無限空想世界の幻想的な物語~楽園~ 第14話 「ここが私たちの戦場」
私は今、真剣な表情で目の前のいる敵と視線を合わせている。
それは一筋もそらすことが許されないぶつかり合い、
鋭いまなざしがあの烏天狗の紅葉から伝わってくる。
すべての真相を語り終えた紅葉から伝わる真剣な表情、
彼女の改めて戦いに真剣に挑むという覚悟、
この風が強く強く吹き荒れる戦いの場から十分に伝わってくる。
「お前がそこまで本気になれる理由はよくわかった・・だがあいにく私は手は抜かない・・たとえ相手がいかなる理由を持っていようと・・私は誰にでも強くあり続けること、それがおじいさまの教えだッ!」
私は鋭く刀を持ち合わせ、戦いの意思を強く見せつける。
相手に刀の矛先を見せると、
紅葉はふっと笑い飛ばし、両方の小刀を構えこちらに向けて強く言った。
「その意気やよし、私も相手が本気じゃないと戦えないからなッ!」
「ならば・・全力で挑むまでだッ!」
「望むところッ!いざまいるッ!」
私と紅葉はもう一度刀と刀のぶつかり合いを激しく研ぎ澄ます。
カァンッ!キィンッ!ピシャァンッ!
ぶつかっては引き、ぶつかっては引き、
私は紅葉の神速のように飛び交う戦いに翻弄されることなく、
慎重かつ、冷静に受け止めて跳ね返す。
たとえ後ろからの奇襲が来ようと一度たりとも焦ることなく、
慎重に返す、慌てても何もいいことはない、
慎重に返すんだ、冷静になるんだ。
相手がどんなに早くても、パターンさえつかめば、
私にだってとらえることができる。
たとえそれが世界一速い鳥だとしてもッ!
「半月流剣技・・」
私は飛び回る一人の烏の音を遮断して目を閉じる。
暗闇の中、何一つ見えない戦地を普通の者なら慌てるだろう。
だが、私は違う・・暗闇で何も見ないからこそ見えるものがある。
私は常に影とともに生きた、陰のある場所こそ私の戦地、
太陽の中でも月光の中でも常に強くあり続けた。
静かに私は刀を上段に構え、
遮断された音の中でわずかなものだけを聞き取る。
「(その背後・・もらったッ!!)」
「・・ッ!!(そこだッ!)」
カァァァンッ!
私はその一瞬を逃さなかった。
私は背後から攻めかかる一撃を振り向き抑える。
わずかに遅れれば背後に大きな傷を負っていたことだろう。
「な・・」
「残念だが・・見えていたぞ・・貴様のような神速鳥は確かに早い・・だが私のような歴戦の戦いを超えた剣士ならばお前程度見切ってくれるッ!」
「グッ・・私の動きをとらえるとは・・」
ギリィ・・ギリギリ・・
刀と刀が重ねぶつかり合うこの競り合い、
本来ならばこの状況は互角の意味をあらわすのだが、
この状況こそ、私が狙った有利に立つ一瞬ッ!
「セイヤァァッ!!」
「な・・ッ!?」
ガァァンッ!
この競り合いの中私は刀に力を入れて押し返す。
思わず紅葉は体制を崩して体に大きな隙が生じた。
ここだ、ここにアレを叩き込むッ!
「必殺ッ!【カワセミの一線】ッ!」
スバシャアッ!
私は霞の構えに刀のように一本の刀の刃を上に向け、
鋭く一方の刀のように突き当てる。
この【カワセミの一線】に殺傷能力はない、だがここから半月流の真骨頂ッ!
月は日にちをまたいで輝きを増すのと同じ、
私の剣劇も技をつなげて強さを増すッ!
「続けて二打目ッ!【雷鳥の薙ぎ払い】ッ!」
スパァァッ!
ぐるりともう方のほうの刀で相手の上半身と下半身を、
割るようにめがけて放つ大技、
まるでかまいたちに切られたかのような、
鋭い払いの切り裂きで相手を切るこの一撃は、
まさしく、相手に強烈な一打を与えるにふさわしいだろう。
「グッ・・やるな・・・」
「まだだッ!三打目ッ!【孔雀の大翼】ッ!」
ピシャァンッ!
体制を瞬時に戻して空中に飛び上がり一回転して前進、
そしてその中でまた体制をもどしつつ、
刀をクロスして大きく相手に切りかかるッ!
