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4.次男、誕生!

 さて、暴れん坊将軍の体重はメキメキと増えて、予想体重が三千グラムを上回った。

 自身の体重の増加と次男の体重で、腰が痛くなるくらい重い。足の爪も切れないくらいお腹は出っ張っていて、旦那様に切ってくれと頼んだほどだ。お相撲さんに付き人が必要なのが、よく分かるなぁとぼんやり思う。


 さて、今回は破水もなく、順調に三月二十七日に産める事になった。

 お腹が重い。早く産んで楽になりたーい! その一心である。

 ちなみに先生から、「今回は最初から全身麻酔しましょうか?」という伺いがあった。

 前回は初めてのお産だったので、その感動を味わえるようにと部分麻酔を勧めてくれた先生だったけど、今回は二度目だから必要ないかもと思ったらしい。


「いえ、今回も部分麻酔でお願いします」


 長男の時は腹切り状態で、死にそうになった部分麻酔での帝王切開。いや、しかし今回はちゃんと麻酔が掛かっていない事を訴えるんだ!! そしたらあの地獄は免れ、生まれた瞬間のとんでもない感動の嵐を味わえる!!

 都合の良い事に、あの時の痛みはなく、感動だけが味わえると思っていた。麻酔をちゃんとかけてもらえていれば大丈夫だろうと。

 あの感動を味わえないとか勿体ない!! もちろん部分麻酔じゃー!! と意気込んでいた。


 そうしてやってきた三月二十七日。

私は素っ裸になって手術台に上って寝転がる。もうこの辺は前回に経験済みだから、なんぼのもんじゃ状態だ。母はどんどん強くなるものである。

 腰に注射されると、仰向けに寝転がされる。ピリピリ、と、正座した時の痺れのような感覚が、左半身を覆い尽くした。

 あれ、やっぱりこれ……右半身の麻酔、効いてなくないか?

 手足を動かして確認してみると、左半身は全く動けないのに対し、右半身は普通に動く。なんだろう。私は右半身の麻酔が効きにくいタイプなんだろうか。

 私は焦った。このままでは、また地獄を見る羽目になる。それだけは、どうしても避けなければ。


「す、すみません! 右!! 右半身が動くんですけど! 麻酔が効いてないです! 」


 私の必死さを、どうか分かって貰いたい。私は武士ではないのだ。痛みに弱いのだ。切腹はごめんだ。


「ああ、そう? じゃあ右を下にしようか」


 え、右を下に?

 先生の言葉を受けて、モゾモゾと右を向こうとする。が、左半身はがっつり麻酔が効いているせいで、うまく動けない。


「ちょっと、こっちでするからお母さんは動かないで! 危ないよ」


 先生の焦った声が飛んで来て、ピタリと動きを止めた。どうやら私は動かなくて良かったらしい。前回の通り、両手両足を大の字に縛り付けられると、手術台がウイーンと右側に傾いた。

 ピリピリという痺れが、左から右に移っていく感じがする。良かった、これで大丈夫なはずだ。

 予定通りに手術は始まったので、旦那様、長男、実家、義実家の面々も揃っている。有り難いことだ。

 満を持して、私は手術を受けることになった。


 先生が、「メス」と言ったかどうかは覚えていない。

 次の瞬間、私が感じたものは。


 やっぱ麻酔してても痛ぇえじゃねぇぇええかぁぁぁああッ!!


 ヤバイ、涙出そう。今回は麻酔もきいてるし、大丈夫だと思ったのに。

 でも前回と違って叫び声を上げないで済んだので、痛みは前回よりマシという事だ。

 とにかく始まったらやめられない。数十分の辛抱だ。耐えろ、耐えろ私!!

