無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章30 「今は分からなくても」
初めてかもしれない、誰かにこんな事を言うのは。
初めてかもしれない、胸が苦しくなるのは。
初めて感じた、きっとこの先の関係に傷を付ける事になって。
とっても辛くなる事を恐れてまで、こんな事を言ったのは。
心の中ではずっと分かってた、誰かに振り向いてと言われている事も。
ずっと分かっていた、分かっていた上で、俺は言った。
俺には、振り向いていかなきゃいけない人ができたって。
確かに大事なんだ、お前らの事だってずっと大事に宝って言って来た。
けれども、そうじゃない、それは支えられる友の様だから。
胸が苦しくなって、こんなにそいつに必死になりたいなんて思った事。
今回が初めてなんだ、たった一瞬なのに、もっと近くに寄り添いたいって思ったんだ。
助けてやりたい、救ってやりたい、守ってやりたい。
側に、居たいんだ、ずっと側にいたいって思った。
だから、たとえ好意を向けられている人物に嫌われようと。
言わなくちゃいけない、前に進みださなくちゃいけない。
決断、しなくちゃいけないんだ。
本当に本当に好きなら、伝えるんだ、その気持ちを、想いを。
自分の中でも、正直何言ってんのか分かんねぇけど。
とにかく、好きになっちまったから、言うんだよ。
見た目がどうとか、中身がどうとか、そうじゃない。
愛に迷いがない事を言うんだよ、こんなにもそいつを好きになったって。
言うんだよ、言わなきゃ、ダメなんだよ。
きっと、言わなきゃ、この先もっと・・生き地獄を味わう。
コイツらにだって、もっと傷を付けるかもしれない。
だから断とう、今ここでッ!
迷いを全てここで断罪しよう、今この場だッ!
「じ、ジン様・・?」
戸惑う理由も分かる、突然そんな事言われて戸惑わない奴はいない。
きっと、お前の中では今とっても困惑していると思う。
それでも、もう決断したんだ、たとえ困惑されても行かなきゃならない。
「・・鈴蘭、分かってくれ・・いや、分かる方が難しいと思う・・それでも、俺は行かなくちゃ行けないんだ、あの子の下に」
「あの子・・?」
「ここに来た理由もそれが最初っからなんだ、夢の中で会った女の言葉を信じてここまで来てたんだ、勝利と生き残りに必死になってたのもきっとそれが関わっていたから・・俺は最初から全部・・そいつを理由としてここまで来た」
「・・・」
分かってた、そんな悲しみの目で俺を見る事なんてとっくの昔から覚悟していた事だ。
今更悔やむ事なんかじゃない、今更後悔する事じゃない。
「鈴蘭、無理を承知で言う・・俺をその子の下へ行かせてほしい」
「・・・ッ」
さらに顔色が悪くなる鈴蘭の表情、まずいな、流石に嫌われたか?
胸のあたりをギュとつかみとても苦しそうにしている。
それもそのはずだ、今まで尊敬の眼差して見ていた相手が突然謎の行為をし始めたからな。
当然だ、この結果は当然すぎる。
覚悟を決めろ、どんな答えが帰って来るか大凡分かる。
「・・私は」
「・・・」
「私は・・ジン様の事が世界で誰より・・大好きだと思っています」
鈴蘭の静かな口から放たれた一言、それはあまりにも切ない言葉だった。
もしそれが俺の心のカギとなっていたなら。
今頃は互いのこの心を冷たくする事は無かっただろう。
全て俺が悪い、完全に俺が悪い、そうさせてしまった俺が悪い。
「大好きです・・ジン様・・」
「うん、俺は・・心を許せる友として好きだよ」
「私は・・永遠を愛してくれる者として・・本当に大好きなんです・・本当に本当に大好きなんです・・ジン様の優しい素振り、言葉、声、全て・・大好きなんですッ!」
「ありがとう」
「私、ジン様を嫌いになった事が無かったんです・・ずっとカッコよくて、ただ何かの為に一生懸命になれるジン様の事を・・嫌いになんてなれなかった・・でも・・今回で私・・ジン様の事が大好きじゃなくなりました・・」
涙を流しながら鈴蘭のはポツリポツリその悲しみの思いを流し吐く。
涙声で濁りつつも、その思いはしっかり口に出ている。
だが、きっともう、怒りの声を上げる頃だろう。
さあ、鈴蘭、言え、俺にしっかりとその思いを言え。
俺はたとえどんな答えでも受け止めてやるとも、どんな答えでも。
「私・・ジン様の事が・・」
「うん・・」
「大大・・大好きになりましたッ!!」
「・・うん、そうか・・えっ?」
い、今聞き捨てならない言葉を聞いた様な?