足をズダンッ!と地面に踏みこむ事が重要だ。
「ぐあ・・ッ!!」
「四打目・・ッ!【乱れ雀】ッ!!」
私はそのまま踏み込んだ片方の足でぐるりと体を立ちあがせながら回る。
そのまま両方の刀で相手に連続で切りかかるッ!
「このまま・・やられると思うなよッ!【疾風連刀】ッ!!」
あの一撃を受けて体に傷を負っているのにも関わらず、
紅葉は体制を立て直して私と同じくあの短刀で連続で切りかかるッ!
カァン!キィン!クァン!シァン!ドンッ!カァンッ!!!
互いの刀が真正面でぶつかり合うすさまじい攻防だ。
一瞬でも油断したらそれまでのような攻防、
目を逸らしたら負ける戦い、これは一瞬でも油断はできないッ!
「ウォォォッ!!遅いッ!弱いッ!私には見えるッ!」
「ぬかせッ!ぬかせッ!ぬかせッ!ぬかせッ!ぬかせッ!!私にだってぇぇえッ!!!」
『お前の動きは捉えられるッ!!』
グァァンッ!
互いの連撃が最後の一撃で大きく相殺する。
この連撃で私も少し怪我を負った。
だが私以上にけがを負ったのは奴だ、
もう息も荒く、腕も胸も体中がボロボロになっている。
あいつのとりえの足さえも傷が深いのだから、
まともに動くことはままならいだろうッ!
ここで決着をつけてやるッ!
「五打目ッ!満月流奥義ッ!!【月光鳥】ッ!!!」
ズザァァンッ!!ズザンッ!・・・ザァァンッ!!
鋭く切りかかる三段攻撃ッ!!
2本の刀を3回とも違ういちから切り上げ切り付け、
最後の3打目は月光に舞う様に上から日本の刀のクロスした衝撃波を放つ、
これを相手にぶつけても地面にぶつけてもすさまじい威力で、
相手を一網打尽にできる奥義、
しかもあいつはそれをすべてもろに食らったッ!!
これで終わりだッ!
「ウァァァッ!!!」
ズザァァ・・
悲鳴をあげて地面に転がりたたきつけられる紅葉、
悲しくむなしく勝敗を決するようにどんどん私と彼女の距離は離れる。
そして気づけば彼女はあの男の前に転がり倒れていた。
「・・終わったな」
終わり・・あの男がそうつぶやいた。
私は確かに勝ったが・・何か物足りない、
本当にこれが勝利でいいのかと私は心の中で感じた。
何か不完全燃焼だ、何かが足りてない、
まるで本気の勝負をされていなかったような・・、
そんな気持ちでいっぱいで、心が苦しくなる一方だ。
「終わりだ紅葉、これでお前の戦いも俺の戦いも終わりだ、もう戦地のことはあきらめろ」
「・・ません・・・あきら・・めませんッ!」
「ッ!?まだ言ってんのかッ!!そんな体で無理やり立とうとしても無駄だッ!!体中傷だらけなんだぞッ!!」
紅葉が体中傷だらけなのに無理やり腕に力を入れて立ち上がろうとしている。
腕からも血はドロドロ流れてつらそうなのに、
顔も体も悲鳴をあげているのに、
なぜだ、何故そんなにつらい顔をしてまで・・苦しい思いをして・・、
「・・はぁ・・はぁ・・今ここで・・今ここで戦いをやめたら・・ヤタさんは・・帰ってこないッ!!雪村も・・待っているんだ・・あなたが戦場に帰って来るのを・・」
「・・・もう無理だ、その体では」
「戦えますッ!!」
「ッ!?」
「あなたは昔・・私に剣術を教えるときにこう言いましたッ!傷だらけになった私に何度も倒される私に・・体が動く限り・・足や手があるかぎり・・力ある限りッ!全力で戦えとッ!!」
「・・・紅葉・・お前・・」
「ここでやめちゃダメなんです・・ここでやめたら・・ヤタさんは帰ってこない・・」
震える手と足に力を入れて立ち上がる紅葉、
フルフルと体を震わせて私にふら・・ふら・・と一歩ずつ歩き出す。
だが、紅葉の思いはむなしく果てる。
私に向かっていき、その途中の石ころにつまずいて転ぶ、
「グハァァッ!!」
こんな状態では無理もない、もはや右目も開くのが難しいのに、
そんなふらついた状態で戦えるはずがない、
石ころにすらつまずくお前が・・戦えるはずがない、
