無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章41 「仲間なら」
あの日からジン様の事が大好きでした。
強く、凛々しく、見えない未来にの先すら己が手で切り開く姿。
まさしく、私の理想としたお方の姿でした。
絶望を抱く者の前に彼は希望として現れてくれました。
私も一度は絶望を抱いていた。
けれども彼は、それでも希望として人の前に立つ事ができました。
私は惚れてしまったのです、彼のその象徴的姿に。
暗黒に満ちた肉奴隷時代の私には彼と言う存在が愛くるしいほどに好きだった。
私が貴方に仕えていた時代からずっと大好きでした。
心が苦しくなるほど、心がときめいてしまうほどに。
不思議でした、鬼となって多くの命を奪った私にその様な感情があった事が。
どんなに頑張ってもそんな感情なんて抱けない。
そんな事を思っていた私が、その様な感情を抱いていける様になった。
無表情で冷徹で無慈悲だった私が初めて感情に開花をさせた時でした。
喜びも怒りも悲しみも楽しさも、全て貴方のおかげで開花する事ができた。
真っ白だった紙に、色彩の絵画を描いてくれた事今でも感謝しています。
今でも、喜びだと思っています。
だから、貴方がその先の未来どのような結末でも。
どの様な道を歩もうとも、私は貴方に尽くします。
たとえこの恋がみのらなくても、この願いが叶わなくても。
私は、貴方に仕える者、それだけで構わないんです。
「そう、それだけで・・構わない・・」
この胸に、そう抱けるのは最後だろう。
このゲートをくぐれば私の戦いは始まる。
そしたらもう全てを忘れよう、戦いが始まれば私はまと鬼となろう。
きっと相手はあの者だから、私には分かる。
歴戦の封印された力が解き放たれた今なら分かる。
次の相手、相手の気配、オーラ、何もかもを察せる。
私の力とその戦闘への強い本能はもう抑えられないほどに強くなっていく。
けれども、それならばいっそあの時想いを伝えれたのは間違いではなかった。
間違っていなかった、あの時伝えなかったたらきっとその先の未来では何が起きていたか。
これで良かった、孤高になれて本当に良かった。
ジン様は別の人の下へと行ってもらって良かった。
今はもう、メリル様だっていない、私を信じて今も強くなるために特訓をする。
メア様は・・元からそういうお方でしたけど。
私の背中には、もう何も背負っていない。
だから、ここで全てを終わらせよう。
孤高の私に何も失うモノは 何もない。
行こう、その先のには私の終わりがそこにある。
この大地に立って、いつもの様に構えれば全てが終わる。
解放しよう、好きなだけ暴れよう。
何もかも、忘れていこう。
◆
「さて、ようやく戻って来た・・か」
「長かったわね~・・あ、もう降ろしてもらって構わないわよ?」
「ああ、分かった」
ようやくこの月杯の控え通路へと戻る事ができた。
長かった、散々クソほど迷って何処が何処なのかサッパリ分からなかった。
全く、地下迷宮は二度とごめんだね。
「うーん・・そろそろ調子が戻って来たかな~?」
「早いな・・結構長い事生気を吸い取られたりしたんだから死にかけかと思って
いたが・・」
「どさくさに紛れ込んでアビスから奪われた力も何もかも奪い取ったからね」
「なーるほど・・どおりで・・」
この姫様、実は一人でどうにかできたんじゃね?
って言うレベルで強い気がしてくるんだが。
気のせいか、それとも気のせいじゃないのか?
現実は果たしてどちらなのか・・。
なにはともあれ、今は考えるのは止そう。
「あら、どこの誰かと思えば・・ポンコツのクソッタレ最低無能女たらしの馬鹿で最悪の女たらしの女の敵の夢見すぎボーイのゼラチン脳みその中二病のかっこつけ阿呆じゃない」
「っと・・ひどい出迎えだな・・メア」
「メア?」
「ここに来る前に俺がチームに引き入れた子、中々の毒舌だけど・・悪い子じゃないよ」
「まあ・・それだけ言えるなら・・確かに優しい子ね」
階段を上がれば地面にひどいくらい耳に鳴り響く足音。
その足音共に段々と罵りが聞こえ、それが頭からポンポン思い浮かんだかのような即興。
耳に近づけばそれは恐ろしいくらい心に刺さる毒の針。
俺の横に止まり、言い終わるのを待ちふと振り向けばそこにはメアがいた。
「これだけ言うのは当然・・最悪よ・・最悪、貴方がいない間どれだけ大変だったか・・」
「留守番・・ってわけじゃないけど・・ありがとう、みんなは?」
「貴方がいない間、メリルは決勝に合わせて特訓再開、許可は鬼ちゃんが出した」
「二回戦は勝ち進んだんだ・・」
「おお、ジンのチームは今は準決勝って奴だね!!」
「まあね、私は余裕・・正直メリルちゃんも戦いって奴を学んだんじゃないかしら?」
「俺が知らないところでみんな成長していく・・良かった・・みんな別々の道を・・」
「たった一人を除いて・・まだ成長しきれてない子がいる」
「・・ッだよな」
「ん?成長?何がどうなっているの?」
メアの話すトーンの重さが変わらない事から予想はしていた。
俺が一人の少女の成長に浮かれている間に一人の女は苦労していた。
きっと、あの時もそうだろう。
やっぱり無理してあの言葉を放っていたのだろう。
俺を心配させまいと、そう思って。
知っている、どれほど長い期間アイツと一緒にいた事か。
俺はアイツがどれだけそういう立場に弱いのかも知っている。
きっと考えれば考えるほどに辛くなる。
背負えば背負うほどその心に余裕は無くなる。
アイツはそういう奴だから。
笑顔の裏に必ず、救いの手を待っている。
一番、大人で一番成長の仕方を知らないのは鈴蘭だ。
心の広さ、優しさ、尽くすと言う意味、それらを理解しているのは鈴蘭。
それでも、彼女自身が成長するとはおそらくない。
歳をまたげばまたぐほどに成長は衰える。
若さの違いはそこに出てしまう、メリルはその若さゆえに成長ができた。
鈴蘭はもう、何年も生きたからその成長の仕方が分からなくなってしまっている。
限界って奴を自分で迎えてしまっている。
そんなアイツに、何かしてやる事は果たしてできるのだろうか。
いや、してやる権利は俺にあるのか?
