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リラ

「それ、本当?正直、人じゃなかったなんて信じられないんだけど………」


ハンター本部の応接室でリリアーヌがジークにリラについて聞き直す。


「事実だ。リラが魔物暴走を引き起こしてる魔物だ。リリアーヌの証言と、以前聞いた特徴が一致している」

「きゅい!」


ジークが頷くと同時に、カーちゃんもテーブルの上に置かれた羽根を触る。それから同意するように何度も鳴く。


「きゅきゅい、きゅい!」

「カーちゃんもこの羽根とリラさんの匂いが一緒、って言うの?」

「きゅい!」


リリアーヌの確認にカーちゃんが頷く。


「人型の魔物だったなんて、信じられないんだけど………。変わってるけど、いい人だと思ったのに………」

「いい人じゃないとは限らないけどな。少なくとも今まで暴走を起こしていた魔物は、ついさっきの事件を除き、主人と何かしらの問題を抱えている場合しかなかった。魔物の立場から考えると、本当にその主に従いたいか、と確認していた部分もあると思う」


リリアーヌの呟きにジークがフォローを入れた。


「ついさっきの事件は今までと毛色が違ってた。魔物同士がいきなりぶつかり合う、なんて現象は今までなかった。リラとは関係ない部分で事件が起きたか、急にそのような事を起こす必要が生じたのか、そのどちらかだと思う。前者だとリラがその場に居合わせたのがただの偶然で、別の要因がまた存在することになるから考えたくないけど」

「後者だってリラさんが何かしらの暴走事件を引き起こす必要があった、なんて考えたくないんだけど………」


ジークの推測に、リリアーヌは眉を顰める。2人の会話を黙って聞いていた、たまたまハンター本部に居合わせただけのナディムがポツリと呟く。


「脳筋のジークがまともに推測している………?」

「てめえの頭をトマトにしてやろうか?」


その呟きが聞こえたのだろう、ジークが青筋を立てて拳を握る。


「はっ、コッペちゃんがいるのにそんな事が出来るのか!子供にはグロすぎんだろ!」

「え、私ですか?トマトは好きですよ?」


ナディムが情けない盾を振りかざすと、コッペが頓珍漢なことを言う。どういう意味なのか、わかってないのだろう。


「ジーク、コッペちゃんにそんな光景、見せないでよね」

「………後で覚えとけ。滞空時間は1時間でいいか?」

「よくねえよ!?」


リリアーヌからも止められ、ジークが唸るとナディムもすくみあがった。


「コッペちゃんから見たリラさんはどういう人だった?」

「綺麗で優しいお姉さんです!」


ジークがコッペに問いかけると、コッペは素直に答えてくれた。


「コッペちゃんはちょっと向こうでお菓子食べてて。これ連れてっていいから」


ジークはコッペが役に立たないと即座に判断し、部屋の隅に置かれているお菓子を示した。それからカー坊をその腕に抱かせる。


「きゅ?」

「………?わかりました」


カー坊とコッペが首を傾げるが、素直にこの場を離れてくれた。


「カーちゃん行かせる必要あった?」

「必要な犠牲。一緒に遊んでくれれば俺達の邪魔にはならない」


リリアーヌが苦笑しながらカーちゃんの扱いについて問うと、ジークはぶっちゃけた回答をした。


「まあいいけど」


この程度の扱いなら問題にするつもりのないリリアーヌは、あっさりとカーちゃんの犠牲を認めた。


「それでリラが急遽魔物を暴走させた理由だが、何か心当たりはないか?直前に何か起きたとか」

「ナンパ野郎がいたくらい。撃退したけど」


ジークの問いかけにリリアーヌは正直に答える。この場がリリアーヌの尋問の場であることは理解しているので、変な隠し事をするつもりはなかった。


「ふーん、つまるところそのナンパはどうやってかリラが用意立て、自身ごと襲わせようとしていたみたいだな。魔物であるリラなら逃げるのは容易なはずだし、リリアーヌかコッペのどちらかを攫うことが目的だった可能性がある。正直、なんで直に攫おうとしなかったのかはわからないけど」

「すると目的はコッペちゃん?公爵家のお嬢様だし、身代金取れそうだけど」

「魔物なのに生々しすぎるだろ」


ジークの推測にリリアーヌがかなり生々しい発言をした。


「確かに後ろについているであろう主の命令でコッペを攫おうとした、という理由付けは納得できるが、それならそんな回りくどいことはしないだろ。魔物を人攫いに利用する例はあるんだから、直接リラが攫った方が効率がいい」

