姫
(注意;この話は主人公 鶴井 優歩のクラスメイトで同じ性転換症の持ち主、北沖 和陽の視点でお送りします。)
僕は性転換症が嫌いだ。
と言っても僕自身が性転換症なのだけれど。
僕は生まれてこの方、自分が性転換症であることを周囲に隠してきた。
小学校の時にそのことを知っていたのは家族とごく親しい親友だけだ。
周囲にはごく普通の男子として扱われてきた。
普通に男子と遊び、自慢じゃないけど女の子にもそれなりにもててきた自信がある。
変化が起きたのは小学4年生か5年生の頃。
そう、第二次成長期が始まったのだ。
男の子は男らしく、女の子は女らしく成長する時期のことだ。
僕は男として成長してきたから女の子の時の僕の成長には困ってしまった。
とにかく胸が大きくなるのだ。
最初はなんとか誤魔化してきたけど6年生にもなるとさすがに誤魔化せなくなる。
どうやら僕は普通の女子より胸の成長が早いようだ。
他のことはどうにか誤魔化せてもさすがに胸は誤魔化せない。
女子の時は着替えを見られないように次第と体育を休むようになった。
そして、性転換症だと見破られないように次第と人とも遠ざかるようになり、小学校を卒業する頃には友達が誰1人いない根暗な人間になっていた。
中学校でもその性格が変わらず、友達は誰1人出来なかった。
クラスでは浮いていた存在だと思うが不思議とトラブルには巻き込まれなかった。
多分、僕の近づくなオーラが効いていたんだと思う。
しかし、中学を卒業する頃にはまたある問題が起きていた。
そう、胸の問題だ。
調べてみると僕の胸の大きさは普通の女子の大きさを遙かに上回っている。
背丈は小学校の頃から伸びないくせに胸だけは大きくなっているのだ。
いわゆるロリ巨乳だ。
もう胸をつぶして暮らすのも限界だった。
そこで紹介されたのが今通っている学校だ。
僕が今通っている学校は性転換症の人たちに対するケアがとても充実しているのだそうだ。
担任のすすめにより僕はこの学校を選んだ。
僕は今、女子校舎にいます。
周りは女子ばっかりで僕がいるのは場違いだなと思っています。
何しろ僕は女子1年生です。
何もかもが新鮮です。
一番新鮮なのは小学校以来女子と話をしたことがないので話をすること自体にドキドキしています。
しかし、一番困るのが着替えです。
体育の授業の前に教室で着替えるのですが正直目のやり場に困ってしまいます。
クラスメイトは僕にお構いなく着替えを始めます。
もちろんクラスメイトは僕が性転換症なのを知っています。
僕が今まで男子として生活してきたことも知っているのです。
しかし、クラスメイトは気にすることもありません。
そんな僕をクラスメイトは恥ずかしがることなく堂々としていればいいと言います。
しかし、何しろ今まで普通の男子として育ってきたのでそれが一番つらいのです。
この学校に来て性転換症の友達も出来ました。
鶴井 優歩さんと青竹 愛喜さんです。
鶴井さんは女子の時はとにかくギャルっぽい感じで男子の時はクールな二枚目です。
女子の時と男子の時とでは性格がまるで違います。
二重人格なのだそうです。(よく分かりませんが)
後、眼鏡をかけています。
青竹さんは女子によくもてるタイプの方で女子の時は男役がよく似合う感じです。
男子の時はチャラい感じに二枚目といった感じでしょうか。
僕のよき友人であり、よき理解者でもあります。
話を戻しますと、僕は女子1年生です。
この学校に来るまで女子の下着はおろかスカートもはいたことはありません。
男子として生きてきたのです。
だから(女子としての)登校初日に制服を見て「マジか!!」と思った。
これから僕は女子の時にこれを着ていかなければならないのかと。
女装もしたこともない僕が突然、女子として生きていかなければならない現実に直面したのだ。
正直、メチャクチャ悩んだ。
もうしょうがないと思いきってその制服を着て登校したのがその日のお昼前になるほどだった。
本当は休みたかったが、くそまじめな僕が休めるはずがなく登校したのだ。
その日から僕はクラスメイトの女子にかわいがられている。
おかげさまでこの学校に入り女子の友達も増えた。
「カワイイ」と言ってくれる友達、
いろいろと女子としてのたしなみを教えてくれる友達、
女の子の趣味や知識を教えてくれる友達、とにかくいろんな友達が出来た。
僕は一般の女子に関する知識が少ない。
それがクラスの女子には世間に疎い女子に見えるようだ。
いつしか僕はクラスの女子に「姫」、「姫様」と呼ばれるようになった。
見た目もちっこいのでそう呼ばれているようだ。
そんなクラスメイトとふれあううちに僕も次第と明るくなってきたように思う。
以前の僕を取り戻してきたような気にもなってきた。
とにかく今は女子として溶け込めるように必死だ。
性転換症のこともだんだんと分かるようになってきた。
自分の体のことなのに避けてきたことだ。
幸い、性転換症の仲間からいろんな知識を授かる。
そこで分かってきたことはいろんなタイプの性転換症の人がいるということだ。
まさに十人十色、それだけを知るだけでも楽しい。
もちろん、僕は男子としてもちゃんと活動できている。
まぁ、こっちの方は特段苦労していないけれど。
男子の友達も結構できたと思う。
とにかく僕はこの学校で人生を取り戻したような気がする。
性転換症という秘密がなくなったのだ。
これから3年間は楽しめるような気がしてきた今日この頃です。