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【IV】


お久しぶりです。

文章を直すのに時間がかかってしまい、次話投稿まで遅くなってしまいました。



そして、報告です。

作者名を「月彩」から「椎名 ルイ」に変更いたしました。

月彩という名前は読みにくいなぁと思い、カタカナに直しました。

今後ともよろしくお願いいたします。

 汐里は開かない扉と腕時計とを見比べてため息をついた。もう夜の八時になろうとしているのに2人の姿はない。秋也はただ一言、出かけてくると言ったきりかれこれ2時間も帰ってこない。鈴音は朝早くから仕事に行っているようだった。

 我が儘だということは百も承知だが、こんな薄暗い部屋に独りきりは寂しく、早く2人に帰ってきて欲しい。

 それに、今日はここに泊まれる最終日。そう、今日が約束の7日目なのだ。明日には荷物をまとめてここを出て行かなくてはならない。宿泊代で既に無一文の汐里は早く仕事も見つけなければならなかったのだ。

 正直、もっとこの家で暮らしていたい。それはただ単に甘えからではなく、純粋な鈴音たちを慕う心からでていた。初めは無愛想で苦手だと思っていた秋也は実は優しくて頼りになる人なのだと知った。鈴音とはあまり話したことがないが、おそらく鈴音も優しい人なのだろう。そうでもなければ見ず知らずの汐里を助けてはくれない。

 

 

「少し、外に出てみたいなあ」

 

 

 ここに来てからの唯一の不満はそれだけだった。薄暗い部屋で二人の帰りを待つのはもう慣れてしまったし、食事も結構贅沢なものを与えられていたと思う。しかし、外に出してもらえない。鈴音が外出を禁止する意味もわからない。外への憧れは日に日に募るばかり。仕事だって探さなければならなかったのに、外へ出られないばかりに結局無職のままなのだ。

 約一週間、それでも不満を言わずに部屋の中でじっとしていられたのはこの家の本のおかげである。

 今、手にとって読んでいるのは汐里も引っ越す前に読んでいた人気作家の新作だった。読み終わる前に古本屋に売ってしまったのでラストが気になっていたのだが、まさかこんなところでそれが叶うとは思わなかった。そんなポピュラー小説以外にも歴史書や雑誌、医学書までが揃っていて読書好きな汐里は退屈することが無かったのだ。以前、鈴音になぜこんなにたくさんの本があるのか尋ねてみたら、知人からのもらいものだと言って詮索されるのが迷惑そうな顔をされた覚えがある。

 そんなことをぼんやりと思いだしていたら不意にドアを叩く音が聞こえた。鈴音か秋也が帰って来たのだと疑う様子もなく扉を思いっきり開く。   

 

 

「よぉ。初めまして」

 

 

 扉を開けて顔をだしたのは、全く知らない男の顔だった。髪の毛を金色に染め、いかにもチャラそうな外見。しかし、汐里に向ける瞳にはそのへらへらとした表情とは似ても似つかない殺気が漂っている。

 汐里は本性に従ってゆっくりと一歩、後ずさった。それを逃がすまいと男に手首をつかまれる。強い力だ。ほどけそうにない。

 

 

「逃げるなよ。あんたに聞きたいことあってわざわざここまで来たんだ。話くらいは聞けよ」

 

 

 有無を言わせない口ぶり。

 

 

「あなたは誰なんですか? 腕を離してください」

 

 

 にこり。男が笑う。

 

 

「レンにチクられると困るから名前は言えねえな」

「ふざけないでください。 それに、レンって誰ですか?」

 

 

 すっ、と細められた目。

 その眼光に射抜かれる。

 

 

「レンってのは、鈴音のことだぜ。嬢ちゃん? ウェイクって酒場に行ってみな。そこで奴は働いてる。それと」

 

 

 つかまれた腕に力がこもる。男のごつごつした指が食い込んだ。痛みでわずかに顔をしかめる。

 

 

「あんまり調子に乗るなよ。こっちの質問にだけ答えりゃいいんだ。あんたの質問に答える暇はねえ」

 

