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帝王が友好的な理由

 固まったままの僕を本気で体調が悪いと信じているのか、おでこをペタペタと触り熱を測る帝王。天然と言われれば謎の行動にも説明が付く。


 ただ、この気安い感じはなんでだろう。初対面の筈だし、そもそもヴァンパイアは竜族の次に人間を嫌っている種族で有名だ。


 レイモンドが僕に友好的なのはまだ解る。命の恩人だから。でも帝王には理由が見つからない。優秀なレイモンドの命を救ったからとお礼を言われるのはいい。けれど此処まで親しげにするもの?


 僕の疑問が膨らむ一方なのに気付いたレイモンドが帝王に声をかける。


「帝王は人間が嫌いだよね。何でそこまでアディには親しげなの?」


 あ、やっぱ人間の事嫌いなのか。と思う僕の隣で帝王様は手を止めてレイモンドに視線を移す。


「興味があるからな。我らを恐れないどころか一緒に茶を飲む度胸が在る人間は初めて見る。それにこの子は魔学の成績が良いので一度話してみたかった」


「え、魔学で?凄いじゃんアディ!」


 レイモンドが感心した様な目で見て来るので居心地が悪い。魔学が優秀な人間なんて生意気だと思われるのがオチだからだ。彼がそういうタイプじゃなくて良かった。


 魔学というのは魔法や魔術を勉強する授業の事で生徒達から大人気な授業だ。獣人は魔力が少ないけど誰でも簡単に魔法や魔術が使える魔法陣がある。その魔法陣の上では呪文を唱えるだけで魔法を操れる。


 人間用の魔法陣もあり、人間は魔力が無い代わりに生命エネルギーとなる霊力を使う。ご存知の通り僕は普通の人間より霊力が有り余ってるので調整しないと大惨事になる。色んな意味で。


 最初は勝手が分からなくて呪文を唱えた瞬間魔獣が出現した。(因みにその時の授業は召喚術だった)喰われると覚悟したけど召喚士の人が術を解いてくれて事なき終えた。


 さぞ怒られると思っていたんだけど、何故かベタ褒めされた。曰く、人間で魔獣レベルを召喚できる者は珍しく先生も目にしたことがなかったらしい。めちゃくちゃ興奮しててその後の魔学では色々と教え込まれ優秀な成績を修めた魔学ではA評価を超えてS評価。


 魔学の先生に気に入られた僕は他の教科でも期待されたわけで。獣人である教師陣が揃いも揃って人間を持ち上げて良いのかと尋ねた事はあるけどこの学園の教師陣はいちいちそんな事に頓着しないらしい。獣人だろうが人間だろうが優秀な逸材は育て上げるというのがスタンスな様です。


 僕の中では学園の教師陣は変人だらけという印象が植え付けられた。


 そんな感じで魔学の成績が良いのは自負してる。でも何でそれをヴァンパイアの帝王が知ってるんだろう。魔学の先生が言い触らしたのかな。一応口止めしておく様に催眠かけたはずなのに。


「私は魔学の成績を付ける役を担っているからな。人間であの成績は目覚ましい活躍だと日頃より目を付けていた」


 ん?成績を付ける役を担っている?僕は顔を上げ帝王の顔をまじまじと見る。艶のある柔らかそうな銀髪に血の様に濃い赤い瞳。こんなに美しい容貌をした先生なんか居たっけ?


「帝王様は教師なんですか?」


「?いや。私は特別講師という立場で主に魔学の成績を付けるのを手伝っている。時々授業の様子を見て生徒一人一人の能力を推し計り点数を付けていく。それを基にして評価をするのが魔学の教師の役目だ」


 普段は教壇に立って教える立場にはないと帝王は言う。気づかれない様に気配を殺して授業を観察していたのだから驚きだ。


 あーうん。良く判った。ヴァンパイアの長でありながら僕に興味を抱く理由が。だって帝王様の瞳、魔学の先生に負けないくらい好奇心で満ち溢れているから。


 神様の嫌がらせオプション能力は本当に嫌がらせそのものだった。


「レイに近付く人間は皆吸い殺すつもりだったが、お前なら殺す理由はないな。魔学で解らない事があったら訊くといい。お前を歓迎しよう」


 めっちゃ物騒な事言われた後に歓迎すると言われても恐怖でしかない。結局僕は殺されてたかもしれないの?なにそれ死亡フラグ立ちまくりじゃん。案外黙って話を聞いていたのは得策だったかもしれない。


「あ、あの。感謝してるって言ってましたよね?」


「感謝はしているが矢張り同胞に人間が近づくのは不愉快だからな。だがアディなら問題ない」


 急に名前を呼ばれ心臓が口から飛び出すんじゃないかと思うほど驚いた。


「何を驚いている。お前の名はアディだろう?」


 違うのか。と言いたげな目にそうじゃないと言うべきかこれ以上口を開かないべきか。なんか口を開く度に余計な情報を引き出している気がする。


「レイ。アディに紅茶のおかわりを。だいぶ疲れている様だ」


「あーうん。分かった。(疲れてるのは帝王の所為じゃ……)」


 遠ざかって行くレイモンドの背中を見送りながら一度深呼吸する。結論から考えると僕は殺されない。帝王は話がしたかっただけ。もうこれでいい。


 ぐちゃぐちゃな頭で考える事を放棄すると一気に肩の力が抜けた。


「……済まない」


 僕の様子を見守っていた帝王からぽつりと謝罪の言葉が溢れる。見つめると彼は優しい眼差しを向けた。


「私と会った時から今もずっと怯えているだろう。威圧を感じ取る程の人間なのかと感心はしたがお前だとは思わなくてな。つい殺気混じりになってしまったんだ。済まなかった。これからは親しみを覚えて接してくれるとありがたい」


 綻ぶ様な笑顔を見て、緊張の糸が解れた感じが自分の中でする。その笑顔は反則過ぎませんか。


 僕は一度立ち上がり不思議そうにする帝王を見つめる。こうして気持ち穏やかに見ると、彼が冷たい吸血鬼だけじゃないのが()で判る。ゆっくりと頭を下げ口を開く。


「僕の名はアディと言います。以後お見知り置きを、アルフレッド様」


 笑顔で言えばアルフレッド様も穏やかな笑顔を浮かべてくれる。


「ああ。よろしく頼む、アディ」


 茜さす空の下、恐怖の感情しか抱かなかったヴァンパイアの帝王に慣れるのは早いだろうと予感した。

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