第8話
白く強い光が放たれる。その時、その光がユースティクスの全ての種族の頭に刻まれる物となる。“魔王”の力が継承された事を。この世界を救ってくれる救世主が一人誕生した事を。
数分前。
「じゃあ、継承ってものを始めてくれ」
頬杖を突きながら、少しダルそうに、疑心暗鬼な目で蓮は言った。それもそのはず、“魔王”クロム・リヴァクは継承をする、と言っておきながら、その準備らしき事は一つもする気配が一つもないのだ。
「本当におっちゃんって“魔王”なの?」
「君は私が継承をすると言っておきながら、なにも準備をしていないから、本当に継承が出来るのか。その事で本当に私がユースティクスの“魔王”なのか、と言ったのだね?」
流石“魔王”、心を読む事で蓮の考えが全て分かっている。この事は間違いないと確信できる。
そして、クロムは続ける。
「継承に、特に準備などはいらない。まあ、強いて言うならば、継承をする心構えと言うものかな」
「いやいやいや、準備はいらない⁉︎本当にそれで継承ってできるの?」
蓮が思っている継承は、魔法陣などを使って、詠唱を唱えたりして、やっとの事で行う、と言うものだと考えている。つまり、ただのラノベで知った知識と言う事だ。
「君の世界では継承というものを難しく考えすぎのようだ。それほど難しいものではない。まあ、言葉からしたら、難しく考えてしまうのも無理はないが。おっと、話がずれてしまったな。継承を始めるよ」
さっきから、何が何だかさっぱりな蓮だが、とりあえずは、クロムの言う通りにする事にした。
「んで、一体どんな事をするんだ?」
「さっきも言っただろう。継承をする心構えがあれば充分だ。方法という事なら、君に名前を継いでもらう。それだけだな」
豆鉄砲を食らった鳩の様にポカンとした顔でクロムを見つめる。
「本当にそれだけ?」
「それだけだ」
はあ、っと溜め息をつき、ここに来てから俺の異世界のイメージがことごとく覆される。と蓮は嘆く。
「とにかく、名前を継げば継承は行われるんだな?」
「ああ、“魔王”に二言は無い」
元いた世界では“魔王”という言葉ほど信憑性に欠けるものは無かった。しかし、今、この世界にいるからこそ、信じることができるのであった。そして、その“魔王”が言っているのだから信じるほかない。
「じゃあ、名前を継ぐって、俺がクロム・リヴァクを名乗ればいいのか?」
「いや、全てではない。リヴァクの方を名乗ってもらいたい。君の世界で言うと、みょうじ?と言うものらしいな」
「そんじゃ、俺は今日からリヴァク蓮ってトコか。いや、なんか違うな……いっそのこと変えてみるか。リヴァク蓮……蓮リヴァク……」
うーん、と悩み、
「あ!レン・リヴァクだ!」
と思いつく。
次の瞬間、強く白い光がレンの左の手の甲から放たれる。