無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 「白蛇狐の暴走・後半」
あるところに一人の少女がいた。
その少女は神様だった。
だがとてもとても怖い神様だと気味悪がられていた。
「グスッ・・グスッ・・」
あまりのにもみんながその神様を気味悪がり少女は泣いた。
全ての者達は彼女を避けた。
彼女を怖がった。
彼女の事を遠ざけた。
そしてついには近づいたら石を投げてこう言った。
「近づくな化け物」
その一言で少女は二度と人の前に出なくなった。
二度と姿を現す事は無かったが、一人の巫女がその少女に手を差し伸べたのだ。
その名は【天道 星奈】夏風の巫女だ。
「どうしたんだい?どうして泣いているんだい?」
彼女はその化け物に対して何も言わず。
ただ手をそっと差し伸べた。
優しい微笑み、美しい瞳、彼女はまさしく一人前の巫女だろう。
そう感じさせるほどのオーラがあった。
「・・・みんなが私の事を・・化け物だっていうの」
「化け物?それはお前の事をかい?」
「・・うん」
「そいつはひどいな・・私だったらこんな可愛い可愛い神様にそんなことは言えないな~」
「本当に?」
「ああ・・本当だとも」
その時から一人の神様は愛される事の大切さを知った。
心から愛される事を知った彼女の事をその巫女は「心愛」と名付けた。
そんな愛される事の重みを知った彼女はのちの世で脅威の存在となった。
それは数百年前のあの大戦争の停戦中の事だ。
心愛と星奈は互いに傷を負って逃げていた。
星奈はボロボロの体に鞭を打って体を動かしていた。
もう体は限界だった、少しでも歩けば血がたちまち溢れ出ていた。
「ハァ・・ハァ・・もうちょっとだぞ・・心愛・・あともうちょっとで・・」
「ごめんね・・せいな・・」
「謝る事はない・・お前のためならこの程度安いさ・・さあ・・帰ろう・・帰ってまたみんなで笑おう・・」
「はは・・そうだね・・」
山を登って必死に夏風の里へと帰ろとしていた。
あと少しで帰れると思ったその時だった。
ババババン!!
突如鳴り響いた無数発砲、それは星奈の後ろから聞こえた発砲音。
まっすぐ・・ただまっすぐその無数の弾は星奈の後ろめがけて放たれていた。
「ッ?!心愛危ないッ!グハ・・っ!!」
「せ・・いな?せいな?せ・・星奈!!星奈ァァァ!!」
あともうちょっとで帰れると思っていたその時だ。
突如後ろから放たれてきた発砲にいち早く対処してしまった星奈。
お別れの言葉も無く無数の発砲の的になって散り行く星奈。
戦争とは常にむなしいモノだった。
そんなむなしく散らせ後ろからの奇襲をしかけたのは誰だと。
そう思い心愛は発砲された先を見上げた。
その先にいたは星奈の婚約者でもある【佐道 勉】
またの名を混沌の騙し屋【アモン】
彼は戦争が終わっても人間を狩ることを止めなかった。
彼にとっては人間なんて遊び道具でしかないから。
「フヒャハハハ!!殺したぁ!アッハッハッハ!いいね!いいね!絶望の表情!絶望の顔!もうその顔たまねぇわ~!はは・・どーせ俺の呪いにも気づかず戦争してた奴だ遅かれ早かれ死んでたろうけど・・まーさかこんなあっけない死に方するなんてなー?」
「・・・はは」
「あ?」
その時・・その時だ。
その時から全てが狂った。
「そうだ・・そうだ・・人間は・・痛みこそ快楽・・愉悦・・愉楽・・楽しみィ!」
「お・・おい・・なんだ・・この雰囲気・・なんなんだよ・・この感じはッ!!」
「星奈・・これだったんだね・・貴方がどうして苦しい苦しい茨道を選んだのかようやくわかった!これだよ!愛された者が殺される時のより深き絶望感ッ!自分が愛ゆえに殺され傷つけられるこの絶望感ッ!あははは!!そうだ!これが愛の・・・愛の真の姿!」
その時から生まれた絶望の少女の姿。
全てを殺すために生まれた背中の八首の蛇達、袖から現れる楔につながれた鎌、おどろおどろしい十二の尻尾、白くも黒いオーラ漂わせた獣神【白蛇狐】
「ああ・・嘘だろ・・おい・・」
「た、隊長!ご命令!ご命令を!」
「こんなのに勝てるわけねぇだろ!逃げんだよッ!!」
「逃がさないよ?」
シュバゴバビィッ!!
