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無限空想世界の幻想的な物語  作者: 幻想卿ユバール
第二章 狼猫編
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無限空想世界の幻想的な物語~狼猫~ 第5話  「過去」


アレは・・数年前、

そうだな、鈴蘭が悲劇に会う・・直前?

違う、もっと前だ。


兄さんが施設に行った直後の話だ。

母はヴァンパイアの中でも一流のキメラクリエイター、

もとい、錬金術士と言う奴だ。


いままでヴァンパイアでありながら錬金術をやってのけた者はいなかった。

それ故に、母は偉大なヴァンパイアの中の一人・・だった。

兄がいなくなるまではの話だ。


突然、兄がいなくなると母はマッドサイエンティストに凶変する。

これはその一部、だがある時は人と未特定のキメラ、

ある時は実験途中のモンスターとの強制融合、

もちろん使える物は全て実験へ注いだ母だった。


俺はそんな日々凶変する母に絶望し、家にはほぼいなかった。

母が狂ったあの日から寒い冬の日が続いていた。

本来なら出ない方が良いのだろう、だが出たかった理由は他にもあった。


親父は兄を出来損ないと言って追い出した後から、

人が変わったように誰彼かまわず八つ当たりを始める。

家の使用人は「アイツもあの狂った親の息子だ」、

「どうせ狂うに違いない」と睨んで来る。


唯一、鈴蘭は俺の担当使用人だった為にそんな事は一切なかった。

だから部屋の事も全てを鈴蘭に任せた。


いつも屋敷から聞こえる無数の叫び声、

ついにはなにか怪しい職員まで雇い始める始末、

こんな日々がいつまでも続いた。


絶望の曇り空、そんな言葉がお似合いの様に振りつもる雪、

俺は、ずっと空を眺めながら、この日々に絶望していた。

たまに兄さんの預けられた施設へ行って気を紛らわしていた。


あそこは何か別の空気を感じた。

暖かく心地の良い場所で、俺も兄さんもあそこが好きだった。


それでもやはり帰ると悲惨な光景を見てしまう。

どうしてこんな場所にいつまでもいるのか、

自分ももう施設に逃げて良いんじゃないか、

そう思った、そうは思ったがなぜか体が動かなかった。


その頃の俺はすでにすべてがどうでも良くなっていたから。

そんな全てがどうでも良くなっていた俺にあの日は訪れた。

あの悪魔は訪れる、あの子が来たんだ。


それは闇の始まり、それはさらなる絶望の始まり、

そう、あの日は確か寒い冬の日、いつも通り外へ散歩をして、

母のクリエイトが終わった頃を計って帰って来た時だ。


門の前に見える小さな金髪の女の子、

雪がポロポロ降る中、とても神々しく光り輝くごく普通の少女の姿がそこにはあった。

そしてもう一つ、白い怪しい車が一台止まっていて一目でわかってしまった。


俺は遠い向こうで「ああ、きっと彼女も実験台にされるんだろう」と虚ろな目をしながら、

振りつもる雪の道路の真ん中でみすぼらしいくも美しい彼女の姿を見た。

だが、俺は一瞬ですべてが翻った。


その少女が怪しい研究員の様な者達に連れて行かれる中、

少女がふり返った。

その少女は泣きながらこう叫んだ。


『助けてッ!お兄ちゃんッ!』


何故だか分らなかった。

何故かわからないけど、その時自然に体が動いた。


足はドンドンその研究員の下へと駆け寄り、

次の瞬間にはもう、研究員の姿は無かった。


俺は気が動転していたのかもしれない、

ただの少女になぜここまでしたのか、

その日は破門同然の扱いを受けた俺はどうして、

その時、何も考えずに飛び出してその少女を助けたのか、

今でもどうしてかわからない、ただ何か心の中でざわめいたのだ。


そして絶望が迫りゆく中、母は世界最悪の実験を始めた。

その実験にはさらなる味が必要だと、それは誰かの絶望する顔らしい、

その対象に選ばれたのが俺だ。


俺はその日から拷問と言う名のギャラリーと言う、

名目でその少女が改造されていくのを見た。


一日目は「伝説の鳥との結合」その日少女は苦しそうに暴れていた。


「痛い・・背中が熱い・・焼ける・・このまま溶けてなくなりそうなぐらい熱い・・」


少女は泣きながら拘束された部屋の中、

体をうずくめていた。

寝る直前、なぜかこちらを心配そうに見つめていた。


俺は冷たくあしらうように「自分の心配をしたらどうだ」と言って部屋を去った。


二日目「吸血鬼の血の投入と吸血鬼・Sへの薬を使った実験」


注射を何本も打たれ、肉体のあちらこちらに手術を施された。

暴れる様なら暴力をふるった。


抵抗するなら近くにあった凶器で彼女を刺した。


少女は何度も「痛い、痛い、痛いいたいイタイッ!」


と・・何度も繰り返し体を暴れ倒した。

実験終了後彼女は

「もう嫌だ・・お家に帰りたい、お父さんに会いたい、お母さんに会いたい」


叶うはずのない願いにずっと泣いていた。

部屋を出る直前「今日は・・ありがとう」と言った。


なんの事だか、さっぱりだ。

見届けてもらってありがとうと言う事か?


