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無能で有名な将軍キャラに憑依しました。  作者: 冬森レイ
第1章 第1部 士官学校編『王国歴298年(春)』
7/8

【入学】と【三方中将】


  オフィシャルク学園 ―――――――― 学園長室 ―――――――――――


  リグルドside


  オフィシャルク士官学園で入学式が執り行われる当日この学園の学園長室には

 四人の男性が来客用のテーブルを囲って座っていた。


  その中の一人である長い白髪と白髭を持つ見るからに高齢だと見て取れるまる

 で賢者の様な見た目をした男が口を開いた。


  彼の名前は『エドワード・フォン・ローランド』。王国軍少将にしてこの士官

 学園オフィシャルクの学園長を務めている御年69歳の初老人であり今年の新入

 生総代であるアスラン・ギュスタードの養父でもある。


「まさかこの忙しい時期に、皆々様方三方中将が全員お揃いになるとは学園としは

 嬉しい限りなのですが宜しかったのですか?」


  王国子爵という貴族の肩書まで持つこの老兵が若干畏縮してしまうほどの人物

 はこの国の軍内部にもそうそう居ない。


  彼が畏縮して話し掛けた対面の椅子に並んで座る三人はそれだけ高い地位に座

 す人物たちであった。


  北方軍司令長官『ザックス・フォン・リボルゲイツ』、南方軍司令長官『ポル

 レキア・イズマレード』、東方軍司令長官『ログロス・フォン・リグルド』この

 国の三地方の陸軍を纏め上げる最高責任者達である。


  王国軍の関係者達からは三人を総称して『三方中将』や『三方長官』と呼ばれ

 ている。


  因みに西方は王国海軍と中央軍の縄張りであり、西方には海軍用の士官学校が

 存在する。即ち王都にあるこの士官学園は陸軍専門の士官学園と言える。


「なに、将来を担う若手を見ておこうと思ったまでの事だ!気にするな」


  暑苦しく片手を強く握りしめながらリボルゲイツ中将が叫んだ。常にグラサン

 を掛け王国人特有の銀髪を中分にしていて毛先が若干外ハネしている。


  自作の赤色で派手な軍服を着用していて三人の中では一番目立つ。性格は交戦

 的でよく雄叫びを上げることで有名な将軍。背中には彼の性格の所為なのか熱血

 すぎて赤い炎の様な熱気が薄っすらと見えている。


(隣に座っているから彼の熱気が直で感じられて熱いでちゅ・・)


「・・・・・・・・・・拙僧もだ」


  喋り出しに異様に時間を掛けて話し出したのは南方中将のイズマレード中将。

 

  三人の司令長官の中で唯一帝国では無く帝国の属国である『キャロルレイク

 公国』と国境を接している王国南方軍の司令長官である。


  王国南方は移民が多く住む地域なので南方軍を構成する軍人の多くも移民とし

 て王国に住み着いた者が多い。


  彼も元々は移民として王国にやって来た人物であり2mを超える長身に何時も

 全身を覆い隠す様に民族衣装を着こみ顔を仮面で隠しているので表情などは分か

 らない。


  性格は寡黙で冷静なのだが、仮面から覗く赤い目が怖いと思われがちなので周

 囲の人間で彼と親しくない者は大抵彼を怖がっている。


  三中将の中で一人だけ貴族では無いのだが「南方は移民色が強くて王国人それ

 も貴族が率いるのには大変な地域だ」との意見が多く本来貴族でも無く王国出身

 でも無いという時点で嫌われている彼が司令長官を務められている。


  簡単に言えば南方は貴族のお偉方からは少し距離を置かれていて辺境と見なさ

 れているので南方は無能な軍人や問題がある軍人が左遷されて送られる軍人の墓

 場として有名になっている。


(出来れば行きたくないでちゅ彼も何を考えているのか分からなくて怖いでちゅし)


  実際、イズマレード中将が長官に就任するまでの南方軍は荒れていて不良軍人

 の溜まり場と化していたのだが彼が就任して以降は規律と統率が取れた軍隊に変

 貌した。それでも気性が荒い軍人が多いのには変わりはないのでまったく問題が

 無いと言えば嘘になる。


「僕は自分が作り上げた制度の結果を確かめる為でちゅ」


  リグルドはこの2年間の間に幾つか新しい制度を作っていたためその結果の確

 認の意味も込めて今回の入学式に参列しに来ていた。一番の理由はボルキュール

 ド元帥に会う為であったがこの入学式にも期待していた。


(この場にいる面子にも会って見たかったでちゅが、やっぱり原作の主人公達にも

 会って見たかったので楽しみでちゅっ!)


