無限空想世界の幻想的な物語~悪夢~ 第9話 「もう一人のニア」
また暗い暗い・・ここは夢の中・・だろうな。
なんだか空気が外とは思えないし。
あの屋敷でもない。
今度は一体どこで僕は寝ているのだろうか。
「・・目を開けてもまだ暗い?」
と、僕が目をパチパチさせて数秒も立たないうちに。
周りが明るくなった。
そして辺りが明るくなってどこにいるかが分かった。
またしてもサーカス小屋だ。
多分舞台裏だろうな・・このソファーを見る限り。
そして目の前を見ると見覚えのある少女の姿があった。
「ご無沙汰・・ウィルコンティ」
「げっ・・ルカだ・・」
「ずいぶん嫌われているわね・・まるで外れくじ引いたみたいな反応ね」
「そりゃあ外れくじ引いた反応にもなるっての・・鬱展開に悩まされてましたからね」
思えばルカの思い通りに鬱展開が起きた。
忠告をもっとちゃんと聞くべきだっただろうか。
「あらあら・・やっぱそっちに行ってたのね・・」
「えっ?心辺りがあったの?」
「まあ・・ね・・そりゃあ忠告した側として鬱展開はあるとは言ったけど・・まさか思わぬ妨害があるとはおもわなんだじゃない・・」
「・・よくわからんけど・・どうやら予定が狂ったらしいな」
この表情を見る限り相当苦労していたのだろう。
とてもやつれている。
「そうね・・希望星・・奴が来てから予定狂いまくり・・もういないとは思うけど」
「希望星・・そうか・・奴と戦って・・ニアは?!」
ふと気づいたがニアがいない。
どこにもニアの姿が見当たらない。
一体どこに行ったというんだ。
「そんなに不安にならなくても・・ニアなら貴方を運んだあとあの子も別の場所で治療を受けているわ・・この夢世界にも一様だけど・・医者はいるから」
「それならいいんだけど・・」
「そんな事より・・一つ質問いいかしら?」
「何?」
「希望星・・彼女と接触したのなら彼女に何か余計な事を言われたと思うけど・・何か言われた?」
「・・君の事とか・・前世がどうとか・・色々聞いた」
「はぁ・・やっぱり言われたか・・」
軽かった空気が重く感じ始めた。
ルカもため息を吐いてとても深刻そうにしている。
「・・正直に言うと・・貴方に現在それを教えることはできない・・それを教えれば今後貴方は最も戦うべき存在に真っ先に消される・・今教えられるのはせいぜいニアの事」
「・・分かった・・今は忘れておくさ」
「ありがとう・・感謝するわ」
少しだけ微笑むルカ、僕も少し安心するように微笑む。
ルカの口からまた少しだけ余裕のある声が聞こえる。
「ニアは・・前も言ったかもしれないけど・・混合種の魔物と言うべき存在・貴方がヴァンパイアであり・・ヴォルフであるのと同じ・・けれど彼女は最も特殊なの」
「特殊?」
「家系の都合上・・母も父も早くに亡くした・・残ったのは姉のルカと兄デト・・どちらも死神としての素質も・・サキュバスとしての素質もあったの・・それでも彼らは最初は誰かを救える力になるために【学者】・・平たく言えば医者になる事を決意したわ」
「・・それで・・あんな事に?」
「あんなことになったのは世界各国でアビスが暴れ始めたからよ・・正直もうそれどころじゃなかった・・スマイルタウンは世界から目の付かない場所だったから唯一当時少しでも長く生きられただけ・・残された時間の中でもルカは必死に国の人々を見捨てなかったわ・・その最後はとてもとても悲しい物だったでしょうけど」
そりゃああんな終わり方はねぇよ。
兄に薬は持ってかれて最後殺されるわで散々だよな。
