無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章33 「NOロジカル」
私は弱いままの自分が嫌いだった。
巫女である以上、民を守り、声を聞き、全てを見れる者、そんな人になりたいと思っていた。
ずっとそれは叶わない幻のモノだとずっと思っていた。
私の様なか弱い乙女には到底同じ舞台には立てないと思い続けていた。
それでも、私はいつの日もその体に鞭を打って民を守り。
悲鳴の声を聞いては助け、形だけでもいい、せめて近い形で夢を見させてくれ。
そんな願いを続けていた、いつしか戦争で巻き込まれて星奈様はいなくなった。
私は悔しかった、悲しかった、何もできない自分がとても悔しかった。
未熟で、成長もできず、前を向いて歩いて来れなかった私を何度も悔やんだ。
人生において一番何が怖いか、それはいつまでも変わろうと思えない自分である。
失敗を繰り返し、簡単な事さえも一つの甘えからいともたやすくミスをする。
そういう人間が世の中で一番繰り返すんだとおもう。
周りは成長し、どんどん自分だけが置いてけぼりにされる。
階段を踏もうとしても、上から来る未知の恐怖に立ち向かえないまま立ちすくむ。
前に進む事ができない、これもまた人生を破滅させる原因なのかもしれない。
私は若いのにも関わらず恐怖も悲しみも悔しさも何度も経験した。
だからあの日からもう、これ以上無力でいるわけにはいかないと決意した。
私は先代の想いを引き継ぐ為、力を身に付けてやると、知恵も身に付けてやると。
必死に努力をし続けた、いつか立派な一人前の巫女になる為に。
そう思いながら18となった私に現れたのは魔王様だった。
ここから、私の道は切ひられかて言ったのだ。
◆
「ひっさびさじゃのうッ!月の民その代表格とも言える・・月の勇者桃子ッ!鬼を何体とも殺し島を歩いた伝説の鬼殺し・・一度やって見たかったのじゃ!」
カァンッ!キィンッ!スシャッ!
小さなお椀から出てそのお椀を盾の様に構え。
長く伸びては縮むトゲトゲとした青い蛇腹剣を用いて戦う晴明の姿。
何度も激しく相手に向かい剣を交わらせ、攻める姿は小人ならざる人の姿だった。
「お久しぶりですッ!晴明様ッ!貴方ほどの腕の者と交わうなど滅多にない・・同じ剣豪としてあなたの実力は認めておりますッ!此度の戦いはぜひ楽しみましょうッ!」
キィンッ!カカンッッ!シャン・・ドォンッ!
対して何度も剣を交えてはアクロバティックにバック転で後ろへと下がり避ける桃子。
隙あらば自分の画竜点睛の剣で晴明を突き刺し切りかかろうとする。
両者一歩も譲らない激しい攻防戦、こちらはこちらで完全に独自の勝負に持ち込んでいる。
「やりますねぇッ!ですが・・」
「ぬおッ!貴様・・能力をッ?!」
「ハァァァァ・・・ッ!!」
左目を右手で抑え、指の隙間からのぞきこむ様に構えはじめる桃子。
そしてそこから黄金の輝き放ち、この周囲一帯全てを照らし尽くす。
シュバァァァァンッ!
大いなる輝きが晴れたその時一人の月の勇者の左目は美しい山吹色の様な黄色に変わり。
右目は聖なる輝き秘めた唐紅の様な美しい輝かしい赤色になっていた。
風を吹かせてバチバチと完全と言わないが覚醒した姿を見せる桃子だった。
「勝負・・ここからですよッ!」
「カッカッカッ!それでよいぞ!ならば私も全力を尽くさなくてはなるまいッ!」
強者二人が盛り上がる最中でもう二人の試合も熱き盛り上がりを見せていた。
そう、それこそがルイカと出雲の対決である。
観客の視線は一体どちらに向けばよいのか、まったく分からない状態であった。
◆
「マジカル・・制裁・・YES・・マジカル・・NO・・ロジカルッ!【魔法連正砕拳】ッ!!」
ババババハッッ!!
素早い凄まじいほどの連続的攻撃だ、私がつい見切れなくなってしまうほどの最速。
両手から放たれる音速の攻撃にすべてを対処しきれずいくつか攻撃を食らってしまうッ!