  因みにリグルドが作った制度で今回確認しに来たのは『奨学金制度』と『推薦

 制度』の二つだ。


  奨学金制度は、本来士官学校に通えない様な人々が通える様にするための制度

 である。家庭的問題や推薦人が誰も居ない等の問題を抱えている彼等の中でも士

 官学校入学試験の成績が良い者に資金的援助やその他の援助等を行う制度である


  例を挙げれば今年入学試験序列9位で合格したアスロ・フオスクは孤児院で暮

 らしていたところこの制度を知り士官学校を受験した。彼がフリーゲル家の見習

 い従者になれたのもこの制度でフリーゲル男爵が彼の後見人になったからだ。


  この制度が無かった場合の史実では彼は侵略して来た帝国軍と最後まで兵士と

 して戦いその命を散らした青年であった。主人公達とも関係があったため修司と

 しての記憶に残っていた。


  そんな彼がこの制度を利用しているのを彼が提出した願書を見て気付いた時に

 は驚いた。何より主人公サイドであるフリーゲル家の令嬢の従者としてフリーゲ

 ル家が後見人になっていることには物凄い驚いた。


(史実と違う道を彼が辿っても結局は主人公と関わるんでちゅね・・)


  推薦制度は、王都にある兵卒や下士官の候補生達が通う訓練学校にて優秀な成

 績の者を士官学園に中途で推薦入学させる事が出来る制度だ。


  こちらはまだ結果が出ていないがそれも時間の問題だろうと訓練学校の教官達

 が報告してきている。


(楽しみでちゅね色々と)


  リグルドが微笑を浮かべながら自分に出された紅茶に口を付けていると学園長

 室の扉が勢いよく開き数名の生徒らしき者達が入って来た。


(あれ・・あの顔何処かで見たような顔でちゅ?)


「オジサン・・いや、ジジイやっぱり僕は納得出来ないぞっ!新入生総代まではま

 だ良い。本当は嫌だがこの際それはおいておく。それよりも、なぜ僕が生徒会に

 強制的に入らないといけないんだよ!?」


  学園長室に勢いよく入って来た生徒の一人が学園長であるローランドに掴みか

 かりながら騒ぐのと周りのあたふたしている生徒達の顔を見渡してリグルドはす

 ぐに彼彼女等が誰なのか分かった。


(誰かと思ったら主人公たちでちゅか・・面白い出会い方で出会ってしまったもの

 でちゅね~。とりあえず静観するでちゅ)


