無限空想世界の幻想的な物語~楽園~ 第15話 「白と黒のリーダー」
今私はこの月光の輝きに照らされて、
一つの伝説の姿を目の当たりにしている。
私は歓喜している。
たった一つの勇ましい男の姿に私は歓喜している。
「こ・・これが・・伝説の八咫烏の復活・・いや、烏の復活ッ!」
「いや・・嬢ちゃん・・まだ俺の伝説は完全復活していない・・俺の伝説を復活させるには・・やっぱ戦わねぇとな・・」
「な・・でも、ヤタさんッ!その人は私が戦っていた相手・・さすがにもう・・」
『ならばその相手・・俺が受けようッ!』
私の後ろから聞き覚えのある一つの声、
どこかで聞いたことある・・とても私の心に響く強い声、
この声は・・夜桜さんッ!
「ふっ・・・そちらの大将がお出ましなら・・俺もお出ましだ」
「やっぱり夜桜さんッ!来てたんですねッ!」
こちらの勇ましいリーダーの登場だ。
刀を背負って木の葉舞う森林でも凛々しくあり続ける我がリーダー、
夜桜さんッ!
「あ、秋斗様ッ!まだ無茶してはなりませんよッ!そのお体はまだ・・」
「心配するな・・お前の能力【万能髪】のおかげで体もすっかり元通りだ」
・・横にいるクソモフロングヘアーの白狼は誰だ妬ましい、
夜桜さんめ、私がいない間に誰か口説き落としていたのか・・、
「夜桜さん・・襲ったんですか?」
「誤解だッ!!私は彼女を救ったんだッ!」
「そうですッ!変な言いがかりはやめてくださいッ!私はもうあなた方の敵ではないのですッ!」
「敵じゃない?」
「そうです・・私は一度は人を殺す狂人・・ですがもうそんなことはしないッ!今度は罪滅ぼしに人間を救うのです・・いくつもの人たちをッ!」
あの白狼、あの輝かしいまなざしは本当ぽいな、
てっきり夜桜さんをだましているのかと思ったけど、
「はは・・そんな大げさに考えなくてもいいぞ」
「いえッ!そんな大げさに考えなくては・・私は変わりたいんです・・恨む者から・・もう足を洗いたいんですッ!」
「フロル・・ありがとう、どうやら俺の言葉が染みついてしまったらしいな・・」
「えへへ・・そのほうが身に染みたという感情が伝わっていいじゃないですか!」
すごい中がよさそうだな・・、
いったい私がいない間に何があったんだ。
「あ、そういえばすっかり蚊帳の外にしていてすいません・・やたうぉッイ!」
私がスッと後ろを振り向いて八咫さんのもとへと振り向くと、
そこに立っていたのは泣いた二人の烏の姿、
一人はブワッと感動する紅葉さん、
鼻を抑えてクッとしているのが八咫さん、
この二人何をそこまで・・、
「俺は感動したッ!狂人強者とまで言われたあのフロルがッ!あそこまで立派にッ!」
「八咫さんッ!やっぱり人間はいい人ですねッ!フロルちゃんの事をあそこまでッ!」
「(案外涙もろいんだな・・ていうか仲間意識が高い?)」
なにはともあれ互いが互いに認め合ったようで安心、
これでとりあえず雰囲気的にはよくなったか?
「・・さて、それはともかく・・夜桜・・といったか?」
「そうだ・・俺は夜桜 秋斗・・夜桜家最強の剣士であり・・夜桜に舞う一人の侍だッ!」
「ほう・・その細くよく調整された体つき・・悪くない・・確かに貴様は侍に向いている」
「お褒めの言葉感謝する・・貴殿も・・私の170㎝をもろともしないその180㎝のでかい図体はさすがだな・・筋肉がよく整っていると見た・・」
こいつら互いになんで見ただけで互いの体つきわかんだよ、
なに、そういう生活でも強いられた?
親の家計がスポーツトレーナーだったのッ?
