第3話
ファフニールは、ファンタジー好きなら誰もが知っている有名な龍だ。異世界にもそういうのいるんだ。と思いつつ話しを聞いていた。
「ファフニールはなお前さんも知っている通り、どんな剣でも通さない、ほぼ無敵な龍じゃ。そしてお前さんには、その討伐をしてもらう」
「そうか、討伐か……はあ?」
その瞬間蓮は、飲んでいた紅茶を吹き出した。
「いやいやいや、討伐っつったら、勇者とか騎士団とかが行くんじゃねの。なんで俺なんだよ」
そうだ、基本討伐とは、勇者やその国より派遣された騎士団などが行くものである。ましてや蓮の様な高校生には到底無理な話だった。
そしてその討伐目的は伝説の龍だ。そんなことは現実世界では絶対に無理な話だった。そう、現実世界では、だ。
今から行くのは異世界、しかも剣と魔法の世界だ。蓮が転生して魔法などが使えたっておかしくは無い。
蓮はそんな妄想に胸を膨らませていた。
「ファフニールが出現した時な、そりゃまあ沢山の人が討伐に向かったんじゃ。勿論、勇者も。しかしな、ファフニールにはその者達の力では敵わなかったのじゃ。じゃから、異世界の者を救世主として召喚することになったのじゃ。それがお主じゃ」
「じ、じゃあ、じいちゃんは全部知ってて俺をここに呼んだのか?」
「ああそうじゃ。しかし期限があるんじゃよ」
神が言うにはこうだ。ファフニールが出現したのは今から蓮が行く世界の均衡が崩れてしまったからだ。しかし神でもなぜ均衡が崩れてしまったかはわかないらしい。蓮に課せられたことはファンタジーを討伐し、その世界の均衡を保つ事だそうだ。そして直すことができるのには期限があるらしい。それを逃したらもう戻れない、というのだ。
しかし蓮はスポーツ万能だが軍人の様なものには敵わない。そして今戦おうとしているのは伝説の龍だ。勇者でも敵わないとついさっきいわれた。そんな奴を蓮が倒せるわけがない。
「お前さんはわしが与えた能力がある。この能力があれば大丈夫じゃろうよ」
「まあ、じいちゃんが俺に期待してくれてるってのはわかった。その期待に応えたいと思うんだけど俺一人じゃ無理だよな」
そう、伝説の龍を倒すのだからパーティは必要だろう。しかも普通の者よりも強靭な者が。
「その世界にはな、お前さんが思っている様な強い者がおるんじゃよ。じゃからな『仲間』を大切にするんじゃよ」
神が言っている事がよく分からない蓮だったが、その事は流す事にした。
いよいよ出発の時間が来たようだ。紅茶を飲みながらクッキーを頬張っていた蓮は期待と心配を胸に異世界に旅立つ支度を済ませていた。
神は「そろそろじゃ」と言いながら扉開いた。そこを開けると眩しい光が部屋を包んでいた。
「なんか短い時間だったけどありがとうな、じいちゃん。元気でな」
「お前さんも向こうでは頑張るんじゃよ」
蓮は「おう」と答えながら扉の向こうに足を踏み入れた。
「言い忘れとったのじゃがお前さんの体は……」
神は何か言いかけていたようだったが、もう遅かった。梶沢蓮は今、夢の異世界、ユースティクスに降り立ったのだった。