  そう学園長であるローランドに掴みかかって騒いでいるのはリグルドが今日出

 会うのを楽しみにしていたアスランでその周りであたふたしているのは、その関

 係者達であった。



  アスランside


  僕は入学式があと数時間後に始まろうとしている今この瞬間に図書館にて時間

 を潰していた。


「入学式なんかに出てやるもんかっ!生徒会だって入らないからな。やっぱり退学

 して歴史研究が出来る教育機関に入ろうかな?」


  そんな事をただ淡々と空中を見ながら考えていると図書館にアルとリロが来て

 アスランを見た途端に「見付けたっ!」と言って近付いて来た。


「如何したの二人とも?」


「如何したって君ね・・もうすぐ入学式が始まるから生徒会室に居なければイケな

 い君こそなんでこんなところに居るのかな?」


「僕達はフリーゲルさんにお願いされて君を探していたんです」


  アスランの問いにアルは怒った様なリロは困った様な表情で答えた。


「ああ、僕出席しな「よし、縛って連れて行く。アスロ縛り上げるぞ」えっ?」


  アルの発言に身の危険を感じたのか後ろを振り向いたアスランが見たのはアス

 ロが頑丈そうな縄を持って自分を縛ろうとしていた光景だった。


「待てアフロ「アスロだって言ってるだろこの野郎っ!きつく縛り上げてやる」


「ははは、諦めて縛られてねアスラン君。君がサボったら生徒会だけじゃなくて君

 の後見人である学園長にも迷惑が掛かるんだからね」


  今まさに縛られようとしていたアスランがリロの言葉を聞いて何かを思いつい

 たのかアスロに真面目な表情で向き合った。


「アスロっ!僕は学園長室に行かなければならないんだっ!そこを退いてくれ」


  アスランの何時にもなく真面目な顔と発言に一瞬だけ三人が考えるがすぐに三

 人とも思い直した。


「お前逃げるかまた問題を起こすつもりだろ?」


「アスラン・・それは無理な相談だよ」


「アスラン君・・もう君のその手を信じる人は居ないよ」


  アスロ、アル、リロの三人がそれぞれに言ってから再びアスランを捕らえよう

 と行動に移るがそこには・・


「「「居ないっ!」」」


  アスランがさっきまで座っていた席に居ない事に驚いた三人は直ぐに周りを見

 渡しアスランが図書館の出入口から廊下へ出るのを見つけた。


「アスロ、追うぞ。リロはフリーゲルさんに報告だ!」


「おう」「うん」


  アルジークの指示に二人は返事をするとアルとアスロはアスランを追いリロは

 オリヴィアに知らせるために走り出した。


  リロの報告を聞いたオリヴィアとその場に偶然居合わせたクロアがリロと共に

 学園長室へ向かうと学園長室の扉の真ん前で入室しようとしているアスランとそ

 れを押さえ止めているアルとアスロの三人が居た。


  まだ入室していない事にホッとしたリロとオリヴィアは黙って居眠りでもし始

 めそうな雰囲気のクロアの手を引いて三人に合流した。


「アスランさんそこまでですわ」


「アスラン君もう諦めなよ」


「・・・・問題児君アスラン?」


  更なる増援にアルとアスロが目を輝かせるが二人の一瞬の気の緩みを突いて

 アスランは二人の拘束を強引に解くと学園長室に走り込んだ。


「「「「あっ!~」」」」


「・・・・入っちゃったの?」


  アスランが学園長室に入り込んだ事で騒ぎ出した四人と不思議そうな一人は

 これから如何しようか考えているとそこに生徒会長であるエルシアがやって来

 てアスランが見つかったのかを聞いてきたので五人は今までの事を説明した。


「不味いですね。嫌な予感がします・・何よりあのアスラン君が何かを精力的に

 しようとしている時点で凄い不安です」


  エルシアは五人の説明を聞いてそう言い終えると学園長室の開き放たれた扉

 から中の様子を窺った。


  それを見た他の五人も同じようにして中の様子を窺い見た。


  六人全員が窺い見た時には既にアスランが学園長であるローランドに掴みか

 かり怒鳴っているところだった。


  六人は如何しようか迷ったがこのまま見て見ぬ振りをする訳にもいかず全員

 でアスランを取り押さえる為に学園長室へと突入した。



  リグルドside


  目の前では学園長であるローランドと聖鬼士物語の主人公であるアスランが

 言い争っていた。


「落ち着くのじゃアスランっ!言いたい事は後で聞くゆえ今は黙って出て「いや!

