4.痛みが
私は妊娠後、やたらと食べたくなった物があった。
それは、わかめである。
何故わかめか、というのは聞かないで貰いたい。私も理由は分からないのだから。
わかめは特別好きでも嫌いでもなく、いわゆる普通だった。けれど妊娠後、わかめしか頭に浮かばなくなってしまったのである。
それも、わかめラーメンかわかめうどん限定という不思議。一日に一回はうどんに野菜たっぷり、さらにわかめたっぷりでうどんを食べていた。
もう一度言う。何故とは言わないで貰いたい。
妊娠中は本当に眠く、何度昼寝をしたか分からない。
お腹が大きくなって来ると、仰向けになるのが重くて、さらに息苦しかった。横向きで寝るとすぐに耳が痛くなる私に、これは辛かったとだけ言っておこう。
ちなみにお腹の子は逆子で、左を下にして寝なさいという先生からのお達しがあった。逆子が治らなきゃ、帝王切開だよと。
だから私は必死に左を下にして寝ていた。寝にくくて何度も起きていたから、昼寝をしてしまっていたのかもしれない。
予定日は二月二十七日。
それより二ヶ月も前の、十二月の末の話だ。
この日、旦那様の弟が遊びに来ていた。うちに泊まって行く予定だ。
二人は兄弟仲良くお酒を酌み交わしながら、テレビを見ていた。
忘れもしない、『エイ○アンVSプ○デター』だ。
つけているテレビを、つい私も見てしまった。胎教に悪そうだと思いながら、こういうのが好きでのめり込むように見た。
今でも後悔している。妊娠中にこのような映画を見てはいけない。
『うわぁ〜』と眉を寄せたくなるシーンのたびに、お腹が蹴られた。次第に子宮が収縮し始め、強烈な痛みが襲って来た。
今までに感じた事がないくらいの激痛。私の顔は痛みと恐怖で歪んでいたと思う。まだ予定日まで二ヶ月もあるのに、もう産まれてしまうのかと。『エイ○アンVSプ○デター』のせいで。
慌てて病院に電話を掛けると、一応出産の準備をして今すぐ来てと言われる。
しかし今すぐ来てと言われても、旦那様と義弟はお酒が入った状態。もちろんこんな痛みの状態で、私が運転できるわけもない。
旦那様は電話を掛けて、義父が飛んできてくれた。お酒大好きな義父がこの日呑んでいなかったのは幸運だった。
私は病院に連れて行って貰い、その日は入院となる。幸いなことに大事には至らず、翌日には退院となったのだが。
声高に叫ぼう。
胎教に悪いものは見てはいけない。
そして奥様が妊娠したら、旦那様はお酒を控えるように、と……。