大大大好き、今確かにそんな言葉が飛び出したような?
「す、鈴蘭・・今俺の聞き間違いじゃなければ大大大好きって聞こえたんだが?」
「聞き間違いなんかじゃないですッ!私は本当にジン様の事が大大大好きなんですッ!」
俺は、その一瞬顔を下に向けていた鈴蘭が上げた瞬間。
そのとても辛そうな悲しみに表情に悲壮を感じた。
確かに彼女は悲しんでいた、確かに彼女は辛く胸を押さえていた。
それでもただ、笑っていた。
微笑んでいた、頬を赤らめて、目から悲しみの雫を出しながら。
彼女は微笑んでいた。
「私、ジン様がいつかそうやって他の女性に振り向いてしまう・・そんな気はしていました・・もしそうなった時・・何も言わず・・何も言えず私の下から先立たれてしまったら‥私は嫌いになってしまっていたかもしれません、けれどもジン様は後の事を顧みず・・私に想いを伝える機会をくれました、そして、自分の気持ちもハッキリ伝えてくれました」
「鈴蘭・・」
「私は嬉しいんです・・ジン様が私の想いに気づいて・・ちゃんとそういう事言ってくれて・・もし気づいてもらえなかったらどうしよう・・そんな心配ばかりしていた私にジン様はやっぱり答えてくれました!私・・本当に嬉しいんです!」
止めてくれ、そんな顔で微笑み俺にそんな言葉をかけないでくれ。
俺はただ、君に俺の気持ちを分かってもらえるだけでいいのに。
どうしてお前は、お前はいつもそうやって気持ちを受け止められるッ?!
「わかんねぇよ・・鈴蘭」
「何がですか?」
「今のお前も、お前のそういうところとか本当に分かんねぇよ・・こっちはお前に殴られる気持ちで話してたんだぜ・・それを・・お前は・・ッッ!!」
「そんな事できるはずがありません、私はたとえどんな事があろうとジン様の味方です、ジン様がこちらに好意をよせてくれなくても・・私はジン様の味方です・・たとえいつか見放されても・・私は・・ジン様の味方です」
馬鹿だ、完全に俺って奴は馬鹿な野郎だよ。
1人の女にここまでの好意を抱かせてしまった。
叶うはずのない好意だと分かっててもずっと抱かせてしまっていた。
本当に俺は最低だ、最悪の男だ。
けれども、この優しさに俺は心を打たれてしまうよ。
だから、言おう、精一杯のお礼の言葉をここに。
「ありがとう、鈴蘭」
「どういたしまして!ジン様!」
最後の最後までお前はそうやって明るく笑顔で微笑むんだな。
最後の最後までお前はお前を貫くんだな、本当に純粋な奴だよ。
この想いを無駄にするわけにはいかない、行かなきゃならない。
押し出してくれた背中がある押し出してもらえる言葉がある。
行かなきゃならない、想いを無駄にしない為にも俺自身の為にもだ。
「鈴蘭、ありがとう・・本当にありがとう・・今はそれくらいしか言えない・・けれど・・もう一度帰ってこれた時・・その時は違う言葉を述べるかもしれない」
「はい、想い人を探しながら・・ゆっくりとそれを考えてください!」
「ああ、必ず・・探し出してみせるよ・・どっちもな」
「はい、必ず・・期待して待っています」
別れ際になればなるほど、それは悲しく切なくなる。
覚悟を決めて立ち上がり歩き始めるごとにその視線は強くなる。
でも、もう振り返らない、振り返れない。
行こう、全ての答えを探しに。
「行ってくるよ、鈴蘭」
俺がその強き思いの一言を述べると鈴蘭はただ一心に。
鈴蘭もただ胸に秘めていたその強き想いを俺に述べてくれた。
「行ってらっしゃい、ジン様!!」
それを最後に、俺と鈴蘭は一度別れる事を決意した。
この先の事は全て鈴蘭や他の子に任せてしまうが、きっと大丈夫だ。
俺はみんなを信じている、だからみんなに俺を信じてもらうしかない。
必ず、帰って来るって事を。
信じて、待っててくれ。
◆
時は変わって熱烈の試合会場、ついに波乱の第二回戦の開幕だ。
魔王様に教わることを全て教わった私に、何も恐れるモノはないッ!
さあ、行こう、新たなる戦いの舞台へッ!