 今言わなければ僕は入学式後に強制的に生徒会業務をする事に~だから今言う」

 お主は周りが見えておらんのか相変わらず!」


  僕は学園長であるローランドに怒鳴っているのがアスランだと知っているの

 で静観しているが両隣に座っている二人はアスランと言う名に反応した。


「今年の新入生総代かっ!」


「・・・・・・・・・・アスラン・・・・ギュスタード」


  リボルゲイツ中将が興味有り気にイズマレード中将が表情は分からないが仮

 面越しでも判るほど目を見開いてその鋭い紅目でアスランを見ていた。


「え~いっ!兎に角少し黙るのじゃっ!おいソコの・・フオスク士官候補生こ奴

 を取り押さえるのじゃ」


  ローランドの命令を受けてアスロと手伝おうとしてクロアがアスランを取り

 押さえて学園長から距離を取る。


「我が養い子ながら苦労させるわい」


  ローランドは懐から出したハンカチで汗を拭うと僕達三人に向き直った。


「お三方、少々異様な状況になりましたが改めて紹介します今年の入学生総代の

 アスラン・ギュスタード士官候補生「違う、退学して歴史研究家になる予定の

 アスラン・ギュスタードです!」・・・・誰かそ奴の口も封じておいてくれ」


  ローランドの紹介に被せる様に言い放ったアスランはローランドから出た命

 令でこのままでは不味いと思い縛り上げられる前に話をずらしてこの場からの

 撤退を謀った。


「それでジジイっ!その三人は何処の誰なんだよ?」


  アスランからそう質問されたローランドはアスランがこの三人を知らない事

 に疑問を覚えたが直ぐに「歴史しか興味が無いこ奴が知らなくても仕方無いか」

 と呟いてから質問に答えた。


「この方々は今日の入学式の為に来て頂いた来賓の方々じゃ・・わかったら出て

 行けもう入学式までそんなに時間は無いぞ・・皆もスマンがこ奴を頼む」


  そう言ってローランドは生徒達を外に出そうとするがアスランはそれを許さ

 なかった。


「ふ~ん、〝暑苦しく真っ赤なオッサン〟に〝全身民族衣装と仮面の変質者〟に

 〝小っこい子豚〟・・なかなか個性的な面子だね」


  アスランのこの発言にはローランドだけでは無く他の生徒達も皆が冷や汗を

 流した。


「お主は入学前から侮辱罪で軍法裁判にかけられたいのか?」


  ローランドは呆れながらも自らの養い子に問うた。


「士官学園に入学せずに歴史の研究が出来るならば本望っ!」


  迷いの無い一言に周りで聞いていた生徒達は皆こう思った。


(((((いや、研究どうこう以前に処刑されると思う)ぜ)よ)わよ))


(・・・・処刑囚君アスラン


「はははっ!変質者に子豚だってよお前ら・・似合いすぎだろ」


「・・・・・・・・変質者?・・・・拙僧がっ!・・・・無念」


「取り合えずリボルゲイツ中将は笑いすぎでちゅ黙るでちゅ・・イズマレード中

 将は落ち込んでるでちゅか?僕は子豚でちゅか・・少しショックでちゅ」


  アスランの自分達への評価に少なからずショックを受けているリボルゲイツ

 中将以外の二人は落ち込んで固まった。


  そんなカオスな状況にローランドや周りの生徒達があたふたする中でアスラ

 ンだけは落ち着いていた。


(今がチャンスっ!ここで逃げ・・え?)


  逃げようと後ろを振り返ったアスランが見たのは妙にホカホカした笑顔をし

 て自分を見つめているリグルドだった。


「何処へ行くでちゅ?」


「これから脱走しようとしている脱走兵に何処へ行くか聞いて答えると思います

 か?」


  リグルドの質問に答えたアスランはその場からさっさと逃げようと走り出す

 がその脚にリグルドが、しがみ掴んだ。


「は・・離してくれませんかね子豚さん?」


「子豚じゃ無くてログロス・フォン・リグルドでちゅよギュスタード候補生」


  その名前を聞いて固まるアスランを見たリグルドは周りを見て叫んだ。


「今でちゅ取り押さえるでちゅ」


  リグルドはそう叫ぶとアスランの脚から離れて戦線を離脱した。


  急に離れたリグルドを不思議に思ったアスランは周りを見るとアスロ、アル、

 リロ、クロアの四人に囲まれていた。


「逃がしてくれたりしないですよね?」


  最後の希望を掛けて四人に聞いてみるアスランだったが


「出来ない相談だな」


「無理だよアスラン君」


「今更そんな願いが通じるとでも思ってるのか?」


「・・・・罪人アスランだよ・・・・君」


  もはやそこに希望は存在しなかった。


  暴れながらも多勢に無勢な状況で徐々に縛り上げられたアスランはアスロとア

 ルに担がれて学園長室を出て行った。


(何か前にも似たような光景を見た気がしまちゅ・・)


  担がれて連れて行かれるアスランを見ながらリグルドはそんな事を思った。


  他の生徒達もローランドと少々話してから直ぐに学園長室を退室して行った。


(僕も周りが個性的だから言える資格は無いんだろうでちゅけど、それでもやっぱ

 り彼は個性的過ぎる気がするでちゅ)


  その後、ローランドに先ほどのアスランの行動を詫びられながら入学式開会を

 待った。


  そして入学式が始まった。


  結果から言えば問題無く終わった。アスランがステージ上で新入生を代表して

 の挨拶をしている時などは誰かがアスランの後ろに居てナイフやハンドガンを背

 中に押し付けて脅している様にも見えたが無事に終わった。


  王都に在る屋敷の一室のベッドの上で横になりながら僕は今後の事を考えてい

 た。


(帝国が東方に侵攻して来るまでもう1ヶ月も無いでちゅね)


  史実とは違う名将の道を歩むと決めた僕はテラスに出て黙って空中を見つめな

 がらその夜空に向かって拳を突き上げた。


「始まりの時はもう直ぐソコまで迫ってるでちゅっ!」


   第1章 第1部 【入学】と【三方中将】(完)





  

 













  



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