「ふむ・・紅葉交代だ・・やはり俺が奴の相手をする」
「わ、わかりましたッ!」
「柘榴ッ!交代だッ!俺が出る!フロルも遠くで見守っておけ!」
「りょ、了解ですッ!」
「わ、わかりましたッ!」
夜桜さん・・あんな素晴らしい目つきで相手と戦う姿勢を見せるなんて、
いつぶりだろう・・まるで霖雨様とお稽古しているときみたいだ。
「あ・・秋斗様ッ!こちらをお渡ししますッ!」
「むっ?これは?」
慌てて離れる前に袖からフロルが取り出したのは【刀】だ。
しかもかなり神聖なオーラ漂う黒白の刀・・、
「これは・・もしや【神刀シンゲツ】ッ!?」
「な・・なんだと・・フロルッ!おめぇ・・シンゲツを持っていたのか・・」
「フロルちゃんがやっぱりシンゲツを・・」
「はいッ!私がずっと隠し持っていたんですッ!あのクソ主人様からッ!」
『クソ主人様ッ!?』
いま何かよからぬ黒いものを感じ取ったけど・・、
それはさておき神刀シンゲツ・・聞いたことがある。
月の里にしかない伝説の刀、
ある日突然このイフニアに急行落下したといわれている。
そんな刀をあの子が持っていたのかッ!
「・・だが俺にこいつを使えるだろうか・・シンゲツは真の持ち主以外はすべて死を呼び寄せると・・」
「大丈夫ですッ!秋斗様なら・・秋斗様ならきっとッ!」
「・・フロル、わかった・・君の思いに答えるためにも・・ッ!」
よ、夜桜さん・・刀をガチャりと音を鳴らして鈴を鳴り響く白く神聖な刀を、
鞘と持ち手をもって、目をつぶり悟り話しかけるように瞑想を始めた。
「あの夜桜てっ男が・・あの刀を使えるなら正真正銘の侍だな」
「はい・・あの刀を抜けた者はかつて・・月の侍だけ・・」
「(信じろ・・フロルを救った俺なら・・フロルが信じて俺に渡してくれたのたなら・・きっと・・俺になら・・この刀は答えてくれるッ!)」
その時、突如夜桜さんの周りを囲う様に風が吹き荒れるッ!
ビュオオオオッ!
夜桜さんは白い風に巻き込まれたか、
それともあの中でまだ瞑想を続けていたか、
それは誰にもわからない、
だけど、その風に包まれたことに誰も焦りもしなかった。
何故だかわからない、何故かそれを見て心から何か騒ぐものがあったのだ。
きっと夜桜さんがあの中で何かを思い出して、
何か、幸せになるように、
「(俺はここまで・・たくさんの事をやってきた・・沢山の罪も・・犯してきた・・)」
◆
不思議と私はいつまにかどこか違う風景を見ていた。
そこはどこだかわからないが、
どこかの山小屋だった。
とてもどこかで見たことある山小屋、
そこに見覚えのある人影・・夜桜さんとフロルさん?
『君はどうしてここにいるんだい?』
『・・私は帰れないんです・・役立たずだから・・無能だから・・白狼だから・・』
『どうして白狼だと帰れないんだい?』
『ご主人様は言いました・・私は所詮道具だと・・だから道具らしく私の役に立てと・・』
『君は道具なんかじゃない、命あるれっきとした一人の人だ・・こんな拘束されてかわいそうに・・今・・解放してあげよう』
『ど、どうして・・どうして私なんかを・・』
『決まっているだろ?君を助けたいからだ!』
私はその風景を見終わると、
また次の風景へと移り変わった。
今度は夜桜邸だ。
春の暖かな園側で桜を見上げる。
霖雨様と夜桜様・・、
『秋斗・・私は冬木様との結婚は反対するわ』
『ど、どうしてですかッ!兄上ならきっと・・』
『無理よ・・あの人の女癖の悪さはもう私我慢ならないわ・・私もきっと遊び相手の一人にすぎないのよ』
『霖雨様・・』
『秋斗・・私と駆け落ちして・・私は貴方と結婚したい』
『じ、自分とですかッ!?そ、そのような・・』
