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無限空想世界の幻想的な物語  作者: 幻想卿ユバール
外伝その2
84/150

無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 「白蛇狐の暴走・前編」

これはある日のロンディニア、

ある日のガーネット邸で事件は起きた。

時刻は夜、全ての人達が寝ているこの時間で事件は起きてしまった。

僕の目の前に現れる理性の崩壊した怪物、

あの時見たフロルの狂気を超えるさらなる狂気、

赤い瞳、長い舌、逆立つ黒い金髪の髪の毛、

長いぶかぶかとした袖から二つ鎌をチェーンで振り回して暴れた一人の少女、

白く染まる12の尻尾を邪悪なオーラ漂わし、背中からは8つの白蛇を飼う少女、

にやりニタニタと笑う快楽の神、人は彼女の事を【白蛇狐】と呼んだ。


「銀君・・彼女を救う方法は一つ・・彼女を殺す事だ」


「本当にそれしかないのか・・本当に・・それしか?」


悲しみの憎悪、溢れ出る邪悪、

事の始まりはその日の月光を見ていた時から始まった。


 ◆


「・・満月か」


夜の満月を窓から見上げる一人の少女、

彼女は姫蛇風 心愛、一人の神である。

少女様にかわいらしい見た目だが、実力は一級品、

大昔は巫女の式神や神社の守り神として君臨していた。

そんな彼女は現在次世代の巫女に旅に立たれ、一人神社を守っていたのだが、

恩義と暇を持て余した理由をつけて銀と言う少年の下で式になることにした。


案外誰でも式神を持てるよう見えるが、銀がかなり特例であっただけである。


「いつ見ても月は美しいな・・昔はあそこにも里があったんだ・・今は無いが・・きっといつかまた・・」


「あれ、心愛いたんだ?」


「む、銀か・・こんな夜更けまで起きているとは・・よっぽどの暇人だな」


「はは・・中々寝付けないもので・・」


廊下を徘徊していたこの銀髪の少年は【シルバー・ウィルコンティ】

愛称として銀と呼ばれている。

少し眠れなくてどうやら廊下を散歩していた様だ。


「ふふ・・まあ、お主の様な者は特に寝付けないというのも無理はあるまい・・ここ最近は事件の多発だ・・次は何が起こっても不思議じゃない」


「そうですね・・不安で最近は睡眠不足も考えられます・・ハルさんやアリサさんはこの屋敷で留守を守ってくれますが・・」


「奴らだけでは安心できまい・・確かに強いのは分かるが・・いつ何時誰に狙われるか分かったものではない・・ワシと美華もしばらくはこの屋敷を守ってやろうぞ・・」


「大いに心強いですね・・」


「そうじゃろうな~・・なにせワシも美華も契約したおかげで本来の力を使える・・美華に関しては日中のみの管轄じゃが・・ワシは24時間起きてても支障なしだ、大いに期待しろ」


