無限空想世界の幻想的な物語~夜桜~ 第16話 「恋も愛も語れる者」
前回までの私達は、
ついに夜桜さんに出会う私、しかしそこで説得も検討むなしく殺される・・、
かと思われたがなんとジャックもといハルが助けに来てくれたッ!
私は彼との奇跡の再開を果たしたのだった。
そして現在も日輪亭、ここから夜桜さんを里まで運んで手当をさせるのだった。
「さあ夜桜さん、下へ降りてあなたも手当してもらいましょう、そして一様里の人たちに謝罪を」
「無論そのつもりだ、せめてもの罪滅ぼし・・里の者達に分かってもらえるか分からないが謝罪しよう」
「きっと分かってもらえますよッ!」
『いやはや実にお見事ッ!』
その時だった、突如謎の声がした。
なんだか聞き覚えのある男の人の声が後ろからした。
一体誰なのか・・その正体は・・遠くに移る見覚えのある影、
「まさかまさか・・夜桜を追い込むだけでなく、無力化してここに妖刀を放り投げてくれるとはッ!」
「あなたは天野川さんッ!?どうしてここに・・」
下に降りたはずの天野川さんッ!?
どうしてここにいて、どうして妖刀を持っているの!?
「あ、天之川だとッ!?」
「夜桜さん知っているんですかッ!?」
「ああ・・昔に春風神社の巫女に仕えていた一人の侍だ、俺もアイツとは親友だった・・大昔に異界へ送られてしまったのだがな・・」
「そ、それじゃあ・・その天野川さんッ?」
「・・?いや、ありえん・・あの異界はロキやパルの様な混沌の女神でもない限り開く事は不可能ッ!お前は誰だッ!!」
「・・そうだろう、もとより貴様に会うつもりはなかった・・この姿、この顔・・いや元の体をもってしても会うつもりは無かった・・なぜならッ!!」
ピシャァァァンッ!!
天野川さんの体が光を放ったッ!!
こ、これはまぶしい・・一体何が起っているのかわからないッ!
思わず両腕で顔を防ぐ私、その光は一瞬で終わった。
そして両腕を恐る恐るおろすとそこにいたのは・・もう一人の夜桜さんッ!?
「クックックックッ・・久しいな・・秋斗ッ!」
「貴方は・・冬木ッ!?兄上でございますかッ!?」
「あ、アレが夜桜さんのお兄様ッ!?顔付きも服装も夜桜さんそっくりに・・」
「まあ、兄弟だからて言うのもあるだろうよ、それより突然現れたその兄さんに何同様してんだお前ら」
そうか・・ハルはここに来たばっかでこの夜桜さんの事情の事を知らないんだった。
そりゃそういう風に冷静に沈黙決め込むのも無理はない。
「ハルッ!あの人は夜桜さん(秋)のお兄さんの夜桜(冬)で、大昔女垂らしだった死んだはずの夜桜さんよッ!」
「えっと・・パルスのファルシのルシがパージでコクーン?」
「いや、厳密には兄様は死んでいない・・あの日から兄様は姿を消していたんだ、だからどっかでくたばったかと思ったが生きていたのかッ!」
「そうッ!私は生きているッ!一度は死んださ・・あの前夜際の夜、春風の巫女殿に婚約をふっかけたのだがその時に侍君にやられてしまってね・・、まあ、決闘を申し込んだのは私だったんだがなッ!しかしどうだろう・・死んだときにどこからともなく声がしたッ!力がほしいかと・・その声に私は反応し・・見事蘇ったッ!私はその力で侍もッ!巫女も異界へ葬ってくれたわッ!」
今明かされた衝撃の真実ッ!
