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護身術………?

「リラさんは魔物を連れていないんですか?」


リリアーヌは何気ない口調でリラに話を振る。するとリラは困ったように眉を顰めた。


「あ、言いにくい事でしたら無理に言わなくていいですよ」

「そうですね、私も前は魔物が居たんですが、例の魔物暴走の事件で逃げちゃいまして」


リリアーヌはやっぱりいい、と断りを入れたがリラは素直に話してくれた。だが、それはリリアーヌの知らない内容だった。


「魔物暴走、ですか?」


本当に何も知らないリリアーヌは、首を傾げる。


「リリアーヌお姉ちゃんは知らないんですか?」


そのことにコッペが驚く。リリアーヌは子供が知っている内容を自分が知らないのか、と肩を落とす。


「あ、ははは。私、ついこの間この区に来たばかりだから………」


一瞬、この区に来る直前の事を思い出しかけるが、無理矢理意識の外に追い出した。その上、何事もなければ、近いうちにまた追い出されてしまう身でもある。


「あら、そうだったんですね。確かに魔物暴走の事件はこの区でのみ起こっている現象らしいので、知らなくても無理はないと思います」


リラがフォローを入れてくれる。


「何でも、魔物が主の言うことを聞かなくなったり、主を攻撃したりすることがあるらしいです」

「それって割とよくありますよね?」

「きゅ!?」


リラが簡単に魔物暴走の事件の詳細を話すと、別に驚くことじゃないとリリアーヌは首を傾げた。すると心外な、とカーちゃんが驚く。


「昨日、何したか覚えてる?」


リリアーヌが笑顔でカーちゃんを見る。するとスタスタとカーちゃんはリリアーヌから距離をとった。


「まあ、カーバンクルを連れてる私達は例外だと思いますが、それでも珍しい事ではないですよね?」


特に好き勝手やることの多いカーバンクルを例外としても、魔物は全て自我を持っている。お互い相容れない事があっても不思議ではなく、それだけだと暴走とはとても言えなかった。


「ちょっとした喧嘩ではないんです。中には本当に大怪我する人もいて、危険なんです。最悪の場合、契約が切れてしまいます。私はそのパターンでした」


ちょっと寂しそうにリラが笑う。


「それは………」


リリアーヌは言葉に詰まる。思っていた以上に、深刻な問題だった。


「本日はハンター本部がその調査をやっているとお伺いしたので、少しでも情報が欲しくて………」

「そういうことだったんですね」


リリアーヌはリラがなんでハンター本部に行くんだろう、と疑問に思っていたことが氷解し、納得する。


だが、本来ならこれはありえない事だった。魔物暴走事件は現在、秘密裏に扱われている内容であり、一般の人は知り得ない。ハンター本部も情報の規制は徹底されており、一般のハンターや職員はその内容すら知らない。被害者としてリラがある程度事件について知ることができたとしても、調査しているなんて事は知り得なかった。


リラはこの失敗について気付けない。だが幸運な事にここにそれを指摘する人はいなかった。そもそも事件について詳しくないリリアーヌに、まだ子供であるコッペ。どちらもリラにそのことを指摘できるほど、事件に関する知識を有していなかった。


「何かわかるといいですね」

「………はい」


リラが俯く。リリアーヌはどう声をかけていいかわからず、黙る。


「ヘイ、そこのお姉さん達!俺達と遊ばない?」


そんな沈黙を破ったのは、完全なる第三者である知らない3人の男たちだった。リリアーヌはそれを侮蔑するように見る。


「興味ない。どっか行って」


シッシッ、追い払う。だが、そんなもので追い払えるほど、男たちは諦めが悪くなかった。連れていた魔物と一緒に3人を囲む。カーバンクルはその隙間を縫うように包囲網の外に逃げた。それをリリアーヌはジト目で見た。


