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レシピ8 計画を立てている時ってワクワクしないか?

 昨日の夜ゆめから電話があった。


『ひろくん!』


 第一声からいつもよりテンション高め? 興奮気味のような感じだった。

 日頃の緩い感じに慣れてる俺は気圧(けお)される。


「お、おぅどうしたの?」

『大切なお話があります!』

「はい、なんです?」


 思わず敬語になる。それだけゆめの圧が強かった訳だ。


『直接会って話したいので今度会えないかな?』

「えーーと大切な話ならちゃんと時間取った方が良いだろ。有給使えるから休み合わせようか」


 そこで前にゆめとの会話で次に休みが合ったら水族館に行きたいって言ってたのを思い出す。

 ちょっと遠出も良いかも。


「じゃあさ休み合わせて水族館とか行かないか?」

『え! いくいく♪ ……あ、いや話がぁ……でも行きたい』

「もちろん話は聞かせてもらうよ。前に行きたいって言ってたからどうかな? それとも話だけの方が良いかな?」

『う~ん、いや行きたい! 水族館、行って話す』

「じゃあ明日シフト見て休み取れそうなとこ連絡するから、そこから決めよう。どこの水族館とか、どう行くかとかは決めるから任せてくれる?」

『うん、お任せする』

「じゃあ明日連絡する」

『分かった、待ってる』

「あぁ、じゃあおやすみ」

『おやすみーー』

 ………………

 …………

 ……


 大事な話か……なんだろう。両親がやっぱり会いたくないとか? 気になるが次回の予定を決めないとな。


 手始めにスマホで水族館検索をかけ、交通手段、道順や食事どころなんかを調べてみる。


 メインの水族館を何処に行くかで予定は大きく変わる。

 住んでいる場所から福岡か山口か、う~ん悩むな。それぞれのサイトで特色やイベントを見比べる。ゆめはどっちが好きなんだろう? イルカ、アシカ……


 むむむ、ってこういう考える時間が結構楽しかったりする。どうしたら喜んでくれるのかとか考えて、喜んでもらえたらなお嬉しいものだ。


 考えながらもゆめの大事な話って言葉が時々頭を過るが、水族館に一緒に行くことは喜んでたっぽいし計画を進めても問題ないだろう。

 …………いかん、気になったら集中出来ないな、なんだ? 大事な話って?