「【魔女放射脚】ッ!」
「グァッ!!」
シャグァァッ!!
体制を変えて素早く次の技に変わり横蹴りを入れて来たッ!!
なんて攻撃だ・・防御を崩して強引に飛ばして行くなんてッ!
「まだまだァァァッ!!」
「うぅ・・ッ!!」
カァンッ!ドォォンッ!ザァンッ!
先ほどの大ダメージによっぽど怒りが芽生えたのか突然技を繰り出し続けるルイカさん。
魔力を1か所に集中させてはこちらに殴り込み、蹴り上げるの動作を繰り返す。
完全に戦闘携帯・・さきほどの意表を突いたハイテンションが完全に消え失せているッ!
一回の打撃で伝わる・・魔力を使いこちらに畳みかける執念とその思い。
まるで負けてたまるかという信念を貫く様に攻撃を仕掛けて来るッ!
負けたくない・・それはこちらも同じ・・ッ!
だから私も攻撃を連続的に受けつつ・・反撃の機会を何度も狙っているッ!
たとえどんな窮地で攻め込まれていようが反撃のチャンスは何度でも存在するッ!
死に物狂いで探れ、目を研ぎらせろ、相手の攻撃を全て見切って行けッ!
勝利を勝ち取りたいと思うのなら取りに行けッ!
「(私の戦う理由はどこにあるのか・・)」
「ドゥルァァァッ!!」
グゥォンッ!
腕でその両手から放たれる拳を抑えた瞬間、クロスさせて抑えていた手を完全開放するッ!
バァァンッ!
殴られる瞬間にため込んだ闇の魔力と光の魔力の混合魔法ッ!
この腕に互いの魔力を集中させることにより、防御時なし崩しの状態にする衝撃を放つッ!
大きなこの大衝撃波による攻撃によりルイカさんの姿勢は崩れたッ!
今が・・絶好のチャンスッ!
「(私の戦う理由は・・ここにあるッ!)くらえッ!【真風】ッ!!」
右手で小刀を体に差し込みに行くように構え左手でその右手を押すようにする。
そしてここに風の魔力を咥える事により発動する風の特攻技ッ!
これぞ・・私の真骨頂ッ!
「その程度ォォォォォォッ!敵じゃなァァァイッ!!」
ガァンッ!!
手と手の間を下から蹴り上げて来た・・だとッ!?
あの空中で飛ばされている最中完全に半気絶の状態にまで持ち込んでいたと認識していた。
しかし、その甘い考えが失敗へと導いたかッ!
油断している私に武器を手放すように見事に小刀を持っていた私の手は。
するりと小刀が飛んで行き、いともたやすく手を崩されるッ!
手どころの話じゃない、体制まで崩れ始めたッ!
このままでは・・マズイッ!
「そのガラ空きの姿勢・・もらったァァァッ!!奥義・・【大魔法大車輪】ッ!!」
スォシャンバァゴォンッ!!
何て動きをするんだこの魔法使い・・ッ!
体をとにかく強引に神速の様に次々と拳を振り下ろし振り上げ。
脚を蹴って蹴り上げ上からかかと落とし、それだけではない。
とにかく無我夢中に空中に浮きながら私に連続的に攻撃を浴びせて来るッ!
しかもこの攻撃を半場防御しきれてないッ!
蹴りを顔面に直接喰らったり、届くはずのない脚や腹にまで足の脅威が届くッ!
この攻撃は魔力が増幅しすぎて何処を受けてもまともなダメージになってしまうッ!
このまま受け続けてまたチャンスを待つかッ?!
いや、でもその頃にはもう体は動いていないかもしれないッ!
彼女のこの最大の動きを発揮しているであろうこの技を受けきった後に。
私は大技を喰らってまたまた敗北への道を突き進む事になるかもしれないッ!
ダメだ、今こんな場所でずっとチャンスを待っていたら何もかもが終わってしまうッ!
それだけは避けなくてはいけない、何としてでも避けてやるッ!
そうだ、敗北につながるのは待っているから・・つまり・・ッ!