「自分が攫った、みたいな情報を残さないためじゃないの?」

「だったら魔物暴走なんて暴力的な手段にはでない。下手したら殺しちまうからな」

「むう………」


ジークの言葉にリリアーヌが唸る。


「それだとリラの目的がわからないんだけど。どうしてコッペちゃんを攫う、もしくは攻撃しようとしたの?」

「自分もその対象に入れろよ」


何故かコッペが狙われた前提でリリアーヌが話を進めようとすると、ジークから待ったがかかる。


「だいぶ前からこの区で活動していたリラが、一昨日ここに来た私を攫う理由がある?」

「自分の内に聞いてみろ。他の異なる何かがあるんじゃないのか?」


ジークの問いかけにリリアーヌは首を傾げる。何が言いたいのか、まるでわかっていない様子だ。


「ま、いい。何かしらの理由があってコッペかリリアーヌを攫おうとした。これは紛れもない事実だ。だから俺は上に、ある提案をするつもりだ」

「一応言わせてもらうけど、コッペちゃんを危険な目に合わせないでよ?」


ジークの提案を聞く前に、リリアーヌが釘を刺す。


「そりゃ無理な相談だな」


するとジークが肩を竦める。当然、リリアーヌとナディムの視線が鋭くなる。


「俺の提案は、2人を一緒に行動させ、リラを呼び寄せる作戦だ。ま、今日見たく遊び歩いてくれればいい」

「ふざけないでくれる?私一人なら付き合うけど、コッペちゃんを巻き込まないでよ」


ジークの提案をリリアーヌが一蹴する。


「話は最後まで聞け。確かに危険だが、これがコッペを守る上で1番安全だ」


立ち上がったリリアーヌを宥めるようにジークが手で制す。


「まず何も考えずコッペを自由にさせる。これが1番危険だ。誰も守ってくれる人がいない状況で狙われる可能性が高い」

「それはわかる」

「次に危険なのが、自宅もしくは安全と思われる場所に匿うことだ」

「それはちょっと理解できない。なんでそれが危険なのよ」


ジークの言葉にリリアーヌが反発する。


「リラが未知数だからだ」


その理由を、ジークは一言でまとめた。


「はっきり言ってリラの能力は全くをもって不明だ。わかっているのはリラが魔物の頂点に立つ存在であり、俺達の予想の遥か上を行く能力を秘めている存在ということだけだ」

「………嘘」


リラが魔物の頂点となる存在と聞き、リリアーヌの目が見開かれる。


「嘘じゃない。今回、リラが直接手を下さなかった理由はわからないが、次もそうなるとは限らない。力で語りかけてきた場合、家に匿った所で容易に突破される。そう予測した方がいい。最強クラスの魔物が相手なんだから、最低でもこのくらいは見繕っておけ。それにいつまでかかるかわかったもんじゃない。護衛をつけるにしても、護衛とコッペ本人の体力が無限じゃない。いずれ限界が来て、そこを狙われたらおしまいだ」

「だからって………」

「だから短期決戦に持ち込むんだ。リラ自身警戒するだろうが、攫おうとした2人が仲良く並んでれば狙いやすい。高確率で狙ってくるだろう。だから隠蔽に優れた魔物の力を借りて秘密裏にハンターの精鋭を護衛させる。もちろん、俺もだ。そこで返り討ちにして、捕縛する」

「最強クラスの魔物を?」


ジークの言葉に、リリアーヌが困惑する。確かに捕縛するべきなのだろうが、果たしてそれが可能なのだろうか。


「………秘密兵器がある。それを使えば無力化は可能だと思う。下手したら殺す可能性もあるから、可能な限り使用は避けたいけど」


ジークが視線を逸らす。あまり話したい内容ではないのだろう。そのことからリリアーヌが推測する。


「もしかしてジークの魔物?いないとは言ってたけど、強すぎて危険だから隠してるだけとか?」

「いや、こいつの魔物がいないのは本当だ。俺もジークが秘密兵器を持ってる、なんて聞いたことないから驚いてる。生身と変な剣、ワイヤー以外使ってるの見たことない」

「………」


2人の推測にジークは目を閉じる。珍しく、筋肉だ!なんて謎の反論をしない。それだけ特殊な秘密兵器なのだろうか。


「武器を隠してんのは俺だけじゃないだろ」


ジークがポツリと呟き、リリアーヌを見る。その言葉にリリアーヌは首を傾げる。


「何言ってんの?」

「………ま、いい。最終手段だが、リラを高確率で無力化できる武器がある。できれば使いたくないが、必要に応じて使用する」


ジークは武器の詳細を話さず、切り札の存在のみを明らかにした。


「おいおいジーク、そんな武器があるならなんで日常的に使わない?蟲を狩るのには適さないのか?それを使えば、救える命もあったんじゃないのか?」


ハンターであるナディムがジークに率直な疑問をぶつける。その言葉にジークは苦笑した。


「コストパフォーマンスが非常に悪い上、単体への攻撃しかできない武器なんだ。普段戦ってる下位の蟲に使用するには効率が悪すぎる。蟲相手に使うなら、最低でも中位の中程度はないと、割にあわん。その分、上位の蟲ですら仕留められるほどの威力がある」

