四度目の人生は楽しく自由に
一度目も二度目も三度目も悲惨な末路を辿ったので今世は楽しく自由に生きると決めた僕。だから家に居ても意味ないわけで。
事情があって家に居られなくなった僕は自分がやってみたい事を片っ端から試して行った。そうしたらお金も段々増え、知り合いの獣人のおかげで学校にも通えることに。
二度目の人生の時も学校に通ってた時期はあったけど、この世界は人間への差別が酷いからなぁ。目立たず目を付けられない程度に自由にやろ〜っと。
そうして意気揚々とヴァイストルカー学園に入学した。が、矢張り差別がえげつなかった。人間というだけで虐げられイジメの標的にされる。
その中でも胸糞悪いのが魔剣勝負。(魔剣とは迷宮を攻略した証に攻略した者に付与される剣。)種族が人間の生徒一人を選び、獣人の一人と剣で勝負するゲーム。もちろん人間が勝った事は一度もない。
獣人と人間じゃ力の差が歴然だ。それを分かっているのに敢えて虎や獅子の獣人が出てくるのは悪意が有るからだろう。
今のところ僕は選ばれてない。神様の嫌がらせオプションである不思議な力、この場合霊力とか妖力を使って僕を認識させないでいるから。
本当は剣の相手に選ばれてボコボコに負かしても良いけどそれはそれで面倒だし……そもそも、他人の事なんかどうでもいい。僕は自由に生きると決めたのだから他者を顧みる余裕はない。
今日も授業を全て受けて一日が終わる。あ、今度新しいバイト先に行かないと。そう思って歩き出そうとした時、誰かが僕の背を叩く。
振り向くと浅葱色の髪をウェーブにした小柄な子が居て、僕に笑いかけた。
「アディ、一緒に帰ろ!」
天使の様な笑顔を浮かべる彼女はベルティナ。僕の大切な友達だ。入学式で席が隣同士になり仲良くなった。
僕もベルティナに笑いかけ彼女の手を取り歩き出す。
「急いでごめんね。新しいバイト先が決まったから早めに行かなくちゃいけなくて」
申し訳なく思って謝ると彼女はぶんぶんと首を振った。
「気にしないで!私はアディと一緒に居られるだけで幸せなの。バイト頑張ってね」
ああ、このベルティナの笑顔を見てるととても癒される。特に虹色に見える瞳が大のお気に入りで、珍しい虹彩に好奇心も膨らんで行く。
「ベルの瞳は相変わらず綺麗だね、羨ましいな」
僕なんか暗そうな藤紫色の目だもん。しかしベルティナは僕の目を素敵だと褒めてくれる。こんな子と友達になれて。うんうん、中々楽しい人生を謳歌してるじゃん。
ふとベルティナに向けられる視線を追うと何人かの獣人がベルティナに見惚れていた。ベルティナは人間だけど、虹色という珍しい瞳に加え目が覚める様な美しい容姿を持っている。惹かれるのは当然だろう。
そう意味もあってベルティナは魔剣勝負に選ばれる事はない。わざわざ生徒会長兼この国の皇太子自らが決めた時は流石に驚いた。
ベルティナが重宝され、傷付く事がなければそれで良い。他人に関心が無い僕でも唯一守ってあげたいと思った人間だから。
でも、一つ疑問が残る。何故皇太子は表立ってベルティナを庇ったのか。位の高い竜族やエルフとかなら兎も角、人間を庇う事がどれだけ竜の逆鱗に触れる事か解らない程愚かではないはずだ。
それともベルティナ自身に何か有るのだろうか?確かに彼女は人目を引く容姿だとは思うけど、それだけで?
横で機嫌よさそうに鼻歌を歌う美しい少女を観察しながら僕は抱いた疑問の答えを探し求めた。━━後にベルティナが僕にとって、これ以上の厄介者に成る事も知らず。