『貴方はいつもこうやって私のそばにいて話をしてくれた、あなたはいつも外に出れない私に土産話で私を笑顔にしてくれた・・この満開の桜は・・私のほほえみの証だと・・あなたはいってくれた・・』
『霖雨様・・』
『秋斗・・お願い・・今度は・・もっと素敵な場所で・・誰にも見つからないところで・・私の芽を咲かせて・・そしてまた満開の桜を咲かせましょう』
そうだ、夜桜様は・・秋斗様は常に霖雨様とも運命を共にしてきた。
兄弟だったから、秋斗様も天然で女たらしとも言われていましたが、
秋斗様は・・秋斗様は・・、
そうやって・・傷ついた人は・・自分のせいだと言って恨みも妬みもすべて受け止めた。
この風景だけじゃない・・どんどん夜桜さんの思い出が私の目の前に現れた。
『もし戦いが終わったら・・お前と一戦・・よろしくな』
『いつか・・また会おう・・我が戦友よ』
『おぬしがもし苦しむことがあれば俺たち向日葵が支える』
『まるで・・夜桜様は桜そのものの様ですッ!』
『俺が・・桜そのもの?』
『はいッ!何度散っても・・何度倒れても人々の悲しみい憎しみを受け止め・・すべてを満開の桜に咲きほこらせた桜の様ですッ!』
◆
「(俺は・・沢山の罪を犯した・・そんな俺に・・本当の桜を語る資格はもってない・・だがもしシンゲツ・・お前が俺を認めてくれるなら・・俺は・・人々の笑顔に笑顔をもたらせる・・そんな桜に・・俺はなりたいッ!!)」
シュパァァァァァンッ!!
長き時間のような・・短き時間のような・・
まるで私たちは過去をさかのぼっていたような、
私やフロルさんがなぜこの戦地に風景が戻ってきて泣いているかなんてわからない、
けれどもなぜか涙が止まらなかった。
あの白く白く・・神聖な軍服に身を変えた夜桜さんに涙をこぼした。
白き風が夜桜さんの周りから消え、
夜桜さんはあの白く輝く刀を振り切り八咫さんに矛先を向けていた。
「さあ・・始めよう・・長くなったな」
「ああ・・お前の戦場も・・ここということだッ!!」
『ルアァァァッ!!』
ズドォォォォンッ!!
ズシャァンッ!ピィシャアンッ!キィンッ!ドォォォンッ!!
私が見たこの光景はとても激しく、
とても神々しい二人の漢のぶつかり合いだった。
一人の黒き舞いはばたく一人の烏は大剣を振り回し、
あの夜桜さんの素早い刀の攻撃をすべて受け止めて、
全て相殺している、すべての攻撃に対してまっとうに、
全ての攻撃をもろともしない、たとえ相手がどれだけ早くても、
その大振りの太刀ですべて薙ぎ払ってやるとッ!
もう一人の白い神のオーラに包まれた男は、
たった一本の刀であの八咫烏に立ち向かっていく勇敢なる侍、
前を攻めたかと思えば激しくアクロバティックに上空へと、
もはや肉眼ではとらえきれない動きだッ!
「くらえッ!【天草天空刀】ッ!」
ズドォォォンッ!
夜桜さんが上段に一気に素早く構えて大振りッ!
まるででかい衝撃波の剣だ。
天空へと大きく大きく輝き現れる波動の剣ッ!
「ならば・・俺はてめぇに最高の一撃をくれてやるよッ!!【波動破】ァァァッ!!」
バゴォォォォンッ!!
八咫さんは太刀を背中に瞬時に背負って腰の拳銃の銃口に、
スタイリッシュに大きな弾を詰め込む、
そしてこの肉眼では絶対にとらえきれない瞬間の間に、
八咫さんは拳銃を構えてあの衝撃波の剣に向かって強大なエネルギーを放ったッ!
巨大なレーザーの様に輝く一筋の極太い砲撃、
巨大な光り輝く天空にまで届きそうなぐらい波動の剣、
今、二つの強大な力はぶつかったッ!!
「ウォォォッ!!!絶対に勝つッ!」
「絶対に・・負けねぇッ!」
ボォォォォォンッ!
二つのぶつかり合いの末、両者の攻撃は見事に相殺ッ!!
私たち観戦者から見えていたのはまき散らされる煙だが、
見えなくてもわかる、その中でも彼らは戦っているッ!!
