平穏の終わり
煌めく海の上に掛かる橋を渡り切ったトラックから、恐る恐る男が降りた。その場に居合わせたのは全部で4種族。獣人、魔人、エルフーーーそして人間。その日は運命が混じり合い、それぞれの平穏な日々が終わりを告げた日である。
◇ ◆ ◇
時は遡ること数刻前、俺こと五十嵐 蓮は茨城県は大洗町の海岸沿い、国道51号線を走行中であった。
「あー、異世界転生でもしないかなぁ。あ、でも死ぬのは嫌だから転移がいいか」
朝っぱらからそんなことをボヤきつつ、朝日で輝いている海を横目で見ながらトラックを走らせる。
「トラックが突っ込んできて異世界転移……ありがちだなぁ、なろうの読みすぎか」
まったくその通りである。
「まあその場合トラックに乗ってる側が俺なんだが……やめよう縁起でもねぇ、安全運転、安全運転」
この男こそ、小さい会社ではあるものの株式会社 物流王の二代目であるというから先行きが心配である。
「物流王ねぇ、親父は運送業界のトップにでもなるつもりだったのかね。物流王に俺はなる!」
そんな冗談を言いつつ運転中の眠気を覚ます。だがこの後すぐに眠気は一瞬にして吹き飛ぶ事になる。
『世界番号0から3までの文化水準が一定まで達しました』
『世界番号1、2、3を世界番号0へ接続します』
『全種族を対象に言語補助のギフトを付与します』
「ーーっ!?な、なんだ!?」
突然目の前に文字が浮かんできて焦る蓮、とりあえず危険なのでハザードを点灯してトラックを路肩に停車させる。
「なんだったんだ今の声……ラジオはつけてないし、完全に頭の中で響いてたぞ!?」
もう一度目の前に浮かんでいる文字を見てみる。
「さっきの声はたぶんこれの事だよな……」
しげしげと見ていたら文字はスっと消えていった。
「あら、消えたな」
と、そこでトラックが揺れていることに気付く。
「おいおい今度は地震かよ、一体どうなってんだ!?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
下からた突き上げるような揺れはどんどん強くなっているようだった。
「うおおおおおおおっ!」
車内の手すりやハンドルにしがみつき振動に耐える。そうして耐えること数分、今までの揺れが嘘だったのではないかと思うほど唐突に静かになった。
「おさまった……か?」
耐えることに必死だった蓮は俯いていた顔を上げる、そうして視界に入ってくるのは白だった。
「……は?」
窓の外は白い何かでいっぱいだった。周囲のどこを見回しても同じ景色だ。
「これは霧……いや靄か?」
もはや立て続けに色々な事が起こりすぎて頭がおかしくなりそうな蓮は辛うじてそう呟く。少しの間呆然としていたが取り敢えず降りて状況の確認を試みる。
「……ん?」
トラックから降りた蓮は足元に違和感を覚えた。ここは国道51号線の道路上であり普通ならアスファルトのざらついた凹凸の感触が帰ってくるはずだ、だが今は何故かツルツルしている。おかしく思った蓮はしゃがみこんで地面に触れてみる。
「なんだこれ……大理石みたいな……」
おかしく思いつつも立ち上がり周りを見渡すが、やはりどこもかしこも真っ白で1メートル先すら全く見えない。
「困ったなぁ」
そんなことをボヤいていると白いモヤがスーッと薄くなっていく。そして周りの元の景色が見えるようになる。いや、正確には一部はもう元の景色ではなかった。
「お、これでやっと見えるよう……に……て、え?」
それは島だった。
今いる所から見えたはずの朝日に輝く大海原は今は大きく様相が変わり、巨大な島が出現していた。そしてその島から伸びる4本の橋、そのうち1本がこちらに伸びていた。……そう、こちらに伸びてきているのだ……彼の足下まで。
「なんで島が?……それにこのバカでかい橋は一体……」
と、足下を見てみる。そこに本来あるはずのアスファルトはツルツルとした大理石のような素材に置き換わっていた。先程見たものはこの橋だったのだ。横幅はかなり有り、10メートル以上ありそうだ。それがずっと伸びていき島まで繋いでいる。ガードレールなどもそこの部分だけ切り取られたかのように消え去っていた。
「…………まじか」
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