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運命の出逢い

 魔王様に命じられてアディという人間を俺が捜す羽目に。面倒だな〜、いくら俺が凡ゆる魔法を見破る眼を持つからって。こうゆうのは普通、下級の魔族がすることじゃない?


 大体素性が判ってるなら召喚魔法を使って呼び出せば良いのに。不満に思いながらも校舎内をぐるっと見回す。誰かに訊いても知らないって答えるだろうし、眼を使うか。


 魔眼は一人につき一つの眼しか持てないけど俺は特異体質だから魔眼を二つ使える。この事を知ってるのは魔王様だけ。


 普段閉じている目を開け、写真に映っているアディの姿を頭に思い浮かべる。すると周囲の景色が変わり、アディを映し出す。お、成功〜。


 ふむふむ、西校舎か。此処からそう遠くないな。でも西校舎って今はもう使われてない場所だよね。何でそんなところに居るんだろ。もしかして、中々面白い子だったりして。


 俺はにんまりと笑い、西校舎に向かって走り出した。




 ん〜と、確かこの辺だったはず。魔眼を頼りに西校舎に行くと直ぐ近くにアディの姿を見つける。やっと見つけた!と近づこうとすると一瞬アディの姿がブレる。ふ〜ん、やっぱり認識阻害の魔法を使ってたんだ。


 でも俺には通じないからね。あの子がどれだけ優れていても、所詮は人だし。もったいないな〜、魔力が高い種族に生まれてくれば将来有望だったのに。


 取り敢えず捕まえようとアディの傍に行くと、彼はずっとなにもない大木を見上げている。いや、実際には大木の木の枝に乗る怪異が居るんだけど人に見えるはずないし。


(にしてはガン見してるしな〜。ひょっとして本当に()()()たり?)


 気になって気付いたら声を掛けていた。


「何か面白いモノでも見えるの?」


 話しかけるとアディは驚いた様に俺を見る。俺が君を認識出来るのがそんなに珍しいかな〜。笑顔を浮かべてるだけなのにアディは酷く警戒する様子を見せる。


「そんなに身構えないで、アディ。俺はリック。君を捜してたんだ」


「……ハロルド皇子の手の者ですか?」


 アディは疑いの目を俺に向ける。


「あははっ。アディは俺を獣の手下だと思ってるんだ?まあ普通そう考えるよね〜。でもごめん、俺は事情を知らないからなにも話せないんだよ」


 そう言うと訝しげな目で俺を眺めるアディににっこりと笑いかける。もっとこの子と話したいけど早く連れて行かないと厄介だからな〜。魅了を使うか。


「それより一緒に来て欲しいんだ。アディ、()()()


 目を開きながら魅了を使い、アディを誘う。息を呑むアディはどう見ても人で、強い魔力なんか感じない。普通の人間ならこれでイチコロだ。なのに。


「嫌です」


 凛とした声が耳に届き、俺は目を開いたままアディを凝視する。彼は依然そこに立ち動く気配はない。魅了が、通じてない?この子は人間なのに?


 人間が悪魔の力に屈しないなんてあり得ない。人間はこの世界で最弱の生き物。抗える術なんか……ふと皇太子がアディは魔学が得意だという話を思い出した。興味がないから聞いてなかったけど、何か防御魔法でも施してるんじゃないかと思った。


 ゆっくりとアディとの距離を詰めると意外にも彼は逃げなかった。目の前まで歩いて来た俺をただ眺めているだけ。


(怯える様子もないし、ほんと不思議だな〜。ますます気になる)


 アディを魔眼で見ても防御魔法を使ってはいない。なら何で俺の魅了魔法が効かないのか。同性という考えが脳裏を過ぎる。魅了は異性に使うと最大限の効果を発揮するけど、同性だとどうしても効力が弱くなる。


 魅了が効かないってなると無理矢理連れて行くしかないけど抵抗されると面倒だからな〜。どうしたもんかと考えているとアディに強烈な違和感を抱く。


(あれ?この子良く見ると……)