こんなにも心強い人は他にもいないだろう。

自信たっぷりの神様、ニヤニヤと笑いとても笑顔だ。

銀も心から安心している。


「・・ああ、そ、そうじゃ・・お主まだ起きてられるか?」


「ん?僕ですか?」


「そうじゃ!せっかくだから外を散歩させよ!」


「外・・ですか?(確かに最近ロンディニアの外は出てないな・・この時間だとどこも真っ暗だし・・)」


神様からのありがたい夜のお誘いに少し悩む銀、

特に出て面白いところはないと思った銀だったが、

一つだけ思い当たる節があった。


「(いや・・一つだけあったな・・)いいですよ、心愛にも見せたい場所があったんですよ」


「ふむ?ワシに?」


「ええ、神様ならではかもしれませんね」


少し不思議がる心愛を連れて銀たちは夜のロンディニアへ赴く、

夜のロンディニアは少し涼しい風がなびく、

環境がてともよく、暑い日のロンディニアの夜は特に涼しい、

街灯が照らす町を歩いて数分、銀たちがたどり着く場所はあまりにも意外な場所だった。


「こ・・これって・・」


「驚きましたか?ここは本当なら南ロンディニア区があったんですが・・その後は山になったんですよ・・この石階段と言い・・なんだか場違いでしょ?」


たどり着いたその場所はなんと森林で覆う山。

しかし今までの山とは違い。

この山は階段を上った先に絶景の見える丘があるぐらいだ。

そんな場所だが、散歩ぐらいにはちょうど良いだろうと銀が連れて来たのだ。


「はは・・だが、嫌いじゃない・・こんな洋風の街並みにそびえる大きな山か・・」


「でしょ?」


「うむ・・お主がなぜ私を連れて来たのかも納得だ」


「はは・・では行きましょうか」


「うん、行こうか・・」


こうして山を静かに上り始める二人、

静かに森林がざわめく山、なんだかとても穏やかで落ち着いてしまう。

そんな耳にやさしいこの場所でとても心が癒されていた。

あっという間に山の頂上へとたどりつくと、そこから見えたのはロンディニア全体の風景。

かすかすに見える灯がとても素晴らしいものだった。


「夜の街並みか・・月光が照らすおかげでもあるが・・とてもいいな」


「ええ、とても素敵ですね」


この絶景を眺めていたい、いつまでもこの雰囲気に癒されていたいと、

そう願うばかりの二人である。


「なあ、銀・・」


「なんだい心愛?」


静かに語り掛ける心愛、暖かくもどこか不安の募る声、

この静けさに冷たい吐息を吐く様に彼女は言った。


「もし・・もしもだよ・・お主はもし・・大事な大事な仲間が敵になったり・・大切な人が驚異の存在となってお主を襲ってきたら・・お前はどうする?」


「なんでそんな質問するのかはわかりませんが・・僕だったら・・受け止めます・・僕に恨みがあって僕に襲い掛かるならそれでいい、もし敵だったとしても僕は必ずその人の気持ちを受け止めます」


「・・ふふ、やっぱりお前は・・そういうやつだな・・きっと大切な仲間じゃなくても・・お主なら・・そうするだろう・・」


「はい!僕は世界を救いたいですからね!」


振り向いて寂しそうに語り掛ける心愛を前に笑顔で答えた銀、

心愛は安心したのか息を吐いて落ち着いた声で銀に告げた。


「はは・・良かった・・っ」


ドサッ


それは銀が目が恐怖に怯えた瞬間だった。

ゆらりと突如倒れた心愛、疲れ切った様に体中から汗を流していた。

息は荒く、とてもぐったりとしていた。


「ハァ・・ハァ・・ヴッ・・あ゛ぁ゛・・」


次第に苦しみ初めて胸を押さえてもがき苦しみ始める。

一体何が起こっているのか銀にわからなかった。

ただ恐怖で怯えて何をしていいのかわからなかった。

動揺が隠せずガクガクと震える体にどうする事も出来なかった。

そのはずだったのだが・・。


「こ・・心愛ッ!」


慌てて近づく銀、体が怯えていても感情にかられ動く、

体を支えて様態を確認するがそれはひどいものだった。

とにかく体中が何か苦しんでいる事は分かっていた。

原因が分からずどうすればいいのか銀にさっぱりだったが。

危機を感じるように分かる者はやってきた。


「銀君ッ!」


「白鶴さんッ!?」


それは上空からやってきた白鶴の姿、

そう、まるでこの事が分かっていたかのように来たのだ。


「白鶴さんどうして・・」


「僕は知ってたからね・・この事を誰よりも・・そろそろ心愛ちゃんの封印も限界が近づいていた事も・・」


「封印?何のことなんですか一体?!」


突然の事で混乱する銀、

白鶴はそれに対しても冷静に落ち着き説明を始める。


「いいかい?落ち着いて聞いてくれ・・彼女は古くより力を抑えられて来た【白蛇狐】なんだ・・この世界が始まってから彼女の存在はそれはそれは力強い者だった・・彼女は幾度も幾度も人々を苦しめ痛みの愛を捧げたのさ!君にも簡単に説明するなら彼女はヤンデレをこじらせた狂気の愛そのもの!彼女にとっては痛みを感じさせる事が愛情と言うとんでもない誤解を持ってるんだよ!」


「そ・・そんなッ!?嘘ですよね!?」


「本当だ・・ワシ・・いや・・私の理性を安定させるためには誰にも関わらない様にしていた・・愛されれば愛されるほどに・・私はどんどん心の奥からその理性を崩壊させてしまう」


