、笑顔で口を開いた。
「リア、私のこと舐めてたでしょ?」
「いやいや、でもまさか……デーモンを1人で倒すなんて……」
Bランクと言えば、そこそこ上級者のパーティ4人がかりでやっと倒せるといったレベルである。それを少女が1人で倒すなんて、正直俺には信じられなかったのだ。おれも今は少女の姿だけど……
「リア!求めているダークドラゴンはこんなもんじゃないんだよ!これで油断したら駄目だからね!」
そう、俺達の目的の一つ、ダークドラゴン。ランクAであるダークドラゴンは、ランクBとは桁外れに強い。ギルドの中でも選ばれた者達しか挑めないというランクA魔獣。それは、それまでのランクの魔獣達とはまさに桁違いと言ったところである。その強さ、そして恐ろしさは、誰よりも俺自身がよくわかっていた。
洞窟を奥に進むに連れて、だんだんと現れる魔獣達の強さも上がっていくのがわかる。ソールはまだまだ余裕そうではあったが、流石に少しずつではあるが、疲労も見られてきた。そして、急に先ほどまで魔獣で溢れていた洞窟から、ぱったりと魔獣達の気配が消えたのである。
「急に静かになったね……」
「リア、いよいよだよ。ダークドラゴン相手ともなれば、私もあなたをかばいながら戦うのは難しい……出来るだけ、自分の身は自分で守ってね……」
言われなくても、わかっている。だけど、今の俺にはソールを頼るしかないのだ。力も失い、リアとしての存在すら失い、もはやふがいなさで笑えてくる話でもあるが……それでも、ソールに賭けるしかない。そして思わず、俺の心の声が漏れ出てしまった。
「ソール、本当にありがとう……」
「どうしたのリア。急に?」
「こんなわたしに優しくしてくれて…… それにダークドラゴンまで……なんてお礼を言ったら良いのか……」
「リア!まだだよ!本番はこれからなんだから!」
ソールは俺の方に笑顔を向けたが、その表情は何処か強張っていた。俺のために、ソールは命をかけて戦ってくれようとしている。ありがとうという言葉以外にソールに伝える言葉は見つからなかった。
そして、一歩、また一歩と歩みを進める度に、周りの空気すらもだんだんと重くなっていく。近い……
少し進むと、一気に開けた場所へと出た。その奥には大きな影が見える。明らかに、今まで見てきた魔獣達とは格が違うのは姿を見ただけでわかった。
いよいよ、俺達はダークドラゴンの元へとたどり着いたのだ。