 男という割には小柄で背もそんなに高くない。せいぜい百六十センチ程度。極め付けは仄かに鼻につく甘い香り。注意してないと絶対に分からない程の香りが何か解った瞬間、ドクンッと心臓が脈打つ。


(ああ、そっか〜。アディは女の子なのか)


 何で男装なんかしてるのとかはどうでもいい。神子様と同じ性別だと知れば竜族も手を引く。さっきは事情を知らないとアディに言ったけど、ちょっと調べれば学園の動きなんか直ぐ把握出来る。


 異性なのに魅了が通じないのは気になるけど、これを脅しの材料に使えるはずだ。


「ねぇ、アディって女の子なの?」


 俺が訊くとアディは固まった。その反応だけで真実だと悟る。後退りするアディの手首を掴み、少し力を込めて握る。


「何で男装をしてるのか問い詰める気はないけど、男装してるって学園側にバレたらどうなるかな?」


「……それは脅しですか?」


「アディが一緒に来てくれるなら男装の件は黙ってるよ。約束する」


 こんな面白い人間、俺が獣に差し出すわけないじゃん。アディは諦めたのか逃げる気配がない。それに満足して、俺はアディの手を繋いで歩き出した。


「どうして僕が女だって解ったんですか」


 憎々しげな声が聞こえて思わず笑ってしまう。アディから怒りのオーラが伝わってきて更に笑ってしまった。


「なんでか知りたい?」


 歩みを止めてアディに問い掛けると彼女は黙って肯く。


「じゃあキスさせて?」


「……は?」


 たっぷりと間を空けてアディが言い放った言葉はそれだけだった。


「情報を知りたいなら対価を払わないと。タダでなんでも教えてもらおうなんて虫が良すぎるんじゃない?」


 アディはムッと口を引き結ぶと、繋いでいた手を振り払う。


「それが対価なら結構です」


 一人で生徒会室に向かおうとするアディを引き止める。彼女は振り返ったが笑い転げる俺を見て眉間に皺を寄せる。


「ごめんごめん、意地悪し過ぎたね。今回は特別にタダで教えてあげる」


 だから近くにおいで。とアディを手招きすると彼女は渋々といった様で俺の横に来る。


「あのね、アディから甘い香りがしたんだよ。その香りは女性しか持たない香りなんだ」


 途端にアディの顔色が変わる。男装に拘ってるみたいだけどアディって性同一性障害?でもそれなら学園側に申告すれば済む話だ。


「因みにアディはなぜか香りが全然しなくてね。俺も気付いたのは偶然だから」


 試しにそう言うとアディはほっと息を吐く。本当面白い子だな〜。適度に揶揄っても面白い反応見せるし、人間ってのが惜しいな。人間じゃなかったら簡単に恋人にできるのに。そう考えている自分に少し引いてしまう。


「リックさんって獣人なんですか?それとも人間?」


 アディは人間にしか見えない俺の容姿をじろじろと見て問う。悪魔って言ったら逃げられるかな〜?うん、それは困る。


「獣人じゃないし、人間でもないよ。あとリックで良いよ?敬語も要らない」


 どうしても親しくなりたくてアディにそう言った。普通の人間なのにこんなに惹かれるのはなんでなんだろう?魅了にでも掛かったみたい。


 目の前にいる人間が欲しくて堪らない。一度も人に靡いた事なんかないのに、ついさっき逢ったばかりのアディに恋心を募らせる理由が分からない。


 悪魔だって恋をする。けれどその対象が蔑み馬鹿にして来た非力な人間なんて。でもそんな事気にならない。色んな表情のアディが見たい。このまま連れて行きたくない。


 魔王様直々の命令なのに抗おうとする俺は側近失格だ。だが悪魔は強欲だ。欲しい物は力づくで奪うことこそが至上。


 待っててね、アディ。君を必ず手に入れるから。

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