何故そこまで無茶ができるんだ。
どうして、一人の男のためにそこまで、
「・・・立ち上がらなきゃ・・みんなが待ってる・・あの戦場で・・あの場所で・・みんなが待ってる・・勝って・・勝ってヤタさんと戻るんだ・・あの場所にッ!」
紅葉は土を握り涙流して立ち上がろうとする。
だが、その体はもう、立ち上がらなかった。
もう、どんなに力をいれようとしても、
心より精神よりも体が先に悲鳴をあげてしまった。
もう、紅葉は立ち上がることすらできないのだ。
「立ち上がらなきゃ・・ダメなのに・・!動いてよ・・動いてよ・・もうこの先ずっと動かなくていいから・・・もうこの先・・ずっと死んでいてもかまわないから・・動いてよッ!!」
「・・紅葉」
「紅葉さん・・」
私もあの男もこの倒れ嘆く少女に心が打たれた。
そのこの一瞬で回りにいる人の心すら動いた。
それほどまでに彼女の強い強い思いがあったのだ。
私は悲しく嘆く少女の目を見て、
男はその姿を見て、思い出していた。
あの少女のことを、紅葉さんといたあの頃を・・。
なんとなくだが、私にはそう見えた。
私には、きっと昔の記憶がフラッシュバックするほど強い嘆きだと、
そう感じたのだ。
◆
『ヤタさん!ヤタさん!』
『またお前か・・』
『今日も練習付き合ってくださいッ!』
あの頃お前はいつも俺に対して尊敬のまなざしで練習相手になれと言ってくれた。
そのころから俺はずっと大剣の使い手で、刀のお前とはまた違う動きのはずなのに、
ずっとお前は・・俺に戦いを挑んだよな、
『ぜい・・・ぜい・・』
『どうした?やめるか?』
『やめませんッ!』
『そうだ・・その意気で来いッ!女だからてっ手加減してもらえると思うなよッ!』
『ハイッ!』
年頃の女でもお前を厳しく育てた。
誰よりも真剣に戦うお前を、男のように育てた。
素早く特攻するお前を大事に大事に育てた。
『ヤタさん!私特攻隊長に選ばれました!烏の一族始まって以来の快挙ですよ!』
『よくやった紅葉!お前は最高の烏だ!』
『もー!くすぐったいですよ~!』
飛んで喜ぶお前の頭を強く強くわしゃわしゃと撫でてやった。
えらいぞ、よくやったぞとほめてやった。
お前はその時もすごくうれしそうな顔をしていたな、
『ヤタさん!この子の面倒を見ますから・・どうか家で保護してください!』
『・・・ッ』
『白狼か・・最近種族が減ってるしな・・いいだろう、その代わりお前がちゃんと稽古をつけてやるんだぞ、面倒は俺も見てやる』
『本当ですかッ!やったー!よかったねユッキーッ!』
『は・・はい!ありがとうございます!』
『ユッキー?』
『小梅 雪村ちゃんだからユッキーなんですッ!かわいいでしょう!見てくださいこの最高の白髪の整ったセミショートヘアーッ!このモフモフの一本の尻尾ッ!!』
『あわわッ!くすぐったいですよー!!』
『ははッ!そうかそうか!お前は雪村だからユキか・・よろしくな!』
『は、はい!こちらこそ・・きゃあッ!』
『うりうり~いい毛ですな~!』
『こらこら、ユキが困ってるぞ紅葉・・』
成長したお前のもとに新しい部下が配属された気分だった。
でもそれは同時に、俺たちの家に新しい家族が増えた気分でもあった。
一羽で生きてきた俺たちが、いつのまにか団体で生きるように、
いつのまにかみんなみんな互いが支えあって生きた。
みんな明るく楽しく生きてきた。
みんなとても楽しそうに、みんなとてもうれしそうに、
俺も幸せだった。
『ヤタ~お前のところのウスノロ白狼全然よえーよなーいつもいつも俺ら人獣の足手まとい・・烏はいいかもしれねぇけどよぉ・・俺たちがこまんのよねー?』
『兄貴~こんなバカに何言っても無駄ですよ~こいつ、ヤタガラスの血を引いてるんで・・』
『ああそっかそっかーじゃあなおのことお前は俺たちに文句はいえねぇもんなー・・なにせよその烏だからッ!キャハハハッ!!』
『や、ヤタさん・・』