わけのわからないまま三日目「キメラキャットの結合」


昔作った自分の自信作一号すら実験に使われた。

この実験の際、キメラは悲鳴を上げもがいた。

だが、悲鳴は届かなかった、麻酔を打たれて仮死の状態の様になってしまった。


次に悲鳴を上げたのは少女だった、

母は少女に狂気の瞳を見せてキメラの一部一部を取り付けようと、

真っ赤な注射器を持って少女にだんだんと近づく、

アレは「DNA強制投与機」一見ただの注射に見えるがその実態は恐ろしい物だ。


中には何かのDNAが入っており、それを他の生命へと投与する事により、

その生命は体中を苦しめながらも血を混ぜあってその生命の力と体の一部を引き継ぐ、

運が良ければ耳が生えたりするだけで済むが、

運が悪いと死んだ方がマシと思うくらいの体になる。


特にこの手の手術は成功率が極めて低かった。

男性を女性に変える実験をした時もこの注射器は使われた。

連れて来た男性は全員死亡した。


どんなに頑張っても性別は変える事が出来なかった。

そのほかにもいろんな生命が死んで行った。

彼女に向けているのはそれだ。

いよいよ絶望の機械が刺さろうとした時、少女は絶望の声を上げた。


「ああ゛・・ああ゛゛ッ!?あ゛ああ゛ァァ!?ヤメテェェェッ!?止めてやめてヤメテ・・ヤメテヨォォオッ!」


ガシャン、ガシャン、今日も楔は強く悲しくむなしく鳴り響く、

生き恥をさらした。

少女はもがいた、わめいた、苦しみを必死に訴えた。


それは救難の声だったのかもしれない、

でも俺にどれだけ叫んでももう助けてやれない、

助けてあげられない、違う、助けたくない、

ああ、聞きたくない、聞きたくない、

どうせ救われないのだから諦めればいいのに、

どうしてあがく、どうしてあきらめない、

どうせ、助からないのに、

実験が終わると、とうとう人ならざる禁忌の姿へと変貌していた。


その姿を見た時、俺はどんな気持ちを抱いていたかすら忘れた。

思い出したくもない、ただこれだけは覚えてる。


「いつも・・あり・・ガトウ」


・・今日は振り返らずカツンカツンと出て行った。

きっと少女は絶望の眼をしながらも俺を見ていただろう。

きっと絶望を抱きながらも彼女は俺の事を考えていたのだろう。


誰よりも近くにいた恨むべき存在だったのだから。

こんな悲惨で地獄の様な実験は七日目に突入した。

そして、事件は・・・起こった。


それは「二人目の少女との結合」だった。


ある日俺はいつものように実験部屋へ向かう途中の事だった。

それはロビーに置いてあった奇妙な新聞記事だった。


その内容は「狂気の殺人鬼と子供一人が行方不明」と言う新聞記事だ。

ふと目に映ったが最初は何も感じなかったこの文章、

だがすぐにこの記事の事がフラッシュバックする事になるとは思わなかった。


狂気の殺人鬼と思われる子供が目の前にいたのだ。

実験室の中にだ。

殺人鬼はすでに息絶える寸前だった。

おそらくここに来る前に何かしたのだろう。


抵抗、もがき苦しみながらも最後まで生き恥をさらした。

その結果がこれだ。

どれだけ頑張ってもやはり抵抗むなしく捕まってしまうのが子供の末路だ。


特に、この母に対して逃げようだなんて思わなかった方がもっと楽に死ねたのに、

いや、どの道、地獄の様な苦しみを味わって死ぬことになっただろう。


そして死んだ目をして精神が焼付きかけた少女と息絶える寸前の少女に、

まるで脳内に拷問でも仕掛けるつもりなのかと言わんばかりの怪しい機械が現れる。


あれこそ「ソウル・フュージョン・マシーン」

遠い機械魔術師が作り上げたサイコキラーな機械だ。


1人の魂がもし死にかけた時にだれかに移せないかと、

そんなゴミ理論によって生み出されたのがこの史上最悪の機械だ。


あろうことかその機械はこの母に行き渡っていた。

かなり強引な方法で生命と生命の魂と精神が埋め込まれる機械な為に本体の負担はデカイ、

こんな事をすればおそらく本人の意識はしばらくを通り越して永遠に帰ってこない事だってありえる。


それどころか記憶を経由しない為、新たな人格として居座るかもしれない、

しかも今回は狂気の殺人鬼だ。


恐ろしい事は絶対に起きると覚悟しなくてはならなかった。

実験はそのまま開始されたのだった。

バチバチと鳴り響く電子音、苦しみの悲鳴が二重になって聞こえた。


そして、合体が完了しかけたその瞬間にアレは誕生した。


『ヴ・・ァァ・・ヴァァァァァアッ?!?!ヴァァァァァァア!??!アアアアaaaaa!!?』