「滅びゆく施設の中で創成の一人・・この私が奇跡的に目をつけていたからルカの前に姿を現した・・その時に彼女に【ニアの保護】を条件に私はルカの持っていた記憶から才能全てを受け継いだわ・・その時持っていた能力・・【神眼】もね」
「それ能力だったんだ」
「当然・・私自身は記憶を操れるだけ・・未来を除いてね・・だからわずかな歴史をこのイフニアにも分け与えた・・それが私の創世としての誇り・・記憶神と言われた所以よ」
「・・なるほど・・大体は把握した・・」
「把握した次いでに話すけど・・ニアの事・・あの子はもとより姉の存在があって正常だったの・・彼女はサキュバスとしても・・死神としても才能・・それどころか血筋のみしか受け継いでなかったから・・」
「血筋のみ・・」
「それに兄の事も本当は脅かしい存在だった・・私が連れて来て数日で彼女は引きこもりを始めた・・心を閉ざしたという感じだけど・・」
無理もあるまい・・家庭崩壊をその目で焼き付けた上で。
新たな環境を受け入れろと無茶を受け入れてだけ立派だ。
「それでも・・・どうにか彼女の心を開かせるために努力は尽くしたわ・・何日何年かかったある日チャンスは訪れたの・・あの子がふと心の中で思った願い【理想の兄】の実現」
「叶うはずの無い・・願い・・それが夢でたまたま実現させる事ができたと・・」
「かなり強引なつじつまだと思うけど・・ここしかなかったわ・・あの子は夢の中で理想の兄と触れ合い・・なんとか徐々に心は開いてくれた・・けれども人生は上手くいかないものね・・悪夢の介入もあって計画は破滅・・なんとか精神と心の保護ができたのだけど・・肝心の魂が不在なのよね・・」
「ちなみにどうして三体に分散してんの?」
「プログラム:スリーコアよ・・発動したら最後三つの個体に分かれる最終手段・・記憶以外は共有できないし・・それぞれ不安定になるの・・特に感情のない心は危ないわね・・精神は下手に甘えさせないくらいがちょうどいい・・甘えさせすぎると完全に玩具にされるわよ・・魂は心も精神もない否定し続ける自我・・要するに臆病なの・・本来ならこの三つがバランスを取って元のニアに戻れるのだけど・・心と精神だけ統合したらどうなるかわかったもんじゃないわ・・」
なんだか難しい話だな。
要するにアビスの介入で手の施しができなくなる前に三人に分裂したのか。
それで現在本体無しの危ない状況と言う事か・・。
「まあ・・なんとなくだけど了解した・・なんで理想の兄に僕を選んだかはさておき・・これから僕はどうすればいい?」
「引き続きあの子をお願い・・私はしばらくスリープに入るわ・・これ以上は体に影響が出る・・」
「なんかすでに影響が出てるぽいぞ・・早いところそのスリープに入った方がいいんじゃないか?」
「そうね・・また詳しい話は貴方と私の正常が確認できてからにしましょう・・」
「ああ・・ゆっくり休め・・それ以上無理して体とか壊すなよ?」
「ふふ・・心配してくれるのね・・ありがとう・・じゃあ・・行くわね」
「ああ・・また今度」
そういってルカはその場から姿を消した。
まるで電脳世界から消えるようにスッと消えていく。
不思議な力だ・・この世界にそんな力があるなんて信じられないな。
僕は消えたルカを見送ってソファーから立ち上がる。
にしてもここは本当にどこなんだ?
またあのテントに戻ったとか?
「・・まあ・・いいか・・それよりニアは・・」
と、僕がニアを探している時だった。
どこからともなく足音・・僕がその足音の方向へと振り向くと。
そこから見覚えのある黒い靴の履いたあの白ゴスロリの少女。
まさしく・・ニア?