「私が・・私自身から・・ッ!!」
「何をしようか無駄だッ!この攻撃に死角があるものかッ!完全無敗の完全無敵の奥義ッ!今までこの力に屈服して来た者は五万といるッ!私はやはり通常時から天才的才能を持っていたッ!だから優れた力もあった、知力も誰にも劣る事は無かったッ!」
「動け・・動くんだッ!!」
「私に勝つ事なんざ百億万年早いんだよォォォォッ!!」
「強く・・ありたいのならッ!!」
ズガシャァァッ!!
たとえどんなに知力がどんなに優れていたとしても。
たとえどんなに力が優れていたとしても。
どんなに恵まれた環境に育っていたとしてもッ!!
最後に勝つのは努力を成せる者、信念を貫ける者ッ!
諦めずに最後まで勇気を振り絞って力を持って前に出る事ができるのならば。
その体に力を入れろ、そしてその足を一歩前進させるんだッ!
力ある限り人は戦う事ができる、命ある限り人は人生を歩く事ができる。
知力ある限り人は誰かの為に誠意を尽くす事だってできるッ!
生きてて何が苦しいか・・生きてて何が辛いか・・生きてて何が悲しいかッ!
やればできる事をやらずにいる事ッ!
努力も何もせずただその場に止まっている事ッ!
そして・・何もできない事だッ!!
私はもう苦しみも辛さも悲しみも全部この体に味わせて来たッ!
絶望なんて怖くない、自分の抱く未来ある限り全てを断ち切る。
定め、因果、法則、この世の理さえも全てを超え行けるッ!!
「(こ、こいつ・・ありえない・・私の渾身の頭突きを・・肘打ちで顔面を狙い避けた・・だとッ!?ありえない・・そんな事が成立したのは初めてだ・・今までそんな事は一度も無かったッ!!常識破りの根性論・・コイツ・・ただの巫女なんかじゃないッ!!)」
「や、やった・・あの大技をかいくぐって突破してやったぞッ!!」
「一度突破されたからなんだと言うんだッ!私にはなんの問題でもないッ!」
「(いや・・ここからだッ!)」
そうだ、あるべき力を使って戦いを制しろ。
私には動きを見切る眼力がある、拳を防御できる手がある。
脚を跳ね除けるほどの力だってある、魔法だって覚えたッ!
勝利の為の努力をこの瞬間までずっと特訓して来たッ!
私は戦いを重ねるごとに感じていたはずだ・・強くなっていく事を。
弱かった自分がここまで努力をして戦い続ける事ができるようになった。
先代に誇れるくらい強い女になる事ができたッ!
私はこれからも強くなれる、もっと強くなれるッ!
もっともっと高みを目指せるッ!!
「全ての攻撃を防御しているですって・・ッ!?そんな・・ありえないですわッ!」
「もう散々見てるんですよ・・その攻撃もパターンも次出る攻撃も分かる・・ただ勝利に一心に向かう私には・・その動きは遅すぎるッ!!」
「だったら・・私がただ能力を発揮するだけの話ッ!!」
バッシュッッ!!
超絶の神速ッ!!
今、一瞬で取り出したノートにペンで何かを書いたッ!!
み、見えなかった・・今の動きはあまりにも須臾の時間で見えなかったッ!!
「アッハ☆やりましたわ~☆ルイカの完全勝利ここに決まりですわねッ☆」
「(そして、動けないッ!!マズイ・・これが彼女の能力ッ!!)」
「指定できるのは1個だけでも~☆・・これだけ無防備なら殴りたい放題だなッ!!」
ドグシャァァァッ!!ガガガガガガッ!!
体全体が動き始めたッ!
だがそれはこの痺れ殴られ続け攻撃の最中での話ッ!
身動きが取れても実質何もできないッ!
どうする私、一体今は何を最優先にするべきだッ!!
防御か、攻撃か、またまたそのどちらでもない意表を突くかッ!?
いや、今の私なら・・こんな攻撃に惑わされたりしないッ!
確実に狙うんだ・・逆転のチャンスは必ず訪れるッ!!
「これで・・ラストォォッ!【彗星拳】ォォォォォッ!!!」
ドガシャァァァッ!!
