無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章43 「月侍と桜侍」
「せいやァ!」
「あまいッ!!あまいぞ巫女ォっ!」
小刀を持ち、魔王様と今も現在稽古に励む。
教えてもらった事全てを最後の戦いに注ぎ込む為に。
残りの時間覚えられる事全てを覚えなければ。
次は決勝戦、いざここまで来ると本当に後には引けないプレッシャーがある。
それもあるのか、全然小刀を持っても攻撃に気合が入らない。
この調子が本選まで続いてしまうなんて事はあまり考えたくはない。
けれども、どうしても押し寄せて来る・・プレッシャーが。
「はぁはぁ・・」
「どうした巫女ォ、決勝まで時間は無いぞッ!時期に準決勝二試合目も終わる・・それまで身に付けておけ、膝を着くのは後だッ!」
「は、はいッ!魔王様ッ!」
汗だくになりながら当然の様にびっしょりと濡れる巫女服。
この巫女服にもずいぶん世話になっている。
どんな戦闘時にもボロボロになっても修復しては使い修復しては使い。
幾度も私のずっと私の戦いを支援はしてくれた一つの衣服。
今後の戦いに備えてまた試合前には修復しなくちゃ。
「巫女ぉ?」
「あ、すいません・・なんだか・・ここまで来たんだなって・・色々感傷に浸ってて・・」
「全く・・確かにここまでの道のりは厳しいモノではあったが・・まだそんな感傷に浸る時ではないだろう・・この先は決勝それを勝ち進むまでは今は最後の稽古に力を入れるんだ」
「わ、分かっています・・でも・・不安なんです・・」
「・・まあ気持ちは分からなくはないが」
決勝の相手はまだ決まっているわけではないけど。
どちらにせよ必ず私達より強い相手なのは確定だ。
それに、今までより激しい戦いになる事も分かっている。
絶対に負けられない、ここまで来たら優勝あるのみ。
でも本当に思えばもう決勝なんだ。
ここまで本当になんで来れたのか自分でも分かっている様で分かってないし。
今でも実感が湧かないここで戦う理由。
ただの弱い巫女として終わりたくないからていうのもあった。
もっとみんなみたいに力を付けて強くありたいと思った。
でも、結局のところ私はなんでここまで戦えたんだろう。
なんで、ここまで頑張ってこれたのだろう。
不思議だった、この稽古の最中そればっかり考えてしまった。
自分はなぜ巫女なのにこんなにも激しく戦う事を必要とできたのか。
誰かに乗せられたわけでもない、何かを失いたくないからか?
明確な理由、正確な答え、一回はどこかの試合で出したのかもしれない。
けれども、私自身自覚が無い。
どうやったらもっとハッキリとした自覚が出せるだろうか。
「(巫女の動きに乱れがあるな・・このまま決勝に行くのは危険極まりないぞ・・どうやったらこの乱れを解消してやれるだろうか・・)」
「邪魔するぞ、出雲翡翠は此処にいるか?」
「えっ?その声って・・」
私が心の奥底で考え事をしている最中。
そしてこの稽古中に来たのは・・【金鵄さん】?
てっきりもういないかと思っていたけど流石は格闘家の1人。
見るところは全部見ているんですね・・。
それでもここに来る理由・・って?