「どうした?!何が・・うわぁぁぁッ!?」


「何が起きたのだッ!!?ギャァァァッ!?」


それは一瞬すぎる出来事だ。

機械が暴走し、爆発を起こして煙をまき散らす中、

聞こえる研究員の悲鳴、

そして、煙の中窓ガラス越しに椅子からのぞいていた俺は何が起きたかわからない、

最後に見えたのは、絶望の目で気絶させられていた悲惨な人ならざる者の姿だった。


少女の姿はもうどこにもない、

あったのはそれと凶悪な悪魔、さしずめ「マッドマザー」とでも言おう。


この地獄絵図を見たのを最後に、翌日、

母は何者かによって殺された、研究員も関係者もだ。

父は笑いが止まらなかったと語った、

自分を見捨てて研究に逃げた母が死んだと、ただ、それだけだ。


そうして、家系は崩壊の活路をまた進んだ。

実験室は固く固く、永遠に閉ざされた。


 ◆


時はもどって現在、俺はこの昔話を灯先生にしていたところだった。

俺はこんな話を冷酷に冷徹な吐息をする様に話しかける。


声が明るくても、どこか隠された冷たい物があるように、


「どうですか?あいまいなので無茶苦茶してますが・・」


「結構、十分すぎるわ」


「すいません、気分を悪くさせましたね」


「いえ・・辛かったでしょうねと・・思っただけよ?」


辛い?俺がか?

辛かったのは少女だったのではないのか?


「少女がですよね?そのいい方だと・・まるで俺に言っているみたいですよ」


「・・どちらも辛かったでしょう」


「先生ッ!?ちょっと何をッ?!」


先生が・・先生がバッと俺を暖かく包み込む、

声をハラハラと弱らせしまいには泣き出す先生、

先生は・・一体なぜこんな事をッ!?


「せ、先生ッ!!」


「辛かったでしょうッ!!目の前にいる・・かけがえのない少女が救えなくて・・ッ!私がもしその時・・その時いればッ!!ごめんないッ!!ごめんなさいッ!!」


「せ、ぜんぜい・・気持ちはうれひい・・でずが・・ぐ、ぐるぢい・・ッ!!!」


「あ、いけない・・ごめんなさいッ!強く抱きしめすぎたわね・・私、感情に任せて動く事があって・・そのついに・・ごめんなさい!」


「良いんですよ・・ただ、次抱くのであればその母性を具現化させたソレを当てないでください・・苦しいですッ!!」


何と言うデカさだ、鈴蘭並にあるぞッ!?

それ以上かッ?

どうでも良いッ!

今は目の前の案件に集中せねばッ!!

「と、とりあえず・・どうでしょう・・俺の過去なんか聞いても当てには・・」


「いえ、なるわ、むしろ今ので貴方が必要不可欠としか言いようがないわ」


「何を根拠に・・先生、俺を買被りすぎでは・・」


俺が否定し続ける様に言葉を並べる。

だが先生は否定させないように言葉を並べて来た。


「・・『守り抜く・・何があろうと・・』これは貴方の言葉?」


「・・ッ!?」


どうして、それをッ!?

その言葉を知っているのはあの時いた、あの子のみッ!?


「ま、待ってくれッ!あんたは・・あんたは何者だッ!?答えてくれッ!」


先生はそれだけ答えると何処かへ行こうとしている。

今、どこかへ行かれるのは駄目だ。

せめてあの先生が何者なのかだけでも知っておきたい、

俺が必死に先生を止めようとすると先生はこちらにふり返ってこう言葉を告げた。


「・・教えてほしければ・・彼女の下へ行って来なさい・・治療はした、あとは地下の奥へ・・」


明るい表情の中に何か隠している様な感じをした。

その言葉は普通の感じかもしれない、顔も普通なのかもしれない、

けれど俺には何か暗い物を感じた。


「地下の・・奥ッ?」


「そこに行って、彼女と話して、そしてもし全てが救えた時に答えてあげる」


「・・本当に、どこまで知っているんだい?あんた・・」


「・・さあ、全てと言っても過言ではないわ」


「そいつは・・恐ろしいな」


「とにかく、行きなさい、そこに答えがある、そこに全てがある、良いわね?」


これは行かなければ一生答えてくれない奴だ。

仕方がない、ここは覚悟を決めて行こう。


「分かった、その代わり救った後・・約束通り全てを語ってもらうぞ」


「ええ、貴方が望むままに・・ね」


「・・・」


怪しい言葉を交わしつつも、

俺と先生は一度廊下の冷たい解き放たれた空間を互いに違う方向へと歩き出した。

俺は、背中に漂う不気味な凍える風を感じながらも、

いざ、地下へと向かうのだった。


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