「ハハハハハッ!この見えない戦地こそこの夜桜の特権ッ!俺の能力ならこんな状況へでもないわッ!!」
「それはどうかなッ!!俺の能力・・【狂人強者】は・・見えない存在・・感じ取れない存在すらも察知してお前に襲い掛かれるッ!!」
「だが・・ッ!俺はそれすらも防いでいるんだ・・お前ごとき大したことないなッ!!」
「言うじゃないか・・人間ンァアアアアッ!!!」
「お前もなァァァッ!烏ッ!!」
ズドォォォンッ!!
このつば競り合いの末にようやく煙が晴れた。
私たちが目にしたのはボロボロになった二人の姿、
でも顔はとてもわらっていた。
晴れやかな笑顔、とてもにこやかな笑顔、
私たちはそんな笑顔に・・安心して、
心が躍った、もっとあなたたちの雄姿を見せてと、
傲慢で、とても自分勝手な願いかもしれない、
見ている側の私たちがいえることじゃないかもしれない、
けれども、どうしても言いたくなってしまうほど、
この白黒の光景に涙ながしてしまうのだ。
「夜桜さァァァんッ!!ファイトぉぉぉぉッ!!」
「負けないでくださいぃぃッ!秋斗様ァァァッ!」
「八咫さァァァんッ!!」
私たちは思わず声をあげて応援したくなるほどに、
私たちの心は熱く熱く魂を燃やしていた。
そして、私たちは夢中になりすぎて気づかなかった。
この周りにはもっと多くの獣、人獣たちも見ていたことに、
みんな熱く盛り上がっていた。
烏も、キツネも、多くの獣たちが今この場を見ていたんだ。
月光の盛り上がる二人の決闘に感動していたのだ。
『うぉーッ!もっとーだーッ!!見せてくれーッ!!』
「はは・・気づけたば・・はぁ・・はぁ・・沢山の者たちがいるじゃないか・・」
「そうだな・・どうやら・・最後は近そうだ・・」
「あと・・一回・・これで最後だ・・」
「そうだな・・あと一回・・漢の勝負と言えばッ!」
「これしか・・あるまいッ!!」
『うぉぉぉぉッ!!』
その場が盛り上がると同時に、
二人の大将はどんどんまっすぐ走り出した。
自分たちの持てる武器をすべてその場において、
なんと、何も持たず二人はまっすぐ衝突しに行くように走ったのだ。
そして、もう距離も近くなった二人の漢がとった行動はッ!
ドォォォォォォンッ!!
『(この一発で・・・終わりだァァァ・・)』
二人の漢は勢いよく互いの頬を殴り飛ばすように、
グーにしてこぶしをぶつけた。
そして二人の漢はなんと両者とも・・倒れこんだのだ。
「ひ・・引き分け」
「そう・・ですね」
『ウォォォッ!人間と烏の決闘は引き分けだァァァッ!!』
『なんだアレッ!見たことねぇぞッ!』
『久々に熱くなっちまったぜッ!!』
私たちはどうしてかわからなかった。
この光景に周りのみんなが感動したのだ。
私たち三人も涙を流した。
よかった、となにがどうよかったのかなんて関係ない、
私たちは分かりあっのだ。
今この場で、たった二人の戦いだけで、
この場にいた者たちの花を咲かせることができたのだ。
こうして満開の笑みの中少し落ち着いたら、
私とフロルは夜桜さんのもとへ駆け寄り、
夜桜さんの肩をささえてあげた。
「どうですか?夜桜さん」
「ああ・・久々に・・燃えたよ・・」
「うう・・夜秋斗様ッ!私・・私は~ッ!!」
私とフロルは涙を流していた。
この燃え上がった光景に、この満開の桜のような光景に、
私たちはとても歓喜していた。
夜桜さんも満足そうに疲れ切った顔をしていた。
どうやらまた少し休ませてあげないといけないようだ。
夜桜さんの無事を確認して、
あの八咫さんも紅葉さんにぽかぽかと殴られながらも、
どこか、元の幸せが戻ったように笑顔を見せていた二人だった。
不完全燃焼で終わっていた試合は、第二回戦の仕切り直しによって、
完全燃焼に終わった。
私は、この月光の輝く地に月夜に向かって心からお礼を言った。
こんな、幸せの日をありがとうと、
私はただそれだけを告げたのだった。
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