あんな行為をしてまで輝夜を助けにいった俺に今更鈴蘭を救う権利が俺にあるか?
鈴蘭はそれを許してくれるのか?
「貴方なら・・分かるんじゃない?」
「うッ・・」
「分かるならあの子背中押せばいいじゃない」
「する権利がない・・と思うんだよ」
「ジン・・でも仲間なんでしょう?」
輝夜の言う通りだ、確かに仲間だ。
心がギュっと縛られるほど辛くなる。
こうやってやせ我慢を続ける度に辛くなる。
心の奥底では背中を押してやりたいと思っている。
けれども、それが正しいか違っているのか分からないんだ。
「仲間だけど・・仲間だけども・・」
「ウジウジ言ってんじゃねぇよ・・やれよッ」
「グッ!?」
「(急に怒鳴り始めた?!)」
せ、性格が変わった・・何事?!
腕を組んで怒鳴る姿・・本当に何事?!
「お前気持ち分かってんだろ?分かってやれるんだったら行けよ・・行ってやれよ・・行ってやる以外に何がある・・てめぇが背中押さなきゃだれが押す?」
「め、メア・・」
「孤高が全てなんですか?孤独で生きたら最強なんですか?孤独から私強くなりました人を殺せるようになりました悪人から怯えられる人間になりましたついでに世界から怯えられる人間になりました私には才能がありすぎました命を奪える才能がねッ!!・・って・・言わせたいんですか・・大事な大事なお仲間さんでしょ?」
「・・・そうだよ・・大事な仲間だよ・・でも俺はアイツに言っちゃいけない事を言った・・アイツを傷つけた・・だから俺に・・それを言う資格はない・・背中を押す・・権利もない」
「ジン・・ッ」
メアの言う通りだ。
仲間だから助けてやりたい、力になってやりたい。
けれども酷く傷を付けた俺が、そんな事をできる権限はない。
俺がそんな事をする権利あるわけない。
「この馬鹿野郎ッ!!」
BAGONnnnnnッ!!
うぇぇぇぇぇッ?!
なんで!?
なんで殴った!?
今このタイミングでグーってあるか!?
しかも頬を直接だよッ!
「じ、ジン?!明らかに今別次元の音がしたけどッ?!主にコミカルなッ!!」
「大丈夫・・ギャグ補正で生きた」
「良かったな・・ギャグシーン補正じゃなかったら死んでるぜ」
「ていうか俺はなんで殴られたの?!」
「えっ・・この方がアニメになった時味出るかなーって」
「そういう問題かよッ!深刻なアレじゃなの?!明らかにシリアスシーンだったよね!?」
「せやな」
「せやなじゃねぇよッ!!」
「でも、そんだけ余裕できたじゃん」
「えっ・・?」
「お前はそれでいいんだよ、冷静に状況を把握して最初に考えついた事を言う、時にはツッコミ、時には総ツッコミ・・お前はさ・・余裕あって誰かの背中を押してやれる奴でいいんだよ、ていうか・・さ」
「な、なんぞ?」
「お前・・誰かの背中を押しちゃいけないとかってルール・・あんの?」
「ない、そんなルールない・・法律でもない」
「(ほ、法律は当然じゃないかな・・ジン)」
「それでいいんだよバーカ、何が権利だ権限だ・・誰かの為に誰が力を貸してやるのは当然でもなければ・・自然だ、お前は今その自然をやろうとしただけ・・なんか違う?」
「・・そうだな・・その通りだわ」
ダイヤモンドより硬い硬い鈍器で殴られた気分だけど・・目が覚めた。
分かったわ、自分が間違えてたわ。
兄さんの言葉は正しいのは確か、でもそれを今度は思い込みすぎてた。
今度は自分を出せなくなってた。
兄さんは多分それも含めて言ってくれていたんだろうけど。
メアがそれを気づかせてくれたのかもしれない。
良かった、挟まって大岩からなんだか強引に出された気分だよ。
メアは、俺の背中を押してくれたんだね。
「心が・・軽い・・今なら行ける気がする」
「あっそう・・ずいぶん楽そうだな」
「うん、もう気持ち固まったからね」
「私の運命の人が・・こんなところで悩んでる顔なんて見たくないから・・治って良かった!」
「悪い悪い・・不安にさせたな」
「ううん、全然~!」
「イチャついてねぇで行くぞ・・さっさとしないと終わるだろうが」
「あいよ・・通りでメリルにも声をかけるから・・急がないとね」
「そうとも・・じゃあ・・コホン・・行きますわよ?」
「おう!輝夜、一緒に来てくれるかい?」
「ええ!良くってよ!」
メアの言葉で俺の体は軽くなる。
その言葉に全ての重しが消える。
全身にあったあんなにもひしめく重しが軽く感じるなんて。
俺にはこんなにも支えてくれる仲間がいた。
こんなにも大事に思ってくれる仲間がいた。
俺は恵まれていた、それなに俺は自分を邪険にした。
馬鹿だよ俺は、最低だ、ゴミクソ野郎だよ。
だけど、それでもいい。
それでも、今は行かなくちゃ・・今度は鈴蘭の下にッ!
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