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【III】


途中で少しだけ官能な表現があるかと思われます。

…ほんの少しです!

 

 客間に通された鈴音は早く用件を片付けるべく単刀直入に話を切り出した。電気屋でコピーした青い瞳の写真ともうひとつは汐里の写真。それらを部屋の中央においてあった木材のテーブルに置く。それを見た大悟はため息をついて写真を差し戻す。その仕草に鈴音は眉をひそめた。

 

 

「どうして受け取らない。これが仕事の依頼だ」

「まあまあ、そう怒るなよ。そんなに早く用件を出してもらっちゃ困る。おれとしてもあんたに興味があるんだ。少しくらい話をしたって許されるさ。なあ?」

「話をする必要性がない。少なくともおれはな。最近まで付きまとわれていた奴に仕事を依頼するなんて不本意なんだ。さっさと取引を終わらせたい」

「おっ、流石に気づいてたか。付きまとっていて得られた情報でとても興味深いものがあったんでな。それについて少し話をしたいんだ。いいだろう?」

 

 

 唇の両端をあげ、大悟は笑みらしきものを顔に浮かべた。しかし、それは変態のそれにしか見えず、この男の底意地の悪さを明確にしていた。

 

 

「興味深い情報か。話を聞こう。その情報は何だ」

「思い当たる節があるだろう? 例えば、酒場の売れっ子が実は女だったとか、な」

 

 

 くすっ

 鈴音が小さく笑う。ばれていることを最初から予測していたかのように。または、その危機を楽しんでいるかのように。

 どちらにしろ、大悟に言われたことに動揺を感じている素振りは見せなかった。

 

 

「それで?おれにここで脱げとでも言いたいのか? お前くらいの財産を持ってるやつなら女には苦労していないと思うが」

「そう、おれは女には苦労なんざしたことねえさ。だが、男として暮らしている女の裸とお前が酒場のサービスでやっている“蕩けるようなキス”を味わって見たくてな。なにせおれの周りにはそういう女はいないんだ」

「全く、最近は男どもは妙に性欲が有り余っているようだな。おれはこういう趣味はないんだが」

 

 

 それだけ言ってからおもむろにTシャツに手をかけた。わずかな衣ずれがして、鈴音の上半身が露になる。しかし、わずかなふくらみのある胸にはさらしがきつく巻かれており、鈴音はそれさえも脱いでみせた。Tシャツの下には滑らかで褐色の肌の色。小さいが形のよい乳房。腹筋はきれいに割れていた。

 舌舐めずり。自分の胸を隠すこともせずに不敵な顔で大悟の顔を凝視する。唐突に二人の唇が重なり合った。いきなりのことに閉じられていた大悟の歯を無理やりにこじ開け、鈴音の舌が侵入する。官能的な空間。二人分の体重がかかり、ソファーのスプリングが悲鳴をあげた。

 

 

「っふ」

 

 

 僅かに漏れた吐息は二人の唇の間を抜け、大気に交わる。大悟は小さく仰け反った。時折鈴音が故意的にならすリップ音は無機質な客間に多少の潤いを与えた。

 壁にかけられた時計の秒針がちょうど二周したとき、その空間は断ち切られ、二人の間には客観的な空白が生じる。

 

 

「どう?感想は」

 

 

 大悟の顎をつまみあげ、足を組んで上品に笑っている様はまだ余裕があることが窺えた。

 

 

「悪くねえな。さすが、女たちに騒がれるだけある。ホストなんてやらねえで娼婦になりゃもっとがっぽり稼げたと思うぜ」

「そりゃどうも。生憎、貧弱な胸しか持ち合わせてなくてね。娼婦は向いてないんだ。それより、ここまでサービスしたんだから料金安くしろよ」

「ああ、検討しておく」

 

 

 ソファーから降りて、Tシャツを着込む背中を大悟は思わず凝視した。無数の傷跡。小さいものから大きいものまで、様々な傷跡が背中に刻まれていた。それと、もう一つ。首筋に捺された焼き印。そこだけが滑らかな肌の上で存在を主張していた。丸い焼き印。形からして何か意味を持つ刻印かと思われた。普段はファンデーションで隠してるのであろう。しかし今はさっきの交わり合いでこすれ落ち、半分ほどが見えてしまっていた

 二つの謎。久し振りに大悟が一人の人間の情報に興味を持った。女のくせに酒場のホストをやる度胸、真実がばれても不敵に笑う、鈴音。一体、どこからその余裕はくるのか。大悟は 

 

 

「それで?金はいくら用意すればいい」

 

 

 いきなり振り向かれたことにぎくりとした。多少、動揺しながらてもとにあった煙草に火をつける。

 

 

「そうだな。そのお二人さんだけなら金貨三枚が妥当ってところだな」

「いつまでに情報を集められる?」

「最低でも五日は必要だ」

「それじゃ、遅い。三日でなんとかしろ」

 

 

 鈴音が睨みを利かせた目ですっぱりとそう言い放った。

 

 

「三日で終わったら報酬はあんたの望んだ額の二倍払う。悪い話じゃないだろう?」

「金貨六枚ね。魅力的な数字なのは確かだが、三日はいくらなんでも無理だぜ」

 

 

 不服そうに鈴音が眉をひそめてテーブルの上の煙草をくわえた。火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出す。自分の要求が当てもなく彷徨う空間は居心地が悪く、その場を縫い合わせるための煙草だったがそれは逆に不快感を深めるばかりだった。

(この男、馬鹿ではないな)

 素直にそう思う。金には釣られず、自分の力量にあった分だけの仕事を受ける。そういうやり方は嫌いではない。

 

 

「それじゃあ、片方だけでいい。こっちの女だけは三日で調べ上げてくれ。つい最近まで外野夫人のメイドをやっていた女だ。外野にはたくさん知り合いもいるだろうしな」

「まあ、片方だけなら何とかなるな。わかった。引き受けよう。こっちの得体が知れない奴はで調べる五日で調べる。それでいいな」

「もちろんだ。また三日後に来る。それまでに用紙にまとめておけ」

「言われなくとも」

 

 

 大悟が肩をすくめて言う。前金の金貨三枚をテーブルに乗せ、部屋をあとにした。外はもう夕暮れ。沈もうとする太陽に鋭い視線を送りながら、鈴音は一人、呟く。

 

 

 ただ、一言

『待っていろ』と。

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