未来を見据えての準備
旧王都アステルク ――――――― 王国軍東方司令部 ―――――――――
王国歴 296年 5月下旬
この日、東方軍に所属する『リギル・マインドルク大佐』は東方軍司令部のあ
る上司に呼び出されていた。
呼び出したのは兄や親の威光や家柄でこの東方軍のトップの座に座っている男
として『無能将軍』と評されているログロス・フォン・リグルド中将だ。
「家柄将軍がこの俺に何の用なのかね~まったく。碌な事じゃなさそうなのは確か
だな」
ボサボサの寝ぐせが酷い髪を掻きながらマインドルク大佐が文句を垂れた。
「ブツクサ言って無いでちゃんと歩いて下さい大佐」
廊下をダラダラ歩きながら文句を垂れるマインドルク大佐に注意をしたのは彼
の副官で『ペレルドール少佐』だ。長く綺麗な白髪と白い肌から女性に間違われ
がちな人物だが立派な男だ。
ある事に関する能力だけが秀でていてそれでいて他にその分野が得意な軍人が
東方軍に少なかったために『大佐』という高官軍人になったマインドルク大佐だ
が野暮ったい性格をしている事と彼が秀でている能力がある意味限定的な為から
か東方軍内での彼の評価も余り高いとは言えない。
そんな彼を補佐するためと言うより彼の野暮ったい性格を矯正させるために選
らばれたのがベレルドール少佐だ。
その後も文句や愚痴を大佐は言い続けその度に少佐が注意するという様なこと
を続けている内にリグルド中将の執務室に到着した。
「じゃっ!少佐、俺逃げるから後よろしく」
「あっ!待ってくだ・・って逃げるの早っ!逃げないで下さい大佐~」
頭の中で『リグルド中将』=『会いたくない年下の嫌いな上司』という構図を
作っているマインドルク大佐は自身が持つ少ない特技の一つである『逃げ足』を
使ってその場からの逃亡を謀った。
「はははっ!戦術的撤退だ。行くぞ俺。いざ脱兎の「確かに戦術としては良くとも
後々僕に叱られる事を考えれば戦略としてはダメでちゅね」・・如く・・え?」
マインドルク大佐は目の前に立っている人物がそこに立っていることが信じら
れなかった。
「何でそこにおられるんッスか中将っ!」
何故ならば、逃げた先に自分が今最も会いたくない人物であるリグルドが書類
の山を持って立っていたからである。
「何故かというとでちゅね。今後君にしてもらいたい仕事に関する書類と資料を持
ちに行った帰りだから「そうですか。じゃあ俺は急ぐんでっ!」でちゅ」
リグルドが答えている間に再び逃げ出したマインドルク大佐は転進して逃げ出
した。
「危うく捕まるところ「誰に捕まるのですか」だ・・ヒッ」
リグルドから逃げ切ったと思ったマインドルク大佐は逃げた先で怖い笑顔をし
た自分の副官であるベレルドール少佐と
「まだだ。ここで諦めたら俺の怠惰な軍人ライフが終わりを告げてしまうっ!転進
・・・・謝りますんで許して下さいホフスマード大佐」
少佐と逆側のマインドルク大佐を挟み込む様にして廊下に立ち無言の圧力でそ
の手に持った縄で威嚇してくるホフスマード大佐によって捕縛された。
――――――――――――― リグルド中将の執務室 ――――――――――――
「あの~、お三方の誰でもいいのでこの俺を縛っている縄を解いてくれません
かね?」
リグルドの豪華な装飾品の数々で彩られだが実用性もキチンと兼ね備えられた
様な感じを感じさせる広い執務室の床の絨毯に縄で縛られながら正座をしている
マインドルク大佐は自分を囲う様にして立つリグルド、ホフスマード、ベレルド
ールの三人に願った。
「却下でちゅ。どうせ逃げるつもりでちゅよね?」
「閣下に同意致します」
「馬鹿上司が逃げるつもりなのは分かっていますので」
上からリグルド、ホフスマード、ベレルドール
最後の希望を振り絞り先ほどから少し離れた場所で書類仕事をしているムッソ
ルト少佐に視線を動かし
「彼女は可愛い・・彼女は世界一可愛い・・彼女は最高・・彼女は・・神」
そっとその視線を三人に戻した。
「それで俺に何の用なんスか。俺忙しいんスけど」
明らかに嫌な顔をしながらマインドルク大佐は自分への要件を聞いた。
「その話をする前に辞令でちゅ。リギル・マインドルク大佐、貴君を僕の権限で
階級を准将に昇進させましたでちゅ。将官入りおめでとうでちゅ」
「「はっ?」」
昇進した事に驚く大佐とその副官であるベレルドール少佐だったがリグルド
はそんな彼等の驚きをよそに辞令状を縛られていて持てない状況であるマイン
ドルク大佐の代わりにベレルドール少佐に手渡した。
王国の軍人社会は貴族が頂点に立ち将官クラスの人間も実にその8割程が貴
族で構成されている。平民出身で将官に成れる者は限られて少ない。
(俺が将官?スゴく嫌な予感がする。面倒事の匂いだっ!)