「金鵄さん・・何故ここに?」
「貴様、何用だ?」
「なに・・ちょいと貴様に用事があったのでな・聞けばお前のチームは決勝進出・・実に愛でたい話だ・・しかし・・最初にいったが貴様の実力がチームで一番足を引っ張っている・・」
「まだ言うかッ!それはこの私が補うと言っているだろう!」
「事実補っていることは知っている、出雲のその付けている真っ黒な指輪はおそらく【契約の指輪】本来式との契約にしか使わない代物をお前は力の共有源として使っている」
「指輪の存在を知っていたのか貴様ッ!?」
「他の三人は気づいていない、俺が単に用心深いだけだ」
金鵄さん、指輪の存在からすでにそこまで考察していたなんて・・。
観察力もある優れた頭脳持ち、それでいてこの筋肉質に似合うほどの力の持ち主。
文句のない優秀な格闘家だ。
「で、でもなぜそこまで私達を・・」
「決まっている・・次の相手は指輪云々では勝てぬからだ」
「次の相手?」
「まだ決まったわけではないが・・相手は夜桜と巴だ・・この勝負俺は巴の勝ちと見ている・・つまりお前らの当たる相手は巴達・・奴らは最後の最後まで念には念を入れて切り札を温存するだろうからな・・それまで弱いと言う事はない・・むしろ切り札を出さずして終わる可能性の方が十二分にありえる」
「そんなに強いんですかッ!?」
「当然、現時点で無敗の保持者だ・・俺も何度かぶつかった事があるがまるで歯が立たない・・一様可能性としては今大会で予選一位抜けのあの小娘のメアとか言ってた奴が一番勝てそうな見込みがあったんだが・・何があったのかいきなり鬼神の娘を出してしまうから貴様らに敗北を喫した・・となれば優勝の候補がこれで一人なった場合会場は今のところ巴が勝つと思っている事だろう」
何という支持力・・そんなにも巴さんと言う人は強いんだ・・。
確かに予選もあの激しい攻防の中なんだかんだ二位。
最強の一角と言われるのも無理はない。
「で、でも私達に勝てないなんて言いに来たわけではないですよねッ!」
「当然だ・・むしろこんなところでもう負けるたまではあるまい・・しかし今の状態で巴とやり合うのは不可能・・特に出雲・・貴様とぶち当たった時は最後だと思った方がいい」
「ふえ?私ですか?」
「魔王・・貴様も良く知っているはずだ・・月で一度攻防戦をした時はまんまと一度敗北を喫した・・そうだろう?」
「魔王様がッ?!」
「完全の状態で・・というわけではないがその近い状態で確かに負けた・・なにせ能力が桁違いと言うほど強いからな・・」
「その能力とはッ!?」
「言ってしまえば・・【心中看破】・・奴の左目が青く光りだした時はその心の中の全てを読み取る・・思考を読み取られる上に馬鹿みたいにアイツ強いからな」
心の中を読み取る・・反則技じゃないですかやだぁッ!!
で、でも確かに能力は強い・・相手の心を読み取るだけでかなりの力の差がある。
それならば私の様な日中から考えすぎの様な者では当然やられてしまうッ!
「これを突破しない限りはこの魔王・・最悪アイツ一人に俺ら四人ともノックアウトもありえる」
「うう・・確かにそれだけ聞いてしまうと私は・・」
「そこで一つだけ可能性を見出しておきたい事がある」
「一つだけ?可能性?」
「金鵄ィ・・貴様ハッタリではあるまいな?」
「お前も出雲を信じる者ならば・・信じろ・・本当に勝算は少ないがそれが上がるかもしれないのだぞ・・」
勝算が上がるッ!?
私にもまだ敗北が決定されたわけじゃない・・まだ勝てるかもしれないッ!
その可能性があるなら・・ぜひ教えてほしいッ!
「教えてください!可能性とは・・なんですかッ!」
「まあ・・少し博打になるが・・やるか?」
「私の許す範囲なら・・どうぞ!!」
「言ってみろ、金鵄」
「ふむ・・じゃあ心して聞け・・そして・・心して覚えるがいい・・」
あの強敵の金鵄さんから学べる・・勝算の見える可能性。
しかもそれが私が秘めている・・一体なんだろうッ!
◆
「あッ!遅いですよ義正さん!もう準決勝第二試合始まってるんですからッ!あまり長い間席外されると気まずい空気が長くて困りますよッ!」
「ハハッ・・悪い悪い・・でも安心しろ・・奴は片付けた」
「本当ですかッ!!やったーッ!あ、安心してください!マイクは切ってあります!」
「おう、それはそれとして実況寺・・すまなかったな・・一人で留守番頼んじまって」
「良いんですよッ!いざとなれば私の能力使ってやろうかと考えましたが・・敗者がいないと使えないのでよく考えたら義正さんには当てられないんですよね~!」
「人生的敗者ではあるんだがね・・それはともかく・・実況しなくていいのかい?」
「あっ!!そうでした!今すっごい胸熱展開なんですよ!なんとあの巴さんが謎の剣豪に一歩リードされているんですッ!」
「謎の剣豪・・?」
「ほら!こっちに来て見てみてください!」
「どれどれ・・(ん?アレって夜桜じゃね・・スゲェ知人に似ている気がする・・いや夜桜だッ!?どうしてここにいるッ!?まさかまたあのお方の気まぐれかッ!?)」
「どうしたんですか?顔が青いですよ?」
「あ・・いや・・大丈夫だ・・それよりそろそろ実況を始めようか・・」
「はい!せっかくの熱い展開を実況しなくてどうするッ!って事ですよねッ!お任せくださーいッ!」
「(夜桜・・霖雨・・いやリンドウ様・・一体何をお考えなんだ・・ッ?)」
◆
「半月流技・・ッ!!【鎌鼬】ッ!!」
「(来るッ・・見えない鋭い横に広範囲の真空刃の攻撃・・しかもそれが三発・・今から全てを避けきる事は可能・・しかしそれは罠だ・・だからあえて・・切るッ!)夜桜流技・・【満開桜】ッ!!」
スバババババッ!