 始まった直後からやっぱり全身麻酔にしときゃ良かったと後悔しつつ、何とか歯を食いしばって耐えていると。


「長岡さん、痛かったら叫んでもいいから!! ちゃんと呼吸して!!」


 そう言われてしまった。私は痛みを我慢するあまり、息を殺してしまっていたらしい。

 ああ、痛かったら痛いって言って良いんだーとホッとすると、私は遠慮なく叫んだ。


「あーーいたいーーめっちゃいたーーい痛い痛い痛いーーっ」


 なんかちょっと、余裕のありそうな叫び声である。実際、長男の時と比べれば、痛みはそこまでじゃなかった。でも前回よりはマシというだけで、痛いものはやっぱり痛い。痛いのは大嫌いだ!

 あんまり遠慮なく痛い痛いと叫ぶもんで、先生が「全身麻酔に切り替えようか?」と言ってくださった。

 冗談! ここまで我慢して、出産の感動を味わえないとか、絶対に嫌だ!!


「大、丈夫……」


 と答えた途端、やっぱりまた後悔した。痛い痛い痛い。痛ーーい!!


「酸素マスクしてあげて」


 長男の時にはされなかった酸素マスクが、次男の時にはしてくれた。


「これでちょっとは痛みマシになるから」


 と言われ、半信半疑で吸ってみる。

 確かに酸素マスクをする前とした後では、痛みが違った。どういう原理なのかは分からないけど、酸素マスクをした方が、痛みは少なくなったのだ。それとも先生がそう言ったから、プラシーボ効果でそう感じただけなのだろうか。

 しばらくそうしていたけど、今度はなんだか息が吸いにくくて苦しくなってきた。頼んで酸素マスクを外して貰うと、また痛みが強くなる。


「大丈夫? 酸素マスクつけた方が楽じゃない?」

「うう、やっぱりお願いします……」


 もう一度酸素マスクをつけて貰う。息苦しくはあったけど痛みは少しマシになり、そのまま何とか耐える。

 長男の時に、こんなに時間かかったっけ? 重いー苦しいー痛いー早く産まれてー。


「よし、取り出すよー。痛いけど頑張って、お母さん!」


 分かってたけどやっぱ痛いのかー!

 うー、怖い怖い。痛いのやだ。でもこれを越えないと、次男は生まれてこない!!


「は、はひぃっ」


 今度は手を突っ込まれた感覚は分からなかった。ただ、極限の痛みだけは長男の時と同じだったように思う。


「ううううううーーーーッッ」

「もうちょっともうちょっと!」


 いやいや、一気に出してよ、先生ーー?!


「よし、生まれたよーっ」


 うま、れた……

 どっと脱力する。

 感動なんだか痛みなんだかよく分からない涙が頬を伝って、看護師さんがよく頑張ったねって褒めてくれる。

 うぎゃーうぎゃーと、生まれたばかりなのにハスキーなボイスが手術室に広がっていた。長男の時の声とは全然違うなぁと、なんだか力強さを感じた。

 そしてようやくお待ちかねの対面。

 看護師さんが「お母さんですよ」と言いながら次男をこちらに向けてくれる。

 うわぁ、旦那様の弟そっくり!!

 次男はやっぱり次男顔のようで。

 その顔を見ると、顔がぐわーッと熱くなって、またもぽろぽろと涙が溢れていた。

 やっぱり漏れ出る言葉は「ありがとう」で。今回は余裕もあって、「よろしくね」とも言えた。

 一分もしないうちに次男は離され、私はそれを見送る。

 無事に生まれて良かった。元気な子で良かった。絶対あの子は強い子だ。


「長岡さん、このままでいけそうですか? 全身麻酔に切り替えましょうか」

「全身麻酔で……」


 そうお願いすると、私は一瞬でブラックアウトした。

 もしかしたら、長男の時のような七色の光のトンネルが現れるかと思っていたんだけど。

 ストーーンと意識が落ちて、真っ暗になった。これが普通の麻酔の効果だろう。長男の時は、もしかしたら臨死体験に近かったのかな……なんて、今更ながら思う。

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