少し安心が戻ったと思ったがなぜか違う。
ふと見てみると何か違う。
そうだ帽子をしていない、それに服は黒だ。
それに髪の毛も白髪だ・・わしゃわしゃと整っていないのが分かる。
これはニアだが・・ニアじゃない・・。
そっくりだが・・目から光も無い。
「君は・・ニアかい?」
「・・・(コクリとうなずく)」
「そ・・そうか・・じゃあ・・難しい話かもしれないけど・・君はどのニアかい?」
「・・・ッ(必死に何か伝えている)」
「(手話?ジェスチャー?・・もしかして喋れないのか?)」
とても黒ゴスロリのニアと違いこちらの白いゴスロリの服装のニア・・。
白ニアと呼ぼう、白ニアはしゃべれないのかもしれない。
先ほどから何かを伝える度に手を必死に動かしている。
「んー・・なんとなくだけど・・心?最後のハート型を見る限り・・」
「・・!!(コクリコクリとうなずく)」
「(あっ・・嬉しそう)そうか・・君は心のニア・・なんだね・・とっても大人しくて・・とても・・なんというか・・おしとやか?」
「・・?(首をかしげる)」
「あはは・・君にとっては少し難しい言葉を使ってしまったかな?ごめんね」
不思議そうに頭をかしげる白ニアにやさしく微笑み手をそっと頭にのせて撫でる。
それでも表情一つ変わらないが・・心なしか嬉しそうだ。
たぶん。
「・・・ッ(小さな手で銀の手を止める)」
「あ・・嫌・・だったかな?」
「・・・っ(少しづつ自分の頬に近づける)」
「だ・・ダイナミック・・まさか頬に近づけるとは・・」
無感情・・と言うより無垢?
何をするにも何か動作が遅れている。
おそらく心と言う事もあり本当に器と言う存在なのかもしれない。
「ぁ・・ぁ・・ぃ(あたたかいと言った)」
「喋った・・!」
先ほどまでしゃべらなかった白ニアが喋った。
黒ニアとは少し声が違う、特徴的な声だ。
おそらくしゃべり方も知らない本当に無垢な子・・に近いのだろう。
なにはともあれ・・なんだか一転して新鮮味しかないな。
「・・?(首をかしげる)」
「うへへ・・なんだか和むな・・さっきのニアも個性的で可愛いけど・・白ニアちゃんもまた違う魅力があるんだね・・」
「・・・っ(少し迷ってうなずく)」
「あっ・・ごめんね!一人で微笑んで・・」
「・・・っ(くびを横に振る)」
「あはは・・優しいんだね・・」
どのニアにもおそらく共通して言える事だが。
全員優しい・・その情が残っている気がする。
思いやりのある子ではありそうだ。
「とはいえ・・この子もニアだが・・一体黒ニアはどこに・・」
「・・・っ(グイグイと銀の袖を引っ張り舞台へと指をさす)」
「ん?そっちに・・何かあるのかい?」
「・・・っ(コクリとうなずく)」
「・・よし!じゃあ行こうか!」
「・・・っ(コクリとうなずく)」
ゆっくりと歩き出し舞台裏のこの場所から出て舞台の方向へと赴く。
白ニアを連れてまた新たな場所へ行く。
僕は不安もあったがその時白ニアの力になれたらいい。
というまた一つの感情にゆだねられて行ってしまうのである。
「・・とはいえ・・特になにもないけど・・」
「・・・ッ(ちから強く袖をギュと握る)」
「ん?・・なんだい?ここで・・止まればいいのかな?」
「・・・っ(コクリとまたうなずく)」
「よし・・分かった・・」
「・・・ッ(上に指をさす)」
「・・上?」
だんだんこの白ニアの特徴が分かって来た。
伝えたい事は口には出せないが。
しっかりと行動にはしている。
黒ニアはむしろ根っから行動に言語が挟まっているようなもんだからな。
白ニアの場合はこの無垢なもあって逆に分かりやすいというか・・。
それよりこの上に指しているテレビモニターがどうかしたのかな?
『グッドモーニング!エブリー・・バーデイ!ハロートゥモロー!三倍アイスクリーム!』
「うわッ!?びっくりした・・」
突如テンションの高い声と共に移ったテレビ。
そこから現れたのはなんだかピエロの様な・・男爵?
なんといえばいいのだろうか?
シルクハットをかぶった・・愉快なピエロ?