たった一切りのはずなのに一度で複数切り行く神速の技。
見切れないほどの剣技、そして・・ここからも技を繋げるッ!
「夜桜流技・・【月下乱舞】ッ!!」
ダダダダダダ・・ザンッ!!
相手に切りかかりに神速に四方八方から残像の如く消えてはまた左へ右へ。
防御されても後ろ、前、次から次へと見えざる様な速さで切りかかるッ!
そしてトドメは相手の斜め上前から大回転攻撃をしかけるッ!!
「クッ・・やるな・・夜桜のォッ!!」
「先ほどの攻撃を・・数回の傷で納めるか・・やるな・・しかし・・」
「なっ!?」
ザンッッ!!
つば競り合いになってもすぐに押し離す。
そして、距離さえ空けば・・アレが使えるッ!!
接近戦と遠距離の攻防が続くが・・これでそれも終わりにしてくれるッ!
「あまり・・調子に乗るなよ・・夜桜ノォッ!!(コイツッ!さっきから能力で心を読み取ろうとしても全然反応が無いッ!?コイツまさか無の心の持ち主?!いやそんなはずはないッ!コイツは夜桜の所の阿保兄弟の1人ッ!私の心を騙したアイツのさらにその一つ下なんぞもっと私の事を見下しているに決まっているゥッ!!)」
「(つか・・なんかよく分からんが俺すっごい巴殿に剣か売っている気がするのはなぜッ?!)」
※それは数分前夜桜さんと霖雨さんの出来事
◆
「夜桜、次の試合は貴方が出てね?」
「俺が出るのですかッ!?」
「マジかよッ!タイマンだったらこの私だろッ!」
「自分ではダメなんですか!?確かに秋斗よりは力は劣りますが・・」
「二人とも強いのは知っているわ、もちろんそれが夜桜と並ぶくらい強いのも知っている・・けとれどもね・・世の中にはどんな強い力を持っていても敵わない時があるの」
「だったら夜桜じゃくてもよくね?私だってまだ戦い足りないねぇんだけど」
「フフッ・・まあでもそう言わないであげて?他にも出す理由があるから」
『???』
◆
「(ほ、他にもって・・一体どんな理由があると言うんだ・・ッ!!)」
「(糞がぁ・・こうなれば連続的に鎌鼬を・・)」
「なあ、巴殿ッ!なぜ私をそこまで攻撃するか聞かせてくれないかッ?」
「何故・・だと!?貴様知らないと言い切るつもりかッ!?」
何だ?!
巴殿すごい怒っているじゃないか・・。
俺はそんなにも巴殿を傷つける真似でもしていたのか?
いやでも巴殿と会ったのは今日が初めてだ・・一体他に何が・・。
「私は忘れていないぞ・・夜桜・・冬木のあの時の行為をォォオッ!!」
「(糞兄貴ィッ!!またお前かよッ!なんで月の民にまで手を出せるんだよ!怖いものしらずかよッ!本当の意味で糞兄貴ではないかッ!)」
「私の・・心をもてあそんで挙句の果てには・・」
「挙句の果てには?」
「私の初めてを奪っておいてぇぇぇぇッ!!」
「(く、クズ兄者ァァァッ!貴様などもう兄とは呼ばんッ!絶対にダァァ!!)」
この事かッ!
俺を試合に出したいってこの巴殿戦わせたい理由ソレだけッ!?
わりと遊び半分で出された!?
しかも霖雨様めっちゃ笑顔ッ!
お遊びにもほどがあるよッ!
「いいのか?夜桜の野郎気づいたと思うぞ」
「霖雨様・・流石にアレでは秋斗が・・」
「心配いらないわ・・それを含めての・・試合だから・・」
『えっ?』
おのれ・・おのれおのれおのれッ!
霖雨様後でちょっとお話に付き合ってもらいますからねぇッ!