「そっちの餓鬼に用はない。どっか行っとけ」


男の1人がコッペをシッシッと手を振る。だが、コッペは怯えるようにリリアーヌに抱きついた。


「お姉ちゃん………」

「大丈夫だよ」


リリアーヌがコッペを抱き寄せる。最悪、コッペだけは逃せる。子供だから男共の守備範囲外であり、それは難しくない。


「そっちの子供は逃してやるから安心しろ」


もう一人の男がリラに笑いかけた。やっぱ狙いはこっちか、とリリアーヌは息を吐く。リラはジッと、3人を見ていた。


「うひ、うひひ、俺はそっちの子供とぶべぇ!?」


残りの人がコッペを見て何かを言おうとした瞬間、4方向ーー男2人とオークと思しき魔物、リリアーヌから頭部に拳を受けて沈黙した。


「お、姉ちゃんいい拳だな!」


沈黙した男を蹴飛ばし、コッペの視界から消した後に最初に話しかけてきた男がリリアーヌに笑いかけてきた。ナンパ野郎だが、そんなに悪い奴ではなさそうである。


「………どうも」


だからといって、リリアーヌが手加減する理由にはならない。リリアーヌは護身術を身に着けている。それこそ、ジークを倒せるほどに。


リリアーヌが動く。それを見た男は少し身を引くが、飛んできた砂が目に入る。


「うげっ!?」

「悪いけど、あんたたちみたいなのに手加減するほど行儀よくないよ!」

「ぎゃっ!?」


砂を投げたリリアーヌはそのまま驚いている男の目に、右手の人差し指と中指を突き刺した。目潰しである。しかも遠慮する様子がまったくない。そのまま足を引っ掛け、砂を投げた男に向けて目潰しした男を投げつけた。


「ちょ、はあ!?」


砂を浴びた男は咄嗟に避ける。その際にリリアーヌは男が飛んだ先に先回りし、着地点で足を払う。こっちもそのまま投げられ、最初に投げられた男と重なった。


「悪いけど、私はそこそこ対人戦は強いよ?武人じゃないから汚い手はいくらでも使うけど」

「目潰しはないだろ………」


目潰しという非道な技を平気で使ったリリアーヌに、投げられた男が呻く。リリアーヌが使う護身術だが、基本的に自分の身を守る事に重きが置かれていて、それ以外は割と度外視されていた。目潰しは当然として、人体の急所を確実につく技ばかりなのだ。ジーク相手に使っているのは、割と優しい部類の技である。


リリアーヌはふん、と倒れた男2人をみやると、リラとコッペの手を引く。


「早くこの場を離れよう」


唖然としている2人を無理矢理引っ張り、その場を後にした。秒殺だったため、野次馬は全然集まっていなかった。


「お姉ちゃん、凄いです!」


コッペが素直にリリアーヌを褒める。それに対してリリアーヌとリラは苦笑した。


「アレは真似しちゃいけない凄さだと思います」


困ったようにリラが首を傾げる。男2人を簡単に沈黙させたのは確かに凄いが、それ以上に目潰しが汚かった。あれやられたら、力量差以前に大体の相手は沈黙する。


「真似しちゃ駄目だからね」


リリアーヌもこれはない、という自覚があるのか、コッペに釘を刺した。ならやらないでください、とリラは視線をリリアーヌに送る。


「と、ここまで来れば平気かな」


それなりに人気が多いところに来ると、リリアーヌは足を止める。


「ハンター本部はあちらです」


リラが一方向を指差す。そちらには遠いが、確かにハンター本部が見えていた。


「はあ。やっと知ってる所に来れた」


リリアーヌが肩を落とす。意識が完全にハンター本部に向いていた。コッペも同様である。


だから気付けない。リラが指差した手を広げ、握りつぶした事を。その瞬間、その場の空気が変化したことを。


「キシャー!」

「グルァ!」


突然、2匹の魔物が暴れ出す。獅子型の魔物と蛇型の魔物が、お互いを攻撃しあう。周囲への影響を気にもせず。


「ベルン!?」

「アカシャ!?」


2匹の主なのだろう2人が、突然暴れだした自分の魔物に驚く。それから静止させようと2匹にしがみつき、吹き飛ばされた。メキッ、と嫌な音がした。悲鳴があちこちで上がる。


「カーちゃん!」

「キュイ!」


突然の出来事に驚いていたリリアーヌだが、怪我人が出ると即座に動く。自分の魔物を呼び寄せて、怪我をした人を癒やす。


「バ、バルちゃん………」


コッペも目の前の出来事に青ざめながら、自分の魔物に指示を出した。流石の異常事態からか、バルも迷わずもう一人の怪我人の治療を行う。


「ちょっと、これはどういうこと!?」


怪我をした人の肩を掴み、リリアーヌが問いただす。


「わ、私が知りたいわよ!何も指示なんて出してない!ただベルンと一緒に散歩してただけなんだから!ベルン、止まって!」


助けた人も混乱しているのか、必死に自分の魔物に声をかける。が、まるで反応を示さない。どんどん被害が広がっていく。建物だけでない。怪我を負う人も増えていく。


「コッペちゃん、リラさん、誰か信用できる人を連れてきて!私はここで被害を食い止める!」


リリアーヌは即座に決断する。ある程度戦えるリリアーヌが時間を稼ぐのは良策に思えるが、実際は愚策だ。リリアーヌの技術はあくまで対人専用であり、魔物には殆ど通用しない。時間稼ぎにすらなりはしない。