「お待ちください。私の上官である大佐は能力面と性格面の両方から果ては人格
面でも将官には一ミリも向いておりません。ご再考くださることを強くここに
進言致します」
マインドルク大佐が僕から出された辞令に何か嫌な予感を感じて考え込んで
いる横でベレルドール少佐も今回の辞令に反対していた。
「お前って、時々本当に俺の副官なのかなって思う時があるよな」
「私は事実を申し上げているだけです。軍人に向かな過ぎる貴方に大佐という御役
目すら満足に務まっていない現状だと言うのに今度は准将ですか・・私が何時も
貴方の風評の所為で肩身の狭い思いをしていると言うのに何故貴方だけが評価さ
れてしまうのですか?何時もっ!何時も」
普段からの鬱憤を晴らすかの様に准将となったマインドルク大佐に縛られてい
る縄ごと持ち上げて苦情を言い続けるベレルドール少佐の表情は本当に必死な者
に見えたとこの時この部屋内に居た人々は後に語っている。
「あっ別に彼を評価した結果では無いでちゅよ今回の昇進は」
「えっ俺の評価が良いからじゃ「そんな訳無いでしょ大佐」ない・・もう俺准将だ
ぜ少佐」
この二人の会話を聞いていたのでは話が進まないと思ったリグルドは二人に今
回の昇進の理由を話出した。
「今回そこにいる大佐を昇進させたのは、やって欲しい仕事があるからでちゅ」
黙って話を聞くマインドルク新准将とベレルドール少佐は続くリグルドの言葉
は再びその二人を混乱させるに値した言葉だった。
「要塞建築の指揮を准将には執ってもらうでちゅ」
「「・・・・・・・・・はっ!?」」
リグルドのこの命令に反応するのに二人は実に数秒かかったという。
「第709工兵連隊指揮官リギル・マインドルク大佐。出身は大工の家系で建築関
係の知識力と技術力は東方軍でも突出している。ただし、性格に難が有りその更
生の為にベレルドール少佐が派遣されているでちゅ・・と」
要塞建築の指揮と言う余りにもいきなり過ぎる命令にただ唖然として黙る事し
か出来ないでいる二人を余所にリグルドはマインドルク准将個人の軍歴書を読み
上げた。
「やって欲しい仕事がデカすぎて俺の手に余る様な気しかしないスね。・・それに
何故急に要塞建築などと」
「その質問に答える前に聞きたいのでちゅが、二人は今の旧王都の防壁で帝国軍か
らの攻撃に耐えられると思っていまちゅか?」
この旧王都は今でこそ王国軍東方軍の司令部が置かれている王国東部の守りの
要となっているが数年前までは、ただ観光地として有名なだけの都市だった。
そのため防壁となる城壁が古く脆い上に余り高さも無いという籠城戦には余り
にも向かな過ぎる都市とも言われている。
「正直に言わせてもらうスと数日くらいが限界だと思うスね」
「この愚上司の意見に私も同意見です」
二人の意見を聞き終えるとリグルドはホフスマード大佐に目配せをし大佐は
待っていたと言わんばかりに手に持っていた地図を縛られているマインドルク
准将にも見える様に床に置き広げた。
「この旧王都アステルクと帝国に奪われた要塞都市バステルクの間に在る森に要
塞を建築して欲しいです。そしてこの要塞の建築には帝国からの移民を動員し
て建築作業を行って欲しいでちゅ」
帝国からの移民と聞いて今まで黙っていた二人の顔が少し強張った。
実は帝国から亡命して来た移民が王国内にはそれなりの人数が居て一つの問
題となっていた。
帝国は王国よりも貴族の力が強くそして王国よりも優秀な貴族が多いのだが
その優秀な貴族達の性格や気質は王国よりも酷いと噂で聞く。