いくら上司といえど・・こんな試合に出させた事。
そして私と彼女をさらなる敵対の道へ引きずりこんだ事・・。
「(殺気ッ!?だが貴様の殺気など怖くもなんとも・・ッ?!なんだ・・あの構えッ?!)」
刀を前に横に両手でつかみ、それを思いっきり掴み瞑想開始。
風を呼べ、両足に力を入れろ、何も考えるな、わが心は常に水とある。
火の海を裂いて通り、雷に打たれ血のにじむ思いで強くなれ。
俺は・・夜桜秋斗ッ!
夜桜流技正統後継者だッ!!
この状態から回転をかけ体を真正面にもう一度持ってきて・・一気に地面へと刀を刺すッ!!
ズダダダダッ!!
そこから相手へと一気に突き進む光と闇の混合の一撃ッ!
地面を引き裂いて進み、その速さは光をも超えるッ!!
「鋭い一撃・・しかしそれでは私は倒せんッ!!」
あの技をいともたやすく空へ舞い避けるかッ!
流石は月の剣士だ・・見事ッ!
だが・・まんまとかかってくれたな・・。
「フッ・・何もその技では貴様を倒すなんて言ってはいない・・ッ!!」
「な、なんだと・・」
そうだ、大いなる素早い攻撃は所詮はおとり・・。
本当の狙いは・・ここからッ!
「見よッ!これぞ夜桜流奥義・・月光ッ!!」
「はいそこまでー!帰るわよ、秋斗」
「えっ?霖雨様ッ!?」
「えっ!?霖雨様ッ!?」
ちょ・・今試合中なのになに勝手にフィールドに出て来てるの?
何やってんの霖雨様ァッ!?
「霖雨様ッ!どこまで自由人なのでございますかッ!今見れば分かるでしょッ!敵と戦って・・」
「それより・・春風の方角で不穏な動きを観測したわ・・今すぐ戦いを止めて帰りましょう」
「なッ!?まことでございますかッ!?」
「本当よ~どうやらまんまと敵の罠にハメられたわね・・ま、輝夜ちゃんは救出できたし・・銀ちゃんにお土産はできたしね!帰っても特に問題はないわよ!」
「(銀殿に土産?)」
色々と意味不明な点が多いが・・まあ仕方があるまい。
元よりよめない人物なのは承知の上だ・・ここは大人しく従おう。
・・彼女には悪いが・・決着はお預けだ。
「あなうんさあ!聞こえているのなら聞け!この勝負・・俺の反則負けとしておけッ!」
『えっ!?いや・・そんなこと言わなくてもするつもりだったけど・・まあいいや・・ただいまの試合は夜桜選手の謎の反則負けにより・・勝者巴選手ッ!』
「待てッ!そうやって逃げるつもりかッ!貴様やはり兄同様・・」
「勘違いするな・・そして興奮するな・・いずれまた決着をつけようぞ・・それまでこの勝負・・預けた!」
「夜桜秋斗ォッ!・・クッ!霖雨様!霖雨様も去る前に言う事があるはずだッ!何故この様な無粋な真似をしたッ!言えッ!」
「うーん・・急用・・って奴よ多めに見てちょうだいな!」
「なんですかッ!その急用って!試合を妨害してまで・・止めるほどだと言うのですかァァ!答えろォォッ!!地上の者共ォォッ!!」
後ろから聞こえる怒りの訴え、匙は投げられた、どうしようもない。
霖雨様が自由奔放なのはいつもの事だが・・今日はいつもに増して酷い。
一体、どんな事があったというのだろうか・・。
あんなにも巴殿を怒らせてまでの帰還・・正気の沙汰ではない。
「(あんな事になってますけど本当にこのまま去るおつもりですか!?)」
「(大丈夫よ・・全ての責任は私が背負うわ・・安心しなさいな)」
「(恩にきます・・ですが面白半分で我が命をもて遊んだ事は後で説教させていただきます)」
「はう・・悪かったわよ・・」
「そう思うなら・・最初からしない事です」
「ひゃい・・すみません・・」
「全く・・困ったお人だよ・・」
霖雨様・・本当に反省しているかどうか怪しいがまあ・・大丈夫だろう。
見た目こそお気楽でやんわりとしたお方に見えるが。
実際はその中で我々には理解できないくらいの事を考えている。
もっとも・・それをもう少し手っ取り早く教えてほしいのが悩みだ。
今、まさに・・回りくどい様な状況と言える。
と言うより・・まるで・・どんな状況でも気楽・・。
果たして本当に霖雨様の着いていく先に・・本当に帰る意味があるのか?
俺は・・不安しかない・・。
心残りの大きなモヤモヤとした中・・この月杯とさらばする。
なんだか・・やるせない気持ちだ。
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