「お姉ちゃん!?」

「キュイ!」


コッペが驚き、カーちゃんはリリアーヌに追従する。


「お願い、私の願いを聞いて!」


リリアーヌが右手を地面に打ち付ける。それを見たコッペはビクッと震えると、ハンター本部に向かって走り出した。


「大地よーー」

「お前の願いなんか聞かずとも、制圧してやらあ!」


リリアーヌが口を開くと同時に、1人の男が叫ぶ。それと同時に魔物の近くの地面が爆ぜた。


「大人しくしてろや、オラァ!」


ワイヤーを使って無理矢理魔物の間に割り込んだジークが、2匹の頭を全力で打ち付けた。バゴン!という絶対に肉から響いていけない音と同時に、暴れていた2匹が血を流しながら白目を向いてひっくり返る。


「ジーク!?」


突然降ってきたジークにリリアーヌが驚く。タイミングが良すぎる。まるで何処かで待ち構えていたかのように。それと同時にホッとした。こいつならこの場を任せられる、と。既に事件は(物理的に)片付いていたが。


リリアーヌがジークに近づく。すると、今までの雰囲気とは異なるジークの眼光に怯んだ。


「そこか!」


ジークが右手を突き出す。その先には多くの人が逃げまとう姿があった。


ワイヤーと己の脚力で飛躍したジークが吠える。


「逃さねえぞ!」


驚いた人々が散り散りになる。ジークはその中で確かに、左腕を振るい、何かを掴んだ。それから左手を見る。


「………チッ」


最後に舌打ちした。再度周囲を見渡したが、逃した何かは既にその場にいないのか、地面に拳を打ち付けた。


「大チャンスだったのに、逃した………!」

「ジーク、どうしたの?」


リリアーヌがジークに、何がしたかったのかを尋ねる。


「区からの依頼で追ってる奴がいるんだよ。そいつがいたんだが、ギリギリの所で逃げられた。こんなもんを残してな」


ジークが掴んでいた何かをリリアーヌに渡す。それは昨日見せていた羽根だった。


「これ昨日の?」

「昨日のとは別もんだ。見た目は全く同じだがな。俺が追ってる奴がわざわざ、わざわざ残してくれたもんだ!」


苛立ちを隠せないジークが吐き捨てるように言う。


「もしかしてジークが魔物暴走の事件を追ってるの?今まさにその現場があって、そこにジークが駆けつけたんだし」

「ああ。なかなか厄介なのが事件の犯人みたいでーー」


リリアーヌの言葉にジークは頷きかけ、慌ててリリアーヌの肩を掴んだ。


「何処で魔物暴走の話を聞いた?」

「え、さっきリラさんって人から聞いたよ。なんでも、ここ最近そんな事件がアーガイヤ区で起きてるって。あ、リラさんはその事件の被害者で、魔物がいなくなったって言ってたよ。このような悲しい事件が二度と起こらないように、しっかり原因解明してよね」


リリアーヌがジークの手を外し、その背中を叩く。するとジークは書類を取り出し、何かを確認する。


「ジーク?」


突然書類を確認したジークに、リリアーヌは困惑した。


「リリアーヌ、そのリラってどんな姿をしてる?金髪で、色白で、翡翠色の瞳をした女性か?」


ジークが書類から視線を外さず、リリアーヌにリラの特徴を尋ねた。


「へ、よくわかったね。すっごい綺麗な人だったよ。あ、もしかして魔物がいなくなった傷を癒そうとお近づきになりたいとか言わないよね?」


リリアーヌが驚きつつ肯定し、それから邪推した。それを聞いたジークはパタリと書類を閉じる。


「………つだ」


それからジークが呟き、叫んだ。


「そいつがこの事件の犯人だ!そもそも人じゃねえ!契約者不明の人型魔物!それがリラだ!」

「………え?」


その言葉がわからず、リリアーヌは固まった。

基本的にリリアーヌの護身術(?)は人体に効率よくダメージを与える者だけです(白目)

武人としての心得やマナーなんてありません

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