『・・』
俺がユキの失敗を人獣どもからかばうといつもこうだ。
ユキは悪くないのに、いつもあいつらは・・
許せなかった、俺が同じ山の者だったらこいつらなんて言い返せたのに、
悔しかった、何もできない自分が、
何もしてやれない自分が、
だが、そんな状況でも一人強く生きていた者がいた。
『弱い犬が何言ってやがる駄犬ども』
『な、なんだと・・ッ!?』
『あ、兄貴ッ!三番隊特攻隊長の・・紅葉さんでさあ!?』
『紅葉・・』
『弱い犬ほどよく吠える・・お前たちこそ後ろで援護射撃すらまともにできない分際で親のコネで男らしさも微塵に感じない方法で我々の組に入れたくせにそうやって自分より意思の弱い者をイジメるのはやめてもらおうか』
『な・・』
『戦えよ、そんなクソッタレ根性見せてる暇があったら戦えよッ!肉をはぎ取られるまでその心臓燃え尽きるまで戦えよッ!お前も一人の戦士ならば・・その強い意志を向ける相手を間違えるなよッ!』
『・・・紅葉!』
お前はいつも、俺のそばにいて、
ずっと俺のそばで支えてきてくれた。
お前はずっと俺の心の支えだった。
『ヤタさん、たとえあなたのことをみんなが見捨てても、私はずっとそばにいますよ、私はあなたの鞘ですから・・』
『・・すまない』
『いいんですよ、だから今はせめてその傷を癒してください・・そしていつか帰りましょう・・かえって聞かせてください、あの言葉を・・』
◆
「・・グスッ・・もう・・だめなんですね・・私の体は・・いうことを聞かない・・もう、体が・・うごかない・・ごめんねみんな・・ごめんね・・ユッキー・・」
紅葉さんが悲しんで倒れている中、
私は深く深く暗い目で見つめることしかできなかった。
何もしてあげられなかった。
だが、こんな絶望の空気の中、
一人の男はまっすぐ紅葉さんのもとへと歩いた。
「紅葉」
「・・・ッ!?ヤタさんッ!?」
「もういい、もういいんだ紅葉」
「よくありません・・!ここでやめたら・・」
一人の男はまた刀を持って立ち上がろうとした紅葉の手を握って止めた。
その手はともて暖かっただろう。
その手はとても優しくも強い手だったろう。
「ヤタ・・さん」
「悪かったな・・もういいんだ、もう休め、お前は頑張った・・」
「で・・でも・・」
顔が泣き崩れてもう悲しくて悲してくしょうがないという、
そんな表情をする紅葉、
だがその男は紅葉の考えていることはまた別の行動をとったのだ。
男は紅葉の頭をやさしくポンと手のひらをのせて、
まるでなにかを伝えたかのように立ち上がる。
その男は紅葉の前に背中を見せて歩くように、
その男は一つの強い決意を示した。
「ここからは・・俺の番だ・・次は俺がお前に意思を見せる番だ」
「・・・っ!ヤタ・・さんッ!!」
「いよいよ・・ですかッ!」
一人の男は数歩歩いて目をつぶり何かを語りかけるように悟りを開く、
あの静かな表情で心で何をおもっているのか、
「(もう一度俺と戦ってくれるか・・黒鉄・・烈統ッ!!)」
男は目を鋭く見開いてこちらに強いまなざしを向ける。
その瞬間、強い強い風が舞い起こる。
私は思わずその風に強く打たれ、目の前を腕で防いだ。
男はその風の中一つの言葉をこの森林に語り掛けるように言った。
「お前たちの戦場はどこだ?・・この世か?違う、ならばあの世か?否ッ!!」
「(私は信じてました・・ヤタさんなら・・帰って来るってッ!!)」
「ここが・・ここそがッ!」
男は・・いや、もう認めざる負えないな、
一人の八咫烏は腰の拳銃を天空にめがけて巨大な弾丸を今、撃ち放ったッ!!
バァァァァンッ!!
「俺たちの・・戦場だッ!!!」
眉間にしわを寄せて強く強く声をはって言った勇ましい一言、
これが、八咫烏の復活だッ!!
私は今、心が躍るほど胸が熱くなったッ!!
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