その時周りにいた者全てをあらゆる方法で拘束し殺した。
首を絞めつけ、体の骨を全て粉砕し、口に毒を入れ、鎌で無残に殺す。
とにかく原型がなくなるまで彼女は人を愛し続けた。
彼女にとっての愛は痛み、そう感じてしまったのだから。
◆
「あはは!!!ねえねえ・・銀は私の愛からは逃げないよね?」
「ハァ・・ハァ・・・に、逃げたりは・・しない・・だから・・」
そう、今も復活の時を得て愛すべき者に痛みを愛された分だけ痛みをと。
そうやって生きているのが彼女だった。
八つの蛇が銀の体に巻き付いて離さない、地面に押さえつけられる銀。
逃げようにもこれでは逃げられない。
そしてその銀の上で馬乗りになる心愛、絶望の黒いまなざしで銀を見る。
「だから?だからどうしてほしいの?」
「こんな事・・やめるんだ・・心のそこから望んでも無い事になんてやっちゃダメだ!」
「・・ふーん」
「心愛?何を?」
「悪い子にはおしおき・・だよね?」
ズシャ・・
そういうと心愛は腕を伸ばして手首に大きな傷口を開いた。
そしてそこから流れる血を銀へと飲ましたのだ。
「グガァゴバァゲハァッ!」
「あはは!ねぇねぇおいしいよね?私の血!火傷して舌の感覚が無くなるぐらいにドロッドロの血・・銀ならこの味分かるよね?」
ドロドロと血を口へ流し込まれる銀。
大量の血を飲まされてもはや体も頭もおかしくなってしまうくらいに。
意識が遠のきそうだった。
このまま自分は死ぬんじゃないか、そんな感覚すら出て来た。
「ハァ・・ハァ・・や・・やぺぇぐぁッ!!」
「うるさいよ?少し口答えが多いね?」
「ヴっ・・やめ・・やめて・・く・・れ・・」
小さな手で銀の首を絞めつける心愛。
もう銀の体は乱暴にし生きられるほどではないのに。
心愛はどんなに銀が苦しんでいてもやめない。
もう完全に理性が壊れてしまった。
銀が苦しめば苦しみほどに彼女の興奮は抑えられなかった。
「あはは!!!ねぇ!気持ちい?もっと体締め付けてあげる!私が逝かせてあげる!だから銀も良い声出して!もっと出してよ!その悲鳴をッ!!あはははは!」
「グァァァッ!!!」
バキベキバキッ!
体に巻き付いていた蛇は力強く彼を締め付けた。
もうすべての骨が砕け散ったぐらいの激痛が走る。
銀はあまりの痛さに何も考えれなかった。
目の前の絶望に銀の心は闇に飲まれてしまっていた。
「(ああ・・やばい・・これ・・死ぬ奴だ・・このままだと・・死んじゃう・・)」
「あははは!アハハハ!アッハッハッハ!!」
「銀様から離れろ化け物ッ!!」
「ッ!?」
ドゴォッ!
突然の衝撃が銀の上に乗っていた心愛を奇襲する。
大きく地面へ転がり行く心愛、そして突如聞こえた声。
銀はぐったりとしつつもその声の方向へと顔を向けた。
その先に見えたのは・・美華そしてハルバードとアリサまでいた。
「みんな・・ッ!」
「銀様ご無事・・じゃないですよね!」
「全くまた一人で無茶しやがって!」
「心配したんですよ!」
「はは・・すんません・・」
一人の男の危機を感じてやって来た屋敷にいた3人。
急いで銀の下へと駆け寄る。
何故、ここにいる事が分かったのだろうか。
「なんで分かった・・ですか?」
「美華はご主人様の式神なんです!特にあなたが危険に晒されている時こそ危機を強く感じ取れるんですよ!」
「そういう事だ、てめぇ美華と契約してなかったら今頃死んでたぜ」
「美華に感謝ですね・・銀」
「うん・・ありがとう・・美華・・・」
「い・・いえ・・照れくさいです」
「(でも・・まだ心愛は・・)」
優しく美華の頭を撫でて褒める銀。
だが安心してはならないまだ後背後には暴走した心愛がいる。
銀は一息の安心と共に、心愛の心配もしていた。
このまま恐怖に怯えて心愛から逃げてもしょうがないと思った銀は。
その心愛に戻ろうと、銀は振り返りまた立ち上がろうとする。
「よし・・みんなが助けてくれたんだ・・戻んないと・・」
「お、おい!銀!」
「その体で心愛さんにッ!?無茶です!」
「ぎ、銀様ッ!」
「止めないで」
『えっ?』
みんなの悲痛の叫びに一筋の迷いなき答えが突き刺さる。
銀から聞こえたその答えに一同が困惑した。
「ハルさん・・僕達はいくつもいくつも心の重みで苦しんで来た人を見ました・・その人を貴方はどうしましたか?」
「その苦しみ事・・受け止めた・・」
「アリサさん・・人生に絶望した者達をこれまでいくつもいくつも見てきました・・貴方はその人をどうしましたか?」
「絶望から這い上がらせて・・希望の道に立てさせました」
「美華・・痛み苦しんだ者に対して・・僕はどうしたと思う?」
「その人の痛みと苦しみも・・全て受け止めてきました・・貴方は・・自分が信じた者は全て・・受け止めて来ましたから・・」
「はは・・みんな・・ありがとう・・その言葉が聞けたら十分・・」
優しく微笑む銀、まっすぐ歩き一人一人に言葉をかけた。
その言葉がどういう意図で出されたのかは分からない。
けれども何か・・今までとは違う何かを感じてしまっていた。
そう・・まるで・・いなくなるような。
「・・今日まですっごく楽しかった・・今日まですごく愛されるていう事の幸せがわかった」
「ぎ・・銀ッ!」
「僕は愛されてとても嬉しかった・・」
「やめて!銀ッ!それ以上そっちへ行かないで!」
絶望に飲まれていく少女に近づいて。
もう距離もそう遠くなくなった。
そして後ろを振り返り。
最後に彼は微笑んでこう言った。
「今日まで愛してくれて・・ありがとう!」
「銀様ァァァァァア!!」
グシャァッ!