 さっきの電話でそのとき聞けば良いかって思ってたけど今になって凄く気になり出した。


 俺なんか気にさわる事したかな? とか余計な考えがグルグル回る。


「ま、そのときになれば分かるさ」


 そう敢えて口に出し気にしていないことにする。


 次の日シフトを確認してゆめの勤めている病院が休みの木曜日に合わせて有給を取る。因みに公休が金曜日なので2連休だ。

 これでもし帰りが遅くなって……いえ(やま)しい事は本当に考えてませんよ。はい。


 今日が月曜日なので3日後ってことになる。それから1回ゆめと会ったのだが大事な話は木曜日まで待って欲しいと言われたので待つことにした。

 気になるけど本人が話すって言うから待っておこう。


 そんなこんなで当日を迎えるわけである。


 因みに、山口へ向かう事にした。ゆめの希望で山口の水族館に行きたいってので決まった。近くの市場や小さな遊園地っぽいのがあるしあまり移動しなくても遊べそうだ。

 さて待ち合わせ場所まで行こうかな。


今回も無駄に早くアパートを出る。

 ────────────────────


 木曜日、今日はひろくんと水族館へデートに行きます。ちょっと遠出して山口の水族館まで行くことに決めました。

 なぜならペンギン多めです。あとイルカがアシカと共演します! 小学生の頃以来山口の水族館に行ったことが無いのも大きいかな。


 ひじょーーーーに楽しみにしてるけど不安も大きい訳です。

 大事な話、私こと夢弓がメシマズであることを打ち明け、この間のカレーを私が作ったわけじゃないってことを謝ること。

 最悪別れてしまってその場に置いていかれる事も考える。ひろくんはそんなことしないとは思うけど一応。


 財布の中身を確認して金額の確認とICカードのチャージを忘れていないかを思い出す。最悪帰れるようにはしておかないと。

 高校生の時に動物園で置いていかれた事を思いだしちょっと悲しくなる。

 私が悪いのは分かってるけどちょっとトラウマだ。


 身だしなみをチェックして待ち合わせ場所まで向かう。もしかしたら今日で最後かもとか後ろ向きな事を考えながら地下鉄の電車に揺られる。

 博多駅に先にいたひろくんはいつもと同じ笑顔で迎えてくれた。

 よし! 今は楽しもう……スパッとは切り替えられないけどね。


 ***


 博多駅から門司へ行きレトロ街を散策後、船で山口へそこから水族館へ移動。

 それで水族館にてペンギンを眺めているわけです。


「はぁ~移動するだけで可愛いとか反則だと思うようね」

「なあ、あいつ中に人間入ってそう」


 ひろくんが指差すのは、キングペンギン、あの方は体長が大きいもので1メートルぐらいあるのです。


「だねぇ、おっきいから後ろにファスナーありそう」

「小さいおじさんなら入れるな」


 周りから見たらどうでもいい会話を楽しみながら水族館内を散策、待っていたイルカのショーを見ます。いや凄かったイルカのダイナミックさとアシカの芸の細かさがマッチしたショーだったのです。


 楽しみにしていた割に描写があっさっりしてます? ふっふっふ、ここからが本番、水族館大好き人間としてはここからが本番、ショーが終わって皆が移動するなか私は動きません。


「ゆめ? 次はどこ行く?」

「いえ、ひろくんは甘いのです。ここからが本番お楽しみタイムです!」

「お、おぉ、なんかキャラ変わってないか?」


 困惑するひろくんを座らせイルカのプールを眺めます。水族館通としてショーとショーの間のこの時間は外せません。

 しばらくするとイルカのプールの小さな水門が開き控えのイルカと選手交代が行われます。

 この時点でひろくんも驚いているようでなによりです。そしてイルカやアシカがショーの練習を始めます。先ほど行われたショーの練習は勿論、今練習中の新技が見れたりするチャンスなの訳です、はい。

 これをぼ~と眺めるのが大好きで開館から閉館まで滞在できるのが自慢だったりします。

 隣のひろくんを眺めるとイルカの練習を楽しそうに見ててイルカが食べてる魚が気になってるみたい。

 トレーナーさんが投げて丸飲みする度に喜んで楽しそうに笑ってる姿に私は釘付けですよ。


「当たり前なんだろうけどイルカも練習してるんだよな。でも個人差みたいなのないの? 飛ぶの苦手なイルカとか?」

「確か東京の方、品川だったかにいたよ。もう死んじゃったけど演技も下手で飛ぶ高さも低いんだよ。でも一生懸命やる姿が可愛いんだよ! 凄い頑張れ! って感じになってね」

「ゆめ詳しいな、それだけ興奮してよっぽど好きなんだな」


 そんな話をしていると次のショーの案内がアナウンスされる。結構な時間たみたいだった。そろそろ移動しようと思ったらひろくんに手を引かれ座らされる。


「もう1回見よう、さっき練習していたの見てからショー見たらもっと楽しめそうじゃないか? 選手も交代したし見よう」


 そう言って笑いながらプールに視線を向ける。

 その横顔を私はぼんやりと眺めてしまう。


 23年生きてきて、ひろくんと付き合った期間は4ヶ月。生きてきた期間に比べれば短い時間、なのになんでこんなにもひろくんは私の中の大半を占めているんだろう。


 別れたくない……でも、もしかしたらそうなるかも。

 言わなきゃいけないけど、もしかしたらこのまま言わずにこの関係を保てるかも。

 心が揺らぐ。今日出会ってから私の言う大事な話について一切ひろくんは聞いてこない。

 私が言うのを待ってくれている。今日言わなくても「また今度で良いよ」って言ってくれるのも分かる。

 それじゃいけないって、だから今日言おうって決心したのに!


 でも怖い……


 ショーもそっちのけで頭の中でグルグルと色んな考えが渦巻き始める。


「あ、さっき練習してたのあれだよな。こうして見るとやっぱり面白いもんだな。努力してるの知ってから見ると応援に力が入るし、頑張る人って良いよなぁ。俺も頑張ろうっと」


 ひろくんに言われて顔を見たら目が合う。


「うん、私も頑張る」


 口から出る言葉と心の声が重なる。

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