なんという事だ、ここまで異常なほどの真実が今まであっただろうか、
「なるほど・・つまり貴方が・・兄様が必死に説明してくれた異界へ突如葬られたと言うのは嘘だったと・・おかしいと思いましたよ・・なんの前触れも無く天之川がやられるはずがないッ!」
「カッカッカッ!そうだその通りッ!そして秋斗よ、確か事件は二つあったな・・あの日、同時刻でそちらは何があった?」
「我らの日輪亭に謀反が起った・・まさかッ!?」
「そう、それも私の仕業だ、貴様と天魔酒が陰でこそこそと逃げ出すのは知っていたッ!何せ私もあの作戦会議の場にいたのだからッ!婚約相手を寝取られた事がどれだけ悔しかった事か・・貴様にわかるかッ!」
「なんと身勝手な・・第一に兄上はまともに会話すらしていなかったではないかッ!貴方はとにかく体目当てで女を垂らしこむ本場のクズではないかッ!そのことに母様や父上がどれだけ手を焼いていた事かッ!天魔酒様は貴方のふしだらで汚れた心を嫌って結婚を反対になされたのですッ!」
こ、これは夜桜さんがあんな風に、
誰彼かまわなく犠牲を出そうと考えだすのは無理が無いッ!
そりゃこんなクソ兄持ったら誰だって心病むよ、
なんとなくだけど夜桜さんの苦悩が今ようやく分かった気がする。
「ハッ・・ぬかしおる、貴様こそ霖雨との駆け落ちなどと言う酷く浅はかな案をよくも結婚相手に言えたモノだな、本当にめでたいたらありゃしないなッ!」
「それは兄上を信頼して兄上がも承諾してくれたからやったんですッ!天魔酒様も貴方事を最後は信頼してくれていたのにあんたときたらそうやって傲慢で強欲で自分勝手で強情な被害者面をいつもいつもッ!なぜ自ら罪を認めないのですッ!なぜその人として恥ずかしい性格を直そうと思わないのですッ!」
「恥ずかしいだとッ!?私のこの生き方が恥ずかしいと申すかッ!であれば秋斗よッ!そちらの様に今でも死人を愛して憎む者を殺して生贄とし死者の蘇生をすると言う極めて狂人な行動はどうなるッ?お前のその生き方も十分恥ずかしいと思うなァ!ああ、思うともッ!」
「己ッ!どこまで・・ッ!!」
「貴様も私も所詮はその汚れた血の一家ッ!私が兄であるなら当然一つ下の貴様にも同じ血はあるッ!ならば貴様がそうやって生きるのも無理はあるまい?そう恥じるなッ!同じ者同士仲良くしようじゃないかッ!」
「ウォォォォォッ!!貴様と私を一緒にするナァァァァッ!!」
「お、落ち着いてくださいッ!相手の挑発に乗っても良い様にされるだけですッ!!」
秋斗さんが髪の毛を片手でわしゃわしゃと激しく乱す。
あんな人に秋斗さんが理解できるわけがない、
いや秋斗さんの事だけじゃない、天魔酒さんの事だって理解できるはずが無かった。
こんな傲慢な人が、理解できるはずがないッ!
「・・可哀想だな、あんた」
「なぁにぃ・・そこの男、今なんと言った?」
ハルがため息をついて辛辣な目で夜桜のお兄様に口をはさんだ。
とても冷たく、とても鋭い一言、
まるで心臓を貫いたみたいに夜桜のお兄さんに勢いが消える。
「そりゃあ夜桜の野郎がここまで頓珍漢に育つわけだぜ、駄目兄貴もってその駄目兄貴に楽しい楽しい思い出を積み上げてきた塔をあんたに爆破テロでも起こされたらたまったもんじゃねぇーよな、誰だって作りかけのドミノぶっ壊されたら二時間の苦労を水の泡にされたと性格が一変するだろうよ」
「そんな物また作り直せば良いではないかッ」
「作り直せねぇから怒ってんだろッ!」
「・・ッ!!」
ハルが眉に皺を寄せて鬼の面の様に怒りをあらわにする。
重く怒鳴る声、冷静な表情さえも砕け散った本気の怒り顔、
ハルが、こんなに怒った事は初めてかもしれない、
「ハル・・」
「思い出つうのは作り直せない、一度無くなった思い出が・・また作り直せると思うかッ!?時間は一回しか訪れない、命が一つしかない様に、人生の思い出の時間は一回しか訪れないんだよ、だから積み上げていくのが大変なんだろ、何度も何度もぶち壊されて「はい、また行ってきて」なんてやられて楽しい奴がいるか?」