そうして銀は目の前に立ち上がった少女に対して何も抵抗せず。
全ての首に体中が噛みつかれる。
「あはは・・痛いな・・」
「ヴぅ゛ぅ゛・・ぁぁ・・ヴぅ゛ぁぁ!!!」
「(もう理性どころか・・全てが溶けてるのか・・苦しい顔して・・そんなに・・)」
銀はどんなに痛くても苦しい顔をせずどんどん近づき心愛の下へ歩む。
そして近づけば近づくほど絶望は強く強く増す。
「クァァァッ!!」
ズシャアッ!
暴走する心愛は袖から鎌を銀の体へと突き刺す。
それでも・・それでも銀はボロボロになろうが歩き心愛へと近づく。
「心愛・・大丈夫・・こわく・・ないよ・・」
「クァ・・ァ?」
もう心愛を見る事すら難しい銀はただひたすらに前を歩いた。
心愛は動揺した、目の前には自分がいくら攻撃してもどんなに痛みを与えても。
怯えず、何も怖からず、ただ前を行く銀に涙を流し始めていた。
「そう・・こわく・・ない・・こわ・・くない・・こわがらくなて・・いいんだよ・・」
「・・コワ・・く・・ナイ・・?」
銀はそのボロボロの体に鞭を打って心愛に近づいて抱きしめた。
力いっぱい抱きしめた。
そして静かに優しく暖かな声でその一言は聞こえた。
頭を最後の力ふり絞って優しく優しくただ撫でた。
銀は微笑んでこう言った。
「そう・・コワく・・ないよ・・だから・・だから・・戻って来てよ・・心愛・・っ!」
「ああ・・ぁぁ・・ァ・・」
銀を苦しめていた蛇が力を抜いた。
銀を苦しめていた武器は姿を消した。
そう、心愛は正気を取り戻したんだ。
涙をボロボロ流して心愛の中で気を失う銀を受け止めて。
心から伝わる痛みと苦しみを味わい、心愛はただこう言った。
「ごめん・・なさい・・ごめん・・なさい・・」
心愛は深く深く傷ついた。
自分が今までやって来た事、無自覚でも許される事ではなかった事。
その全てを体に無茶をしてまで受け止めた銀にそう言った。
銀はその時聞いていたかもしれない、眠り行く体に染み込んでいたかもしれない。
「銀ッ!ギィィィン!!」
「無事ですか!無事なんですかッ!?」
「銀様ッ!心愛様ッ!」
恐怖のオーラが無くなったを感じ大急ぎで近寄る3人。
戦いは終わった、また一つ絶望を断ち切る事はできた。
しかし、今回の戦いはあまりにも大きすぎた。
銀がこの痛み全てを受け止めるという代償はあまりにも大きすぎた。
傷つき深く体を苦しめた銀は一体どうなってしまうのだろうか。
END
◆
「・・ロキさん・・もういいでしょう?」
「ええ、そうね・・彼は・・ついに乗り越えて行ったわ」
森の上空から見上げる二人の混沌。
そう、この事件は全てわかりきった上で起こった事だった。
「銀君は僕の忠告すら真に受けず彼女の理性を作った・・彼ならやはり・・」
「でもまだよ・・まだ・・アレとはほど遠いわ・・」
「まだ何かやるって言うんですか?銀君は今はこれ以上は動けません・・せめて休息を・・」
「今は体が動けないだけでしょ?」
「・・まさか?」
「すでに手は打ってあるわ・・彼にはもとよりここで気絶してもらう予定だったし」
「・・このドSBBAが・・」
「ふふ・・なんとでも言いなさい・・私はそういう風にしか彼には協力できないわ」
「はいはい・・もうそれはいいですよ・・それより早く彼を運びますよ」
「ええ・・彼にはまだ・・世界を救ってもらいたいものね・・」
「そう思うなら・・もっとマシな方法があったと思いますけどね・・」
二人の不安がにじみ出る会話。
一体この会話に何の意図があるのか。
それは・・全ては・・次の物語にある。
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