 

 反論をさらに返そうとするが、首元にナイフが当てられた。ひくり、と喉が上下する。生唾がわいてきた。

 

 

「今自分が置かれている状況を、そろそろ分かってくれねえか? 緊張感のねえ女だな。イライラする」

 

 

 舌打ちをして、低く囁く。ぞわりと悪寒が走った。

 

 

「さて、やっと大人しくなったな。おれが聞きたいことってのは、ひとつだ。イエス・ノーで答えろ」

「いいご身分だな、コータ。おれに無断で客に尋問か?」

 

 

 闇の奥で鈴音のアルトの声が聞こえた。すっ、と姿を現す。瞳が冷たく輝いていた。

 

 

「おお? 王子様のお出ましってわけか。今お楽しみ中なんでね。野郎は引っ込んでろ。それとも、この女を助けるか?」

 

 

 コータと呼ばれた男が発した皮肉を鈴音は肩をすくめて受け流した。ピリピリとした空気。

 

 

「まあな。その女はおれの大事な客なんでね。御返し願おうか。できれば穏便に済ましたい。面倒なことはごめんだ」

「穏便にいくとは思ってはねえだろ? レン。戦えよ。つまらねえ奴だな」

 

 

 言い終わると同時に首元から刃が離れ、コータが素早く鈴音との間合いを詰めた。

 軽い調子でひらりとかわす。鈴音は腰から銃を取り出し、コータの額に狙いを定める。一発。弾丸ははずれ、地面に食い込む。

 

 

「おいおい、それはねえぜ。ちょっと卑怯なんじゃねえか?」

 

 

 言葉を無視し、2発目。一瞬立ち止まったコータの肩を軽く掠める。しかし、コータは気にする様子もなく再び襲いかかる。銃のボディで刃を防ぐ。

 

 

「残念ながら、おれはお前の弱点を知ってるんだぜ? 右肩、痛いんだろ?」

「余計なお世話だ。弱点を知っててもそこまでたどり着けるのか?」

「たどり着くさ」

 

 

 自信まんまんに答えるコータ。銃の弾が残り少なくなった鈴音もナイフに変える。接近戦になった。ましてや鈴音の負傷しているのは利き腕だ。まだ完治はしていない。相当な痛みを伴うはずだ。だが、鈴音は顔色ひとつ変えずに大きく肩を振りかぶる。その時、僅かに鈴音の判断力が鈍った。そこをコータが見逃すはずもなく、銀色の刃は右肩に向かった。

 

 

「鈴音っ」

 

 

 思わず声をあげる。肩の薄皮と衣服を犠牲にして接近したコータの後ろに回る。そして、首筋に銃を突きつけた。がちりと鈍い音がして、あたりは再び沈黙を取り戻す。

 

 

「ちっ。今日はここまでか。相変わらずシケた戦闘方法しか使わねえな。戦いを楽しむ心は持ってねえのか?」

「あんたと何かを楽しむつもりはない。首をふっとばすぞ」

「あーあ。萎えちまった。じゃ、今日は帰るとすっか。明日も店来るんだろ?」

「生憎だが行くつもりはない。本業で手一杯だからな」

「あっそ」

 

 

 それだけ言うと、コータは背伸びをしてだるそうに帰っていった。図太い神経の持ち主だ。後ろから銃を突きつけられながら、背伸びをするなんて。

 ある意味感嘆してると鈴音はこちらを振り返り、早足で近寄って来たかと思うと平手が飛んできた。頬に熱がこもる。突然のことに呆然としたが、鈴音の目は限りなく冷ややかなそれだった。

 

 

「おれの手を煩わせるな。ドアを開けるときは確認しろと何度も言ってあったはずだ。なぜ守らない」

「……ごめんなさい」

 

 

 素直に謝る。今回は汐里が悪い。鈴音は憮然とした背を向け部屋に入った。

 そしてその後を汐里は気落ちした様子で追うのであった。

 

 


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