第1話
端正な顔立ちに黒い髪に黒い瞳、だがどこか日本人とは違う様な顔は、まさしくイケメンと言えるであろう。そんな蓮は絶賛高校生活を満喫中だ。この地域では割と有名な公立高校を受験し、ほぼ満点で入学した。成績優秀、スポーツ万能、さらには生徒会長を務めている、まさに高校中の人気者だ。
そんな蓮だが、一つ誰にも言えない夢がある。その夢とは異世界に行く事だ。
それは中学時代、一冊の本から始まった。その本はライトノベルで、異世界をテーマにした、アクションあり、笑いあり、涙あり、さらにはポロリあり、な本だった。その本が原作のアニメが放送されたり、ゲームが出たりと、とても人気があった。その本がきっかけで、「俺は異世界に行く」と決めて、今に至る。
だから蓮は異世界が舞台のゲームや、小説、アニメなどで異世界に行くために必要な事、行った時にどうすれば良いのか、という事を日々考えている。
まず、異世界に行くにあたって言語が通じるか否かがわからないため、英語、フランス語、ドイツ語、そしてアラブ語を勉強してきた。それから身を守るための武器、さらには、サバイバルで生きれるであろう一式を整えてきた。
だが異世界に行くにしても、まずはテストを終わらせてからではならない。今回のテストは、そのまま内申点に関わる様なテストなので、皆んな必死に勉強をしている。そして蓮も、九回連続学年トップに関わるので、それを終わらせないまま異世界に行ってしまうと、心残りありありなので、異世界はそれからだ、と思っている。──まあその前に、今日の授業を終わらせなければなんだが。
「それでは今日はここまで。明日からテスト週間なので、家でしっかりと勉強しておいてくださいね〜。それでは皆さん、さようなら〜」
担任がそう告げると、生徒達は一斉に帰って行った。
「蓮君、一緒に帰ろう」「今日みんなでカラオケでも行こう」などと言って、女子達が蓮の元へときた。はたから見ればすごい騒ぎだが、蓮にとってはいつものことなので、あまり気にせずに──女子達をスルーして──教室を出て行った。
そんな中、「おい蓮」という、聞きなれた声がしたので振り返る。するとそこには、思った通り坂木要が立っていた。
「お前はいいよな、成績優秀だし、スポーツ出来るし、さらにモテるし。でもなんでいつも無視なんだ?」
「あんなのに関わっている時間があれば、勉強をするよ」
「お前、贅沢すぎ」
要は昔から一緒にいて、かれこれ十年は一緒にいる。要は蓮のことが好きな女子のお悩み相談役の様になっていた。
そんな要だが蓮を妬んでいる、なんてことは無い。幼馴染として、そして親友として、蓮の事が好きで、尊敬していた。
「それじゃ、俺、生徒会の活動あるから行くわ」
「分かった。じゃあな」
そう言って、蓮は生徒会室へと向かって行った。
昨夜、あの夢でまた寝不足らしく、少し周りがぼやけてきた。さすがにヤバいと思ったのか、自動販売機でエナジードリンクを買ってから向かう事にした。
生徒会室はまだ誰も来ていなかった。蓮は部活に所属していないが、他のみんなは、部活に所属している者が多い。誰もいないと生徒会の会議ができないので、エナジードリンクを飲んでから少し仮眠をとる事にした。
二十分ほどで目を覚ました。少し待つと、大体の者が揃って来たので、会議を始める事にした。
今回の議題は、「体育祭について」だ。 毎年体育祭は生徒会が運営を行っている。その事で、スローガンを考える事がメインだ。
結果はすでに目に見えている。今回もまた、蓮の案に決まるであろう。しかしそれでは会議のために集まった意味が無いため、一応形だけでも、としている。
なんだかんだあって結局、蓮の案が通りスローガンが決まった。会議が終わりそれぞれが帰るなり、部活に戻るなりして行った。
蓮は寝不足でふらふらした足取りで帰って行った。「さっさと帰って寝よ」と思っていた時──意識が飛んで行く感覚があった。
そして蓮はその場で倒れた。
しかし、倒れた場所はさっきまでいた道ではなく、そこはリビングだった。リビングと言っても自分の家のではなく、それでもどこか親しい感じがするのだ。