「………待てジーク。その言い方だと、まるで上位の蟲と戦った事があるみたいに聞こえるぞ。いくらなんでも、それは冗談だろう?」


ジークの言葉にナディムが口を挟む。ジークがアーガイヤ区に来てから単独で中位の中の蟲を狩った実績があるからまだいい。だが、上位レベルとなると話が変わる。


リリアーヌも身を硬くした。リリアーヌの故郷を滅ぼしたのは上位の下の蟲だ。それを殺せる武器があるーーそれを聞いて平常心でいられるほど、リリアーヌは我慢強くない。


「ジーク、その武器ならーー」

「………ここに来る前に所属していた組織で、戦う機会があっただけだ。それとリリアーヌ、ギガント・ヒルみたいなバカみたいにでかい蟲にはさすがに効かねえよ。あれ殺せるとしたら、超高威力高広範囲の魔法くらいだ。殺したけりゃ、リラに期待しろ」


リリアーヌの言葉を遮り、ジークがしまった、という表情で白状する。その組織については何も話さなかった。


「あんま俺の過去を詮索するな。安心しろ、俺がアーガイヤ区を裏切る時は、アーガイヤ区が俺を裏切った時だけだ。これだけは信用してくれ」


ジークが自分の胸を叩く。


「けどよ」

「わかった、私は信用する」


ナディムが口を開くと同時に、リリアーヌがジークを信用する胸を伝えた。


「どのみち、私がジークを敵に回したら生きていけない。変な意味とかじゃなくて、物理的に私のことを排除できるでしょ?それこそ、上に私がこの区に残れないよう口添えすることも可能なはずだし」

「否定はしない。やらないけどな」


アーガイヤ区での生活の基盤ができていないリリアーヌは、ジークを信用する他ないのだ。


「ナディムもあんま俺の過去を詮索するな。下手すると家を敵に回すぞ」

「俺の家はジークの過去に絡んでるのか?」


ジークの言葉にナディムは目を鋭くする。


「多少はな。気になるならリースから話を聞け。リースが話してもいい、と判断した場合、俺に否定する理由はない。俺の過去について話せる譲歩はここまでだ」


ジークは頷き、話を聞きたいならリースに聞くよう求めた。


「俺の話はここまでとして、作戦はさっきのとおりだ。いつ引っかかるかはわからないから数日間は実行することになると思う。その間のリリアーヌの滞在許可は俺がもぎ取っておく。もしうまく行けば、そのまま永住許可も出せると思う」

「………姉貴から話、聞くからな」


ナディムが立ち上がる。リリアーヌもリースから話を聞くため、一緒に立った。


「一応言っておくけど、信用はするけど、信頼はしないから」

「それでいい」


リリアーヌの言葉をジークは軽く受け流す。


「それとリリアーヌ、お前が何隠してるかは知らんが、危なくなったら迷わず手札を切れ。なぜあの時手札を切れなかったのかはわからないが、本当なら蟻程度に負けるようなことはないんじゃないのか?」

「………なんでジークは私の隠してること知ってる訳?」


リリアーヌが扉から出ようとすると、ジークから声がかけられた。いい加減、誤魔化せないと思ったリリアーヌは、何故ジークがそのことを知っているのか尋ねる。


「リラを捕らえられたら話す。お前の兄貴の最後の言葉を」

「………最低の手札を残していたものね!」


バン、とリリアーヌは勢い良く扉を閉めた。


「最低、か。そら、俺みたいなのは最低だよ。どんだけ仲間を見殺しにしたと思ってんだ」


ジークが俯き、ポツリと呟いた。


「それとリリアーヌ、お前も人のこと言えないからな?」


それから顔を上げ、部屋の隅を見る。バルに襲われて逃げ回っているリリアーヌの魔物、カー坊の姿を。コッペはオロオロしている。


「襲われてる自分の魔物くらい、助けろよ………」


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