ええーい説明できるかあんな服装。
なんだかカラフルだとだけ言っておこう。
『ふははー!ようこそ我がスマイリーズサーカス団の本部へ・・ここは愉快な団員・・主に四天王が君の挑戦を受ける場所だ!』
「えっと・・ごめんちょっと唐突で理解できない」
『ンモう!こういうのはノリよノリ!アンタちょっとノリ悪すぎよ~!チョベリバー!』
「おい、なんか声男ぽっいな・・イケボなのにオネエしてるんですか・・ええ?」
『いやーん!もうこの子なんなの!誰か店長呼んで!しばき倒すわ!』
「おいい!なんか無茶苦茶言い出したぞ!いいのか!それでいいのか!」
『コホン・・失礼・・取り乱したわ・・まあそんなどうでもいいのよ・・細かい事はさておき・・』
「(こいつ投げたぞ・・)」
『まず最初に・・プレゼントはお気に召した?』
「プレゼント・・ニアの事かッ!」
『ピンポーンッ!その通り!すり替えておいたのさ!』
なるほど・・この愉快ピエロめ。
やりやがるよ・・僕の怒りの感情でも狙ってるのかな?
「愉快なピエロが誘拐するなんざ・・おふざけもいいかげんにしろよ!」
『おいコラァ!人を誘拐犯呼ばわりなんていい度胸じゃない!アタシ達は保護しているだけよ!なんで興味もない幼女ちゃんを誘拐しなきゃならないのよ!』
「えっ・・違うのか・・」
『当然よ・・それじゃあただの犯罪者じゃない・・私達はエンターティメントよ?なんで恐怖を与える側にならなきゃならないのよ・・』
「そ・・そうか・・そうだよな・・悪かったよ」
『わかればよろしンゴ・・さて・・本題に入るけど・・まず聞きなさい・・今から黒ニアちゃんはこちらで治療を受けてもらうわ・・その間に貴方は白ニアちゃんと頂上・・まあアタシの部屋まで来なさい・・』
「その理由は?」
『白ニアちゃんは何をしても怒らないし・・何をしても泣かない・・笑わない・・ド○ゲナイ・・我々は一体どうしたら白ニアちゃんの感情を開花できるか悩んでいたところにたまたまホネッルスから報告が入ったのよ・・「勇気ある英雄」がいるって』
「ずいぶんヨイショしてくれたな・・ホネッルス・・」
『まあ・・そんなわけで英雄ちゃんにはこれから白ニアちゃんと共に頂上へ来てちょうだいなのよ・・もちろんタダ頂上へ来ただけじゃダメ・・白ニアちゃんに何か一つでも変化が無ければ不合格・・また最初っからやり直しよ』
なるほど・・。
自分たちではできなかった事を僕にやらせるという事か。
「遠回しに・・この子の笑顔が見たいんだな?」
『いえーす!分かってるじゃないボウヤ・・その通りなのよ・・まあこの頂上まで全部で四部屋・・いくらなんでも一回ぐらいは笑わせてはほしいものね』
「四回連続笑顔にさせて33-4で終わらせてやるよ」
『言うじゃないガキ』
「挑まれた賭け事は全力なんでね」
画面越しなのにお互いにらみ合い力強い因縁を感じさせる。
互いに気迫を入れて油断させないと言わんばかりに力強い目で睨む。
『・・まあいいわ・・せいぜいがんばりなさいな・・』
「ああ・・頑張らせてもらうよ」
ピチューン・・
モニターは黒くなり暗転する。
その一言を最後に何かがはじまったようなものを感じた。
試練だ・・一言でいうなら試練。
これは白ニアを笑顔にする試練。
黒ニアを助けるための試練。
ここから最大のイベントと言う事だ。
いうなれば救出イベントだ。
僕はそれに全力を答えるように心に強い誓いを立てるのだった。
「(待ってろよ・・ニア!)」
「・・?(ギュと握り絞められる手に何かを感じ取る)」
白ニアの手を握り。
いざ開かれた扉へと向かい僕は両足を進ませたのだった。
NEXT・・