だからなのかまだ比較的貴族の性格や気質が帝国よりも少なからず良い王国
に亡命して来る帝国の民の数は年々増加傾向にある。
だが、ここで一つの問題が発生した。王国の民や貴族の大勢が亡命して来た
帝国人の事が信じられず日に日に軋轢が生じていた。
亡命して来た帝国人達もその殆どの者が王国の市民権を得られないことから
始まり王国側の対応には不満が大きかった。
王国の市民権が得られないので碌な仕事に就け無い元帝国人達は王国の政府
に抗議をするも王国側は全くそれに応じ無いという日が何日も続いた。
そして今から丁度一年前に事件が勃発した。元帝国人達による大暴動だ。
結果からするとこの暴動は失敗に終わったのだが実はこの時に捕らえられた
元帝国人の中に帝国からのスパイが混じっていた事が後になって発覚しこの暴
動の所為で元帝国人たちの立場は更に悪くなった。
その直ぐ後に王国は元帝国人達を収容する施設を各所に造り元帝国人達を全
員そこに収容した。
リグルドが動員すると言っているのは東部帝国人収容所に居る帝国人達の事
を指している。
「反対ス。彼等は帝国だけで無く今では王国の事も嫌っているんスよ・・第一ス
パイが居るかもしれないスしね」
マインドルク准将は面倒ごとは御免だと言わんばかりの態度で反対した。
「私も反対ですね。彼等は信用ならない」
ベレルドール少佐も反対した。だが、彼の『信用ならない』と言った言葉に
彼の上司であるマインドルク准将は僅かに反応した。
「そこで大佐の・・いえ、准将の出番でちゅ」
「俺スか?」
リグルドが何を考えているのか分からないマインドルク准将とベレルドール
少佐は頭上に(?)マークを浮かべている。
「准将は収容所の元帝国人たちを陰で支援していまちゅよね」
「何の事だが分かりかねるッスね」
首を振りながら「分からない」と言い張るマインドルク准将の目の前にリグ
ルドは一枚の書類を准将に見える様に差し出す。
「これはっ!」
マインドルク准将は書類を一度だけ見ると黙り込み代わりにベレルドール少
佐が書類を見て目を見開き驚きだした。
そこに書かれていた内容は後方局に所属する貴族の将校が横領をしていたと
いう事を証明する内容が書かれていた。
「重要なのはソコじゃないでちゅ」
そう言いながらリグルドはマインドルク准将の目の前に立った。
「この将校の陰に隠れて貴官も横領をしていましたでちゅね?」
この一言を言われたマインドルク准将は左程驚かなかったが彼の副官である
ベレルドール少佐は逆上しマインドルク准将を縛っている縄ごと持ち上げて睨
み付ける。
「知らぬ間にそんな事をしていたのですかこの愚上司っ!」
「この状況で言うのも何だけど俺ってお前の上司だよな。・・掴みかかるか普通」
二人の言合いを聞きながらリグルドは話を続けた。
「准将は横領した金で自身の父を通して元帝国人達を支援していたでちゅ。彼の
父親は元大工でちゅが今は元帝国人達を支援する活動家の様な事業を行ってい
るでちゅ」
「あぁ・・そこまで分かってるんスか。因みにこの件を俺が断ったら如何するつ
もり何スか?」
「貴官を横領罪で逮捕し罰としてこの仕事をしてもらうでちゅ。何方を選んでも
貴官が辿り着く先は同じでちゅ」
リグルドの言葉を聞いたマインドルク准将はその場で溜息を吐くと諦めたか
の様にリグルドの命令に対して了承の意を示した。
「その仕事は了承スが、普通にこの都市の王国民を使って要塞を建城しても良い
じゃないスか?」
マインドルク准将はこの仕事に元帝国人を使わなくても王国民の職人や大工
