無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章5 「巫女と脅威」
時は少し戻って闘技場から少し離れた広場での出来事、
そこでは魔王と鬼竜と喰煉の三人が話をしていたのだった。
「フハハハッ!ようやく見つけたぞ!鬼竜と黒竜ッ!」
「おう、魔王さんもお変わりないようで」
「逆にまだ生きていたのね」
「当然だッ!我は死なんッ!あの程度で息絶えるものかッ!」
なんとも楽しそうな魔王だ。
ここまで愉快愉悦に笑える人物も少ないだろう。
両腕を組み威勢よくする魔王の姿である。
黒竜は迎え入れてはくれてそうだが、
なんだか鬼竜は嫌そうだ。
「と、再開の挨拶はさておき・・ここはひとまず我に何か報告はあるんじゃないか?」
「いーや、おたく何も知らないみたいだけどさ、停戦中の俺ら何もできてなかったわけよ」
「そう、つもり何も貴方様に報告できることはないわ」
「なん・・だと!?」
魔王もびっくりの様子、
しかし停戦中はほぼ混沌も秩序も誰も動くことはできなかった。
これはまごうことなき事実である。
100年間封印されていたせいで何も事情が把握できていないのである。
「そ、そうだッ!他の者はどうした!ロキや白鶴はッ!」
「あ?白鶴だったら停戦前に裏切ってどこかに行ったろうが」
「ロキは停戦中にアビスと交戦していた記憶しかないわ、それ以降見ていない」
「ぐぬぬ・・混沌もここまで追いやられていたとは・・・」
なんとも悲しき事実だ。
せっかく魔王の四天王が二人も見つかったのに肝心のもう二人はどこかへ消え、
さらには他の人達すらもどこかへ消えている。
希望が見えたと思ったらこの様である。
「まあ・・貴様らが見つかっただけでも良しとしておこう・・」
「良しとするのはありがたいが・・俺らはここからまだ離れるつもりはねぇぞ」
「なんでッ!?」
「魔王様・・鬼竜達は現在この里の者達を守る恩を返している途中なんです・・貴方が聡明なお方であることは深く理解しているつもりです・・しかし命の恩義の大切さは貴方ならよく理解できているはずです」
鬼竜から出る冷たくも暖かい言葉、
これは鬼竜が身に染みて恩を感じているという事だ。
魔王はこの言葉から全てを理解できてしまった。
「命・・恩義・・なるほど・・理解したぞ・・貴様らは死にかけのところをこの里に救われたのだな?」
悟りの早い魔王である。
一瞬でここまで簡単に説明できるのは流石である。
「そういうこった、アビスの野郎抜け目なかったぜ・・まさか秘密兵器を用意していたとはな」
「秘密兵器・・だと?」
「秘密兵器・・まあ、あんたにもわかりやすく説明するとだな・・アビスには4帝つうのがいたろ?俺たちが倒し損ねた幹部の存在、それ以外にも4帝のさらにもう一つ【一王】が存在したんだとよ・・それが秘密兵器・・ぶっちゃけ4帝と強さは変わんねぇけどな」
「ほう・・してそいつは倒せたのか?」
「無理、あの時は恐ろしいぐらい体力が余ってなかったわ・・包帯を解けば勝てると思ったけど・・黒鯨の介入もあってボロクソに負けた・・黒竜がいなかったら死んでたわね」
魔王は静かにその強さに汗を流していた。
少しだけだが恐怖を感じていたのだ。
鬼竜と黒竜が束になっても勝てない相手、
世界最強の魔物を誇る黒鯨がいたとは言え、
惨敗まで来ると流石の魔王も汗の1つや2つは出る。
「黒鯨め・・忌々しいアビスの怪物だ」
「アレはまだ全力出せたら倒せるかもしれねぇけどな・・あんなのより俺的には白竜と白蛇が一番恐ろしいぜ」
「それを言うなら白鯨もね・・あいつは人の味方だけど・・正直戦闘してくれるほどではないし・・あとはゼウスくらしいかしら?天界から降りてきたらの話だけど」
「この世の最強生物共の話はよせ、話し出したらキリがないだろ・・話がそれたが・・お前らの相手した奴はどんな奴なんだ?」
「具体的にはわかんね、姿がまるで見えなかったが・・攻撃は全て格闘技と体術が全般だったぜ・・素早くてまるでつかめなかったが・・」
「アレは黒竜の様なパワー押しじゃ無理ね、私の様にすべてに優れた素質じゃないと」
「素早い・・格闘技・・」
魔王が考え込み始める。
このキーワードに何か引っかかるものが存在するのかもしれない、
しかし魔王には実はこのキーワードだけで引っかかる人物がいたのだ。
それが確証が無い為断言はできなかったが、
魔王はこれからはその人物を見たら疑いはする様にしようと決めていた。
「まあ良い、それだけ分かっただけ貴様らと会った甲斐があったものだ・・感謝する」
「こちらこそ・・魔王さんの生存は何よりだ・・あんたがいねぇと後々困るしな」
「ま、そうね・・私も混沌の復活は望んで無かったわけではないし・・」
「フフ・・素直じゃないな・・」
「まあ、それはそれとしてしばらくはアンタとあの巫女で頑張ってくれ、こっちはこっちで里にアビスは来るんでね」
「雑魚狩りも少々飽きたけどね・・そろそろ黒鯨でも相手してやってもいいのだけど」
「おい、慢心してると死ぬぞ」
「わかってるわよ、私もそこまで馬鹿じゃないわ」
「フハハッ!相変わらず頼もしい奴らだッ!」
少し残念ではあったがなんだか心が落ち着いた魔王だった。
これで少し情報を得ることができ、四天王の生存も確認できた。
魔王軍復活の道も少しだけ目途が立った瞬間だった。
「あ、魔王様~ッ!」
突然の叫び声、この声は林の声だと魔王が後ろを振り返る。
かなり慌てて走って来た林、一体どうしたのか、
「ぬっ?林か、どうした」
「大変です!大変です!ガッツさんと翡翠様が・・ッ!!」
「な・・っ!あのバカまた何かに絡まれているのか・・っ!?」
「そうなんですッ!なんだか変態の人がやって来て・・そしたらガッツさんがリンチにされて巫女さまの初めてがピンチでそれをかけてガッツさんと変態が勝負をッ!」
「よくわかんが・・ヤバそうだッ!」
魔王がとりあえず危機だけは感じ取った。
しかし実際言っていることは何も間違ってはいないのである。
「おいおい・・巫女様とやらピンチてっやつじゃねぇのかコレ」
「あらやだ物騒・・最近サル共も盛んなのね」
「チッ・・人の巫女に手を出すとは無礼千万だッ!今すぐ行くぞッ!お前らも来いッ!」
「おうっす!」
「御意」
林の呼びかけに魔王とその四天王の二人は急いで闘技場へと向かう。
果たして魔王は無事に間に合うのだろうか、
そして、巫女とガッツはその頃どうなっているのか、
不安と波乱の中・・静かに脅威が動き出す。
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