「そんな・・そんなのって・・」


「心愛ちゃんはね・・この何百年誰にも愛されず生きていたからこそ理性を保ったんだよ・・それを今回君が愛を注いでしまったからね・・」


「ッ?!」


とても悲しい真実、

まさか自分が知らず知らずにやっていた事が世界を破滅させる。

そんな一歩だとは思いもしなかった。

銀は罪の重さを感じていた。


「あの時やっぱり言うべきだった・・僕が知っていたにも関わらず・・言ってやれなかった僕にも責任きあった・・・黙って理性崩壊の道を選んで幸福になろうとしていた貴方にも責任はありますけどね!」


「・・すまない・・」


「白鶴さん!どうにかできないんですかッ?!」


「どうにもならないさ・・時機に体の包帯が剥がれて真の姿を見せるだろう・・その時の彼女は君の事を真っ先に狙うだろう・・君は・・死ねない永遠の苦しみと苦痛を味わうんだよ!」


「・・・」


「はは・・絶望の眼差しかい?残念だが僕にできる事は何もない・・銀君・・彼女を救う方法は一つ・・彼女を殺す事だ」


「本当にそれしかないのか・・本当に・・それしか?」


銀が震える声でそういうと。

今までキレてなかった白鶴が初めて怒鳴る。


「お前に他に何ができるんだッ!?人類が望んでもコイツは死ななかった!精々永遠に愛されない事で誰にも目を向けられない生活をさせてやる事ぐらいだったんだよ!何万の犠牲を払って封印してたのが解き放たれるんだ!もう手の施しようが無いんだよ!」


なんという怒りの声だ。

とても、心に響いてしまう。

銀は悲しみに心を打たれて涙を流した。

だが、同時に悲しみが一つの勇気へと変わった。


「白鶴さん・・僕は・・僕には一つだけとは見えません」


「なんだと?」


「彼女にとって愛が痛みなら・・その愛を受け止めればいいんですよね?」


「・・っ?!馬鹿なのかッ!?そんな事すればお前どうなると思っているッ?!永遠お前はこの化け物の玩具として永遠を過ごす事になるんだぞ!」


「だからこそ呼びかけるんです・・わずかな彼女の自我に」


「それで正気に戻って彼女が力をコントロールできるとでも?ありえない!」


「それでダメなら・・いや、ダメじゃない成功するんです!やってもないのにダメだとか無理だとか決めつけないでください!敗北の言葉なら後でいくらでも言えます!」


「・・・君ってやつは」


白鶴が頭を抱えてため息をつく、

流石の白鶴もあきれ返ったのか、

だが、銀がそう思っても彼は全く別の感情になっていた。


「・・100点じゃないけどその答えには合格点をくれてやる」


「白鶴さん・・!」


「こうなれば一か八かだ・・僕が巫女を連れてくるまで耐えろ・・それまでに心愛を沈められなかったらあきらめて光に葬るぞ」


「・・わかりました」


「んじゃ・・せいぜい快楽に溺れるんじゃねぇぞ!」


そういうと白鶴は天高く飛び上がり巫女の下へと行く、

かくして不安だけが残された大地の山。

銀は恐怖に怯える中、ただ手の中に抱いていた心愛の事を心配していた。


「心愛!・・大丈夫?」


「ハァ・・グゥァ・・ちょっと・・つらい・・銀・・離れた方がいい・・」


「嫌ですよ!ここまで来たら僕が責任を取ります!だから心愛もそんな理性の崩壊に負けたあ゛ッ?!」


その瞬間ギュっと銀の首を絞めた小さくも力強い手、

それは誰に絞められたのか、誰にやられたのか、

それは銀の手の中にいた心愛が絞めていた。

片手で首を絞めて強く強く痛みに溺れさせる様に絞める。


「あ・・ああ!あは・・あははは!」


「ご・・ここな?」


「アッハハハハッ!!」


トゴォッ!!


勢いよく地面へ叩きつける心愛、

そう、もう始まっていたのだ。

絶望の覚醒がもう・・始まっていたのだ。

目を赤く光らせ狂気の目を開いて理性を崩壊させた少女の姿。

これが・・【白蛇狐】だ。



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