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美味しい朝食と冷蔵庫

 目を覚ますと僕は家に居た。

 何時帰って来たんだっけ。確か夜にリックと会って、それで……


 その先の記憶がないことと誰かの気配に気付く。バッとベットから飛び出しリビングに向かう。バンッとドアを乱暴に開けると良い匂いがした。


「あ、起きた?おはよう」


 エプロン姿のリックが僕を振り返り暢気に挨拶をする。

 ……僕は、こいつに家の場所を教えただろうか?否、それはない。それに何で僕の家で朝食を作ってるんだ。何時から居る?


「君、何で……」


「あれ、覚えてないの?アディ急に気を失ったんだよ。それでアディの気配が強い家を探して送ったわけ」


 気を失った……疲れていたとはいえ、僕が他人の前でそんな失態をするはずがない。

 いや、でも昨日は特に疲れていたし、有り得ない事が起こっても不思議ではないような……とりあえず。


「……ありがとう」


「どういたしまして」


 僕のお礼にリックは満面の笑顔で返す。疑問も解決したところでテーブルに目を向けると食事が置かれている。これは彼が作ったんだろうか?


「君、料理出来るの?」


 フライパンを洗う彼に問いかける。


「まあね」


 自慢げに笑うリック。意外な一面だ。椅子に座りじっと料理を凝視する。

 こんがりトーストにサラダ、スープ。どの家庭にも出てきそうな食事。とりあえずサラダから食べ始めた。


「……っ!」


(な、なにこれ!?美味しい!)


 見た目は普通のサラダと変わりないのに、とても美味しい。正直有り合わせで作ったものとは思えなかった。あまりの美味しさに直ぐに食べ終わってしまった。


「ごちそうさま。とても美味しかったよ」


「ほんと?口に合ってよかった」


 リックは空になった皿を流し台に置き、手早く洗い始めた。

 その姿を見ながら、何でこの人は頼まれてもいないのに家事をしているのか気になった。ただの気まぐれか、世話焼きな性格、は流石にないか。


 思えばリックは夜から朝までずっとこの家に居たんだろうか。別に家の中を物色されても貴重品とかはないからいいけど、()()が見つかるのは少しまずい。


 余計な詮索をされたくないし、また弱みを握られたら堪ったもんじゃない。


「そういえばさ、アディ。あれなんなの?」


 リックの問いに一瞬ドキッとしたが指を差す方向を見て、ああ。と呟いた。


「冷蔵庫のこと?」


 リックはキョトンとした顔になり、冷蔵庫?と聞き返す。


「冷蔵庫ってなに?」


 魔法が発達しているこの世界では魔道具が必須アイテムになっている。電気を点けたり火を灯したりできるので家庭では料理をする際必ず必要になる。


 僕も最初は便利だと思っていたけど、魔道具の中に物体を冷やすものはあっても()()のものが無かった。

 最初は魔道具の周りに冷やしたいものを並べて冷やしていたが魔道具の魔力が切れると意味がない。そもそもこの世界には食べ物を冷やして日持ちさせるという概念がない。


 故に店先で売られているケーキ類の賞味期限は一日だけ。あとアイスクリームもあまり人気ではない。二十四時間冷やそうとしたらどれだけの魔力が必要になるか……早い話、魔道具は冷蔵に不向きだった。


 僕はなんとか改良出来ないかと考えた。そこでバイト先から箱をもらい、特殊なコネを使って魔道具の原力である魔石を手に入れた。


 この魔石は使い勝手がよく、魔道具に加工する前の方が魔力を少なく使える。

 しかも魔力を込めた魔法陣に置いておけば二十四時間フル活用でき、尚且つ魔力を消費しない冷蔵庫が完成した。おかげで日持ちする食べ物が増えて食には困らなくなった。


 僕の説明を最初は笑顔のまま聞いていたリックは今や唖然としている。


「そんな便利なものがこの世にあるなんて……だからあんなに食べ物が沢山あったんだね。アレを一人で食べ切るのかって心配したよ」


 リックの言うことに思わず苦笑する。魔道具自体が高価とは言わないが、性能が高ければ高いほど手が出しづらい。冷蔵庫を作ろうと思ったのは節約の為だ。


「ねえ、あの冷蔵庫って魔石と魔法陣があれば作れるんだよね?俺でも作れる?」


「魔法陣に魔力を込めれば。ただ僕がもらった魔法陣は特殊な素材で出来てたから同じになるか……」


 ガタッとリックは立ち上がると冷蔵庫を開けて中を覗く。魔法陣を観察しているのか、後ろ姿からは判別出来ない。

 徐ろに身体を起こした彼は満足そうに頷く。


「素材も分かったし多分大丈夫。それにしてもアディは凄いね、こんな道具を発明しちゃうなんて」


 リックは褒めてくれるが、日本に居た頃の知識なので迂闊に話せなかった。着替えてくると言いリビングを逃げ出そうとしたら彼の声がかかる。


「着替えるの手伝ってあげようか?」


「遠慮します」


 断ったのにリックが笑うからなんだろうと思って見ていると違和感に気付く。

 制服に着替えようとしたのだがよく考えれば昨日服を着替えた記憶がない。なのに僕の服装は夜着になっていた。


(まさか……!)


 嫌な予感がしてリックを見ると手で丸を示した。次の瞬間、僕は大声で叫んでいた。


「このエロ悪魔っ!!」


 って、あれ……?

 なんで今、リックを悪魔なんて言ったんだ?


「へぇ……」


 にっこりと満面の笑顔を貼り付けたリックが近づいてくる。固まって動けない僕の頭を優しく撫で、リックは不満そうに唇を尖らせる。


「エロ悪魔、ねぇ……?そんなに俺に脱がして欲しかった?」


 肩に手が触れ、服をズラされる。今度こそ生命の危機を感じ取り慌ててリックから距離を取る。


「あ、悪魔とか言ってごめん……でも脱がされたくはないからっ!!」


 そう言い残し部屋まで走り出す。後ろからリックの笑い声だけが響いていた。


「素直なのか計算高いのか。ふふっ、ほんと可愛いなぁ」


 リックがそう言っていたことなど知らない僕は、暫く彼の顔を見れそうになかった。

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