「別れは訪れる物だ、なら別にいつ壊された所で関係あるまい、むしろ新たな出会いを・・」
「お前は・・一度使ったおもちゃと次にであったおもちゃの区別もつかないくらいにどうしようも無く節穴らしいな」
「節穴ッ?」
「そう、節穴だ、心も眼も何もかもすっからかんなんだよ、一か月とも持たない恋愛をしている奴にはわからんだろう、体だけの関係を貫いているのならそれは恋愛なんかじゃねぇただの「セフレ」だ」
「違うッ!それは私なりの愛の表現だッ!」
「あんたのは愛ではなく偽愛と言うッ!一度でも相手の声を聴いたか?一度でも相手の気持ちを考えたかッ?きっと考えなかっただろう、その面に書いてあるッ!いくつもの女を泣かせ、辛い思いをさせて怖い思いをさせてお前と言う男はドンドン生き恥をさらす事に抵抗が消えて行ったッ!」
ハルの声が強くなっていく、
ハルが前をスタスタと真っ直ぐ歩いて冬木さんに近づく、
両腕を力いっぱい握りしめて、怒鳴っている。
「ヤれたら恋愛か?お前の恋愛と言うのは随分と子供じみた発想だな、良いか童貞を22年間貫いたクソ野郎の恋愛を教えてやるッ!恋愛てのは好きな奴と一緒にいて楽しいとか、話してるだけでも楽しいとか、一緒に何処かへ行ったり、たまに喧嘩しても仲直りできて、悲しませ茨道を土足で踏み歩いて互いに辛い思いもするときもあるだろうッ!それでも最後まで歩いていられたならそれを恋愛だッ!全ての出来事を積み重ねて束ねてできた思い出の塔のこそ真の恋愛だッ!万年攻略サイト見て恋愛ゲームしてるやつが『俺の嫁だ触るな』だとぬかしてんじゃねぇぞ、早漏野郎ッ!ああ゛ッ?このロードマラソン野郎がッ!」
「き、貴様・・愛の表現は人それぞれだ・・貴様のその考えだって恋愛じゃないと・・」
「思うならどうぞ言ってろ、所詮これは童貞である俺の発言だ、なにせヤりたくて恋愛なんぞしてねぇ、純粋にあの日、あの10年前出会った時の救いがたい馬鹿見て一目ぼれしてからずっと一緒にいてやったわッ!けれど兄弟が馬鹿やらかしてアイツの下を離れなきゃならなくなった、少ない時間だったが色々あってあっという間だったがとても楽しかった、でももしも何かあったらすぐ駆けつけられるようにお守りを渡した、願われた事なんて10年間無かったけどな、アイツは・・俺に心配かけたくなくて強くなってた」
そうだよ、ハル。
ずっと貴方にあこがれて、ずっと貴方に近づきたくて、
貴方の様なとてもかっこいい人になりたくて、
ずっと、貴方の事を思いながら、強くなってたよ。
ここから表情は分からないけど、
私にはわかる、あの背中から感じ取れる。
ハルの怒りのオーラが静まり、冷静で静かに暖かなオーラが、
ハルは静かに声を上げた。
「10年間、会えなくて・・心がとても締め付けられた、とても寂しかった、たった1年間の恋しかできなくて、やるせなかったさ、それが10年越しでようやく再開できたんだ、俺は嬉しかった、けれど・・コイツは人の顔すら覚えてくれなかったよ・・言えなかったし、言いづらかったて言うのもあっただろうけどな、俺が手を抜いたのもあったし、しかたがないさ・・俺に勝ってすげぇ嬉しそうにして、本当は手を抜いてやってんのに、花持たせてやるかって思ったら意外と強くなってびっくりして、でも数年で結局正体晒す事になって、もうわけわかんねぇな」
「どうしてそこまでできる・・どうしてお前は・・そんな長く険しい道を歩いた?」
「決まっている、たとえ会えなかろうと好きだからだ、世界探してもこいつは一人しかいねぇよ、こいつ見たいなやつが好きなんじゃねぇ、こいつが好きなんだ、抱いてるぬいぐるみが全部ジェニファーだと思うなよ?」
「ハル・・ッ!」
「以上だ、何かありますか夜の哀れな王よ」
「認めんッ!認めん・・貴様の恋愛論など認めんぞッ!!・・どうでも良い話などそれで終わりだッ!この妖刀さえあれば俺はッ!」
あの男まさか妖刀を使うつもり!?
遠くからでもわかる、刀を振り下ろしているのが見えるッ!
全く声が届いていないッ!?




