皇子様が血眼になって僕を捜してるらしい
神様の嫌がらせオプション能力で遊んでいる時、ふいに声がした。その声の主は今僕が遊んでいる風から発生しているらしく、声をよく聞く。
かいつまんで言えば、ヴァイストルカー学園の生徒会長である皇子様が僕を必死に捜しているらしい。理由を考えてみたがいかんせん心当たりが無さすぎる。
てなわけで皇太子の追手を躱すべく能力の一つである認識阻害を使ってなるべく僕を認識出来ない様にした。僕を捜す理由なんて絶対面倒事に決まっているからだ。
「おい、居たか?」
「まだ見つからない」
「あっちを探そう」
そう言って僕を捜す彼らは横を駆け抜けて行く。こんなに近くに居るのに気付かないなんて、認識阻害って凄いな。彼らの背中を見送りながら自分の教室に入る。
基本、人間である僕が居ても他の獣人達は気にしない。この学園では一応人間に危害を加える事は禁じられている。(まあそんなルール在って無いようなものだけど)但し魔剣勝負は別。
あれは人間への鬱憤を晴らすための獣人のストレス解消であって日常的に暴力沙汰があるわけじゃない。そんなのが頻発していたら人間はあっという間に絶滅する。
だから獣人達は何時もは人間を空気の様に扱うか、自分達より下に見るだけ。下手に関わって不利益を生じたらたまったものじゃないと考えているんだろう。
なのに皇太子の行動が解せない。何故人族の僕を捜すのか、不思議で堪らない。どっかで情報収集出来ないかな。そこまで考えてふとある人物が頭を過る。彼なら何か知ってるかな。
放課後ガーデンテラスに行くと予想通りレイモンドが居た。僕が彼に近づくと向こうも気配に気づいたのか顔を上げる。僕を見つけるとパッと表情を明るくさせ、手を振る。
「アディ、いらっしゃい。今日は何飲む?」
「ダージリンティー」
そう答えるとレイモンドは手早く紅茶を淹れ始める。やっぱ慣れてるのかな、という思いで眺めていると目の前にカップが置かれる。
口を付けると香りが鼻をくすぐる。ああ、いい匂い。それに落ち着く。レイモンドとのお茶会は案外楽しくて最近の楽しみになりつつあった。
今度ベルティナも連れてきてあげたい。レイモンドは許可してくれるだろうか。紅茶を半分程飲み終え、僕は皇太子の異常な行動を訊く。
「え、ハルがアディを捜してる?」
今初めて聞いたと言わんばかりの驚き様に僕も驚かされる。呼び名からしてレイモンドは皇太子と親しい間柄なのだろうか?
「ハロルド皇子が僕を捜してるって噂で聞いて。それってなんでなんだろう?」
「うーん、ハルの事は帝王経由で会った事あるけど人間に関心がある様には見えなかったよ。あ、でも神子様には興味津々みたい」
「……神子様?」
突然出てきた単語を聞き返すと彼は困った様に笑う。
「そっか、人間のアディに言ってもピンと来ないよね。神子様っていうのは強大な魔力を持っている人間のこと。普通の人間は魔力なんか持たないでしょ?それと神の加護を受けているから神子様って呼ばれてる。神子様は絶対人族にしか生まれなくて、今回は二千年ぶりに生まれたって話」
そんな人間が居るなんて、初めて知った。齎される大量の情報を処理しながらレイモンドの話に耳を傾ける。
「神子様は普通の人間にはない身体的特徴があってね、髪が真っ白だったり一つ目や一本足、過去には瞳の色が虹色に見える神子様も居たらしいよ」
瞳の色が虹色と聞き、即座にベルティナの姿が浮かび上がる。あの子の珍しい虹彩。もしあれが神子様を表すものだったら……
「神子様がこの学園で見つかったっていうのは知ってるけど確か女の子だったはずだよ。なのにハルがアディを捜す理由は俺もわかんない」
今の言葉で確信した。ベルティナが神子様だと。そしてなんとなくだが皇太子が僕を捜すのは神子様と仲が良いからなんじゃないか?
神子様が怪しい奴と関わっていたら国の一大事だろうし僕は性別を偽ってこの学園に通っている。それがバレたりしたらどうなるか……
頭を抱えたい気持ちで空を仰ぐと僕の顔に大きい影が差す。途端にぶわっと鳥肌が立ち、頭の中で警鐘が鳴る。振り向いちゃいけないと解っていても身体が勝手に後ろを向いた。
レイモンドも息を呑み行く末を見守る。きっと彼は手出しが出来ない。だって僕の目の前にいるのは━━━
「ほう、貴様がアディとやらか?」
ヴァンパイアの頂点に君臨する帝王が表情無く僕を見下ろしていた。ああ、僕はこれから死ぬかもしれない。そんな予感がした。