結局何もできずに地面へ叩きつけられた。
砂煙をまき散らし無残にもその悲痛の願いと共に私は大きくダメージを負った。
あまりにも残酷な力差、あまりにも無力だった。
「ハァ・・ハァ・・最初から戦わなければこんな事にはなってないのよ・・ッ!ざまぁないわねぇッ!!」
シュッ・・バシュゴォッ!
だが、私は叩きつられ殴られる最中でも後方の様子を見逃してはいなかった。
私が飛ばされた先に見えたモノ、それは【弾き飛んだ小刀】だ。
地面へ突き刺さり、まるでこの瞬間の為に待機していたかのような気高き姿。
小刀・・いや【烏丸】、お前がもし新たな主人として私を選んでくれて。
そこに立っていると言うなら、どうか聞いてほしい。
どうか私の想いを受け取ってほしい、私はモノであるお前を【命ある生命】として見て頼む。
お前に役目を与えて究極的に困難な難題を押し付けたい。
どうか聞くだけでもいい、失敗してもいい、だから頼む、聞き届けくれ。
私は今からお前をアイツの動きを止める為の投てきとして投げる。
真っすぐにあの体の中心に胸郭に当てる、確実に当てにいく。
お前に今から混沌の魔力を授ける、私の精一杯の力の施しだ。
巫女として半人前だが初めて誰かに力を与えて戦いに救済を与える事ができる。
私の念願の夢の1つ、それは誰かの力になる事だ。
それはお前の事でもあるんだ烏丸よ、誰でもないお前だ。
この一回を一歩として私はこの巫女の道をまた一歩踏み出していく。
私は、これを軌道として生きて行くッ!
だから・・頼む、お前を信じて、私自身を信じて。
今、全てをここに賭けるッッ!!!
「(烏丸・・ッ!お前の答え・・私は確かに見届けたッ!!)」
「ば、馬鹿な・・私の・・胸郭に・・小刀をッ?!(しかもただの小刀じゃない・・全身に伝わる様に肉体を麻痺させる闇の魔道の力が注がれているッ!)」
お前は私を侮っていた、自分なら私に勝てると。
私もお前に勝つと、どちらもまだまだ【慢心】があった。
努力はまだ・・終わってもいないのに、どちらも未来に勝ちが見えていた。
私は、この戦いの最中にもう見えていた、この結末は【勝利】では終われないとッ!
私もまだ甘かった、だからこそこんな手段でしか私は仲間に・・風を伝える事ができないッ!
桃子さん・・後は頼みましたッ!
勇気を振り絞れ、知恵を捨てろ、強欲になるな、怠惰な自分を切り裂け。
暴食に全てを貰うな、傲慢に考えるな、もし勝利したいのなら・・。
捨てなければならない・・【甘え】をッ!!
「全身・・全霊・・ッ!!」
「(ぬかっていた・・私は勝てると・・思っていた・・だけど・・予想外すぎた・・コイツの・・爆発的成長力の速さに・・気づけなかったッ!!)」
ルイカさんの両肩を掴み、後は脳天に魔力を集中させるッ!
そして、息の付く間もなく放つッ!!
ドグァァァァッ!!
その場に大衝撃波を作るほどの大打撃・・頭突きだッ!
魔王様秘伝の技の1つ、体に負担がデカい代わりに相手に大きな精神ダメージも与える。
諸刃の剣の技、しかしこれを使うにはタイミングが必要。
一度でも放てば次は放てない、ならばその一回は確実に引き分けか勝利のどちらかで放つ。
となれば・・もう結果は見えていた。
私もルイカさんも・・もう・・瀕死ギリギリまでやり合った後ならば・・。
「(良かった・・魔王様・・私・・ちゃんと・・戦える様に・・なったよ・・)」
「(どうして・・何が・・何が・・何が私を敗北に・・導いた・・?)」
この時の私は、もうすでにまた暗い暗い眠りの中へと誘われていた。
深い深い眠りの中、ただただ、役目を全うできたか、それだけが・・心残りだった。
『マジカル☆ルイカ選手と出雲翡翠選手ダブルノックアウトッ!なんと試合は白熱の一体一に持ち込まれていったァァッ!!』
「ルイカ・・負けてしもうたんか・・」
「ありがとう・・出雲ちゃん・・戦いの中で・・私は・・もらったよ・・思いも熱意も・・そして・・勇気もッ!」
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