を動員した方が難なく終わるのではないかと思っていた。
「この都市に住まう職人や大工の者達にはこの都市の防壁の増建築を引き続き続
行して貰わねば困るでちゅ。そうなると使える人員は今現在の状況では限られ
てくるでちゅ。元帝国人の者達にはこの仕事が終わったあかつきには王国民で
ある証である市民権を与えるでちゅ」
この言葉には少し眠たげな目をしていたマインドルク准将もその大佐を睨ん
でいたベレルドール少佐も口を大きく開けて唖然とするしかなかった。
今まで誰も元帝国人に市民権を与えようなどとはこの王国の上層部は考えて
いなかった。それどころか幽閉して人権すらも無い様に扱われる始末の者達に
この貴族の将軍は〝市民権を与える〟と確約したのだ。
因みに物語上の史実では元帝国人達に市民権が与えられるのはずっと先の事
であり主人公sideで元帝国人を母に持つ者が活躍しその者が王や国の上役
達に願いやっと実現した結果である。
「そ・・それ・・それは本気で言ってるんスか?」
マインドルク准将は信じられないことを急に言われた為に思考回路は急停止
し頭の中は真っ白になりながらも確認の為にもう一度聞いた。
「既に宰相や国軍総司令長官である『ビグスレッド元帥』にも許可を取っている
でちゅ。国が危惧しているのは元帝国人の中にスパイがどの位の人数居るか分
からないというという点が大きいのでちゅが、今回の要塞建城業務の中で元帝
国人達の中にいるスパイを炙り出す事が出来るなら市民権を与えても良いと言
われているでちゅ」
「こちらとしても、元帝国人達を収容している施設の管理費が浮く事で軍費に余
裕が持てますし収容されている元帝国人達の中には技術者も少なからず居ると
思うのでこの要塞建城を通して元帝国人の技術者をこちらで回収して帝国の技
術を少しでも盗むつもりです」
今まで彼女自慢を呪言の様に言い連ねていたムッソルト少佐がリグルドの説
明に付けたして今回の元帝国人の動員で得られる物を語った。
「まぁ、そんな訳で改めて問います。この仕事を引受けてくれますでちゅかマイ
ンドルク准将?」
そう言って自分に手を突き出して来る目の前の小太りで低身長な将軍を見な
がらマインドルク准将は少し笑いながらその手を握り返した。
「さっきも言いましたが改めてその任務を受けさせてもらいますッス。(と言う
か元より貴方のこの命令ってほぼ強制的じゃんっ!)」
心の中では色々とリグルドに文句を言いながらもマインドルク准将は自分と
父が行って来た行為がここに来て初めて実を成した気がしていた。
(この体躯や語尾が完全にお貴族な将軍の心中は一体全体どうなってるのかね~
だけど、他の貴族の将校よりは面白みが有りそうだな)
こうしてマインドルク准将は自身の増強され旅団となった第709連隊を主
軸に元帝国人達も動員して要塞建城を始めた。
ベレルドール少佐も中佐に昇格され准将の下で元帝国人達の身の上調査を専
門に行う部隊の指揮官として次々と技術者だった元帝国人や他にも様々な特技
や技能を持った元帝国人達の情報を調べ上げスパイだった者達も同時に探し出
して拘束していった。
この二人の名は後世の歴史書にも度々上がっている。
マインドルク准将はこの要塞建城を始めとして様々な軍事的建築に関わりだ
して行き『王国の建築家将軍』という二つ名で王国民にも帝国人にも知られる
ようになっていった。
マインドルク准将は度々こんな事を語っていたという記録がある。
「最後に仕事をサボりながら居眠りを楽しんだりしたのは何時だったかな」