『お待たせしましたッ!これより第二回戦を開始したいと思いますッ!』
『第一回戦とはルールが異なり、今回はタッグによる一本勝負となります、先にリミットを超えた二人組、あるいは十秒間のダウンを決められた二人がアウトとなります』
『いたってシンプル、まさしく普通の試合となります!さあ、それでは注目の第一試合は巫女チームより出雲翡翠&天竜川桃子!』
「(キ、キタァァァァ)」
「巫女ォ、そんなに緊張せんでも大丈夫だろう・・」
「だ、だって初武器、初出場ですよ!?緊張するなと言う方が無理があると思いますよ!?」
「安心しろ、サポートに桃子がいる、この上ない万全なメンツだろう」
「いや、確かにそうですけど・・」
魔王様も私がどんな状況になろうともブレないなぁ・・。
このカリスマ性ちゃんと見習っておかないと・・。
「安心しなさい巫女ちゃん!いざとなれば二対一でフルボッコにしてやるんだからッ!」
「アハハ、桃子さんやる事がおっかないです・・」
桃子さんもすっかり気合十分って感じだ。
怪我の具合も本当にあっさり治っていったし、とても快調だろう。
私も特訓での怪我はない、それどころからさっきより動けそうな気がしてきた。
今なら自分の思い通りの戦いができるかもしれない。
頑張ろう、できる限りの全力を尽くそう!
『さて、気になるもう一つのチーム・・不思議ちゃんチームから天田 晴明さんとマジカル☆ルイカちゃんです!』
『!?』
ちょっと待って、この緊迫の緊張の中、今一瞬とんでもない名前が聞こえた。
聞き間違いであってほしいけど、この流れたぶん聞き間違いじゃない。
だって、私のチーム内のこの無言の間は多分全員同じ名前を聞いたはず。
と言う事は聞き間違いではないとう事なのだろう。
いやしかし、もしかしたらワンチャン言い間違いの可能性も無くは・・。
プシャァァァァァァァッ!!
あーダメだー、相手の選手入場口から突然大量の白い煙が噴き出したぞ。
コレ絶対アブナイ流れや、ダメな奴や、こっから始まる地獄だ。
そして、なんか会場からとんでもないキラキラとした音楽が流れ始めたぁぁッ!
「月光の~彼方から~教えて その気持ちィ~・・ヘイッ!」
作 ユバール
月下美人のアイドル
今日みたいな いい日に いい出会いがあると良いな
でもね ベリーバット 残念だけど 良いことはありません
今日はね 月光を 見上げて気持ち高鳴り
私は ベリーグッド 気持ちを上げて 頑張ります
私ってばこんなに可愛いから 誰もが嫉妬してしまう。
私ってばこんなにプリティーだから 誰もがみんな惚れてしまう
どうしたら罪から逃げれるかな? ああ分かんないや!(そう、ハイ!)
スターライトに 輝いて煌めいて目立ちゃっお!
ファンタジック☆ナイト 幻想的にクルクルリ
こんな私だけど 恨んだり 憎んだり しちゃダメだよ?(キャハ!)
ルイカ!ルイカ!可愛いルイカ!
ルイカ!ルイカ!世界一だぞルイカ!
ルイカ!ルイカ!最高だよル・イ・カ!
「みんな!ルイカちゃんは・・世界一かな~?」
『ィェェェス!!!』
とてもポップでアイドル調の曲が流れ終わり、会場は大盛況である。
ていうか、なんだこれは、どうすればいいの?
呆然とする私達である。
私から見える彼女は魔法使いのような紺色の帽子、金髪の前髪ぱっつんとしたロングヘアー、服装も魔女そのもの様なゴシックのような紺色、そしてふんわりとしたマント。
見た目だけなら確かに幻想的な子ではあるが、なんだあのキャピっとした感じ。
本当にこのライトノベルの登場人物なのかな?
「魔王様、私とっても雲行きが怪しくなってきました」
「心配するな、我も今胃が痛い」
「大変ね、私もここまで殴りたくなる子は初めてだわ」
「偶然だな桃女、俺っちも技キメてやろうかと思ったわ」
今この場にいるチームの意見が満場一致した瞬間だ。
意見どころか意思さえも一致してしまったような気もしてしまう。
それもそのはずだろう、突然現れてこの謎アイドル舞台は誰でも同じ反応を取るッ!
こんな無茶苦茶な舞台にされたんだからそれ相応覚悟はあるってことだよね。
第二回戦、初発からやらかしてくれたんだから、覚悟してもらいましょう!
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