ベレルドール中佐も元帝国人の身の上調査やスパイへの完璧な尋問調査で名
を知られ割と直ぐに将官に成れた人物であり〝防諜と諜報両方に優れた軍人〟
と彼の仕事ぶりを見た者は皆がそう呟いたと言う。
「愚上司の失態や仕事の尻拭いだけをしていた頃とは比べ物にならない位の充実
感がある日常だっ!」
と、ベレルドール中佐本人が叫んだこともあると言う。
歴史はこうして全ての始まりの時に向かって進んで行く。色々な者の思惑や
感情を乗せて進んで行く。
旧王都アステスク ―――――――――― 某所 ―――――――――――
王国歴 296年 9月上旬
旧王都内でも有名な高級料理店に数人の軍人が集まっていた。誰も彼もが貴
族出身の軍人であり同時に帝国と関係を持っている軍人でもある。
「あの無能な司令長官殿も勝手な事をするであるな。貴族の将校に横領の罪を問
うとは・・真に無能極まりないである。我々貴族が使ってこその金であろうに
である」
最初に発言したのは中肉中背の40代半中半ほどの男性将官だ。
彼の名を『ゾロスク・フォン・スローミッド少将』と言い王国軍東方軍の副
司令長官という肩書を持った言わば東方軍NO.2の将軍だ。彼は自分より年
下で東方軍のトップの座に座っているリグルドを心の中で目の敵にしている。
「全くを持ってその通りです少将閣下。大体、罪を問われたのは閣下の甥である
フラント殿ではありませんかっ!この様な暴挙いくらあのリグルド殿が宰相様
の弟君とは言え見過ごせません」
次に発言したのはリグルドと少し前に揉めた佐官であるバーリット少佐だ。
周りの貴族出身の軍人達も二人の会話に頷いている。
因みに集まっている者達の多くは将官クラスばかりでその中に何故少佐が居
るかと言うと彼はこの集団『親帝国派貴族』の中でも帝国とのパイプ的役割を
与えられていてそこそこ発言権も強い。
「甥の件は今は放置である。泣き付かれてはいるがそれよりも〝来るべき日〟に
ついての話の方が今はより重要である。少佐、帝国側から何か言われたのであ
ろう?」
少将が問うと少佐は一礼をして報告し始めた。
「閣下のご想像の通り帝国側から停戦期間が明けた約二年後に攻めて来る将校の
情報がもたらされました」
それを聞いた周りの将官達は騒めいた。口々に「もうか?」「些か早いので
はないか?」等と呟いている。
「誰が攻めて来るのである?」
騒いでいる者を黙らせてからスローミッド少将が至って冷静に聞いた。
「〝侵滅〟の異名を持つガレッドラーク将軍です」
先ほど騒いでいた者達が今度は恐怖でのたうち回りだした。
侵滅のガレッドラークの名はそれだけ王国人に恐れられていた。
第一次、第二次王国侵攻で活躍した帝国の将軍として王国人に特に軍人には
非常に恐れられている。
そんな将軍が再びこの王国の領地を蹂躙する。
これは、この場に居る多くの王国軍人に恐怖の余り心の中で今更ながら帝国
側に付いていて良かったと何度も思わせるのに値する人事情報だった。
周りの者達が恐怖で騒ぐ中スローミッド少将とバーリット少佐だけは自身の
明るい未来を夢見て口元に笑みを浮かべていた。
(私の誘いを断った貴方はやはり無能でしたねリグルド中将閣下・・ククク)
この後、第三次王国侵攻が始まった際にどうやって帝国側に寝返れば一番自
分たちに被害が無いかを彼等は朝方まで語っていたと言う。
そしてこの日より丁度1年と7ヶ月後の王国歴298年4月に物語は始まり
を迎える事と